第17話
チカチカと木漏れ日が差し込む昼下がり。一人の少女が目を覚ました。
その姿は少女というよりも幼女であり、齢を予想するに、まだ10にも満たないのではないかという程。
彼女はくわ……っとあくびをし、その健康的な褐色の身体を伸ばした。ずいぶんゆったりとした服が、その動きについていけていない。
「別に起きたってすることないのにね」
眠気の覚めた彼女は、そうポツリと呟いた。森はそれに、豊潤な果実を一つ、落とすことで応える。
それはコロコロと転がり、彼女の太ももに触れた。
奇跡に等しいその現象を見ても、彼女は表情一つ変えはしない。ただ当たり前のように、それを一口齧る。
「……森が祝福してくれるから、食べ物も探さなくていいし」
何を祝福してるのか知んないけど。
だけれど、自分を受け入れてくれる唯一の存在に、そんな皮肉は言わない。心の中でそっと呟くに留めた。
そしてすっくと立ち上がり、辺りを見回す。
ただ、彼女が敷いた強固な結界の向こうに、青々と茂った森が広がっているだけ。どこかに魔物はいるのだろうけれど、この森に棲む魔物は凶暴で、なんでもしつこく襲おうとするため、見つかれば場所を変えなければならない。
この森はめんどくさいか、つまらないかのどちらか。
森は彼女を受け入れて、恵みをくれたりするけれど、話し相手にはなってくれない。
彼女は赤い果物をしゃくりと齧る。
今回のは前のよりも、もっと甘いわ。こんな違いを分かち合える相手が、早く欲しいものね……。
「早く大きくなって、一緒にくだもの食べるわよ」
細く短い褐色の身体に包まれた、彼女の身長の四分の一ほどのそれは、まだなんの返事もしてはくれない。
それでも彼女は、自分と仲良く会話してくれる日を夢見て、言葉を掛け続ける。
「今日はいい天気だわね」
硬い殻の向こうにいるアンタには、天気なんかわかるわけないわよね。
言ってから苦笑いする。
「ねぇ、アンタ、早く産まれないの?」
早く産まれて、とてもとても長い孤独を癒してよ。
彼女がこんなに喋るようにしたのは、ここ数日のことだった。産まれる前の子供は、産まれる前でも、周りの音を聞いていることがある、という情報を得てから、こうしてことある度に話しかけていた。
その情報を得たのは、カウパティ王国という人里。彼女にとって、人里は孤独を癒す場所などではなく、ただの敵地。
一度見つかり、先代の『勇者』に17年ほど追いかけ回されたというのに、それでも行きたかったのだ。
彼女が腕に抱く、この――サラマンダーの卵を孵化させるために。
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