第9話

 

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 五月八日


 変わらない風景の中に閉じ込め、繰り返し繰り返し、終わりの見えない『作業』を行わせる。雪原でも砂漠でも暗闇でも、室内だっていい、穴を掘って埋め、穴を掘って埋めを繰り返させる。昼夜を問わず、延々と。


 これで人間は壊れる。最速で。

 人間は『変わらない風景』の中、『同じ作業』を繰り返せば壊れてしまう。


 自分は半ば、そのような環境に居たと言っても過言ではないだろうと思う。


 そんな中、自分にある外部での『仕事』が舞い込んで来た。


 そしてそれは、大臣直々の指名だった。


 もちろん、断れるわけがない。

 いや、断る気などさらさら無い。例えそれがどんな仕事であろうとも、自分は全うする。


 おっと、仕事仕事と連呼しても、自分が何の職に就いているのかわからなければ、何のことか想像もできないだろう。


 だからまず、手短に自分の仕事を紹介しよう。


 自分が勤めているのは、一言で言えば王国の治安を維持する仕事。制式名称は、王国保安執行部隊。

 業務内容は……いろいろある。

 その『いろいろ』の中には、飲酒も含まれているのだから、察して欲しい。


 だが勘違いはしないで欲しい。自分は仕事中に飲酒などは一切していないし、なまけてもいない。飲酒は上の男共(どうやって上に登り詰めたのか不思議な奴ら)がやっているだけなのだ。


 ……そのお陰で自分たち下っ端は、朝から兵力を上げる為の訓練、昼からは書類の整理作成、夜は寝るか、静まり返った街を見周り、という一日丸ごとキッカリ決まった仕事が押し寄せて来る。


 ん?争議行為ストライキを起こしたらいい?

 ……残念ながら、そんなことをしても放っておかれるだけだった。自分たちがやらされているこれらの仕事は、必要のないものなのだから。


 この国には『勇者』と呼ばれる、最強の正義が存在している。

 つるぎの勇者、やりの勇者、つえの勇者、こぶしの勇者、ゆみの勇者……。彼らは五人で国の軍隊そのものを勤めている。彼らの存在によって、国民は引き締められ、派手なことはほとんどしない。外部の敵も気にしなくていい。

 残る仕事は、ない。


 もう諦めた。これはどうにもならない。正義の味方は既に居て、この国は正義の飽和状態だったんだ。

 ……もし過去に戻れるのなら、正義の味方に憧れていた昔の自分を説得しに行きたい。止めるんだ、と。


 でも、今はそんなことは考えていない。大臣からの『仕事』が来たからだ。

 さて、ここで帰って来て本題の大臣から受けた『仕事』の話をしようか。


 大臣からの『仕事』は、自分が居た環境を変えてくれるものだった。

 その内容は、絶壁山に赴き、盗賊を倒した人物の善悪を調査する、というものだ。


 善悪の判断は、自分の主観または――自分が三日以内に報告に戻らなければ悪と見なす、ということになっている。


 ……そう。自分もついに、正義に加担できる日が来たのだ。世の中の役に立ちたい――正義の味方になりたい、という自分の願いが叶う、第一歩を、大臣たちは与えてくれたのだ。


 何もかもが変わらない、牢獄のような場所から飛び出し、秘境へと。


 もちろん、あのS級盗賊団が手も足もでないような男に、それも秘境に棲む、危険人物かもしれない人に会いに行くのは怖い。

 だが自分には、移動のために自分にはワイバーンが一頭支給されている。


 自分は女だが、正義の味方を目指すだけの力は持ち合わせている。十分、ワイバーンを乗りこなせるだろうということで、頂いたものだ。


 つまり自分は、とても期待されていると思う。


 ワイバーンという、準備が大変な乗り物を用意してくれたのだから。


 とにかく、自分は明日出発する。



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