お城には徒歩で


 ヴァリアッテ・スノーホワイトはお城には徒歩で行きます。


 歩いて6分ほどの距離なので、馬車を使ったりする必要がないこともありますが、あまりお城が好きではないので、ちょっとでも遅れて行きたいというワガママだったりします。


 久能は、そのあたりの事を見抜いていますが、何も言いません。

 久能もまたお城があまり好きではないからです。

 十二使徒からはお前のいるべき場所ではないとプレッシャーをかけられていますが、そんな事は正直どうでもよくて、ヴァリアッテが居心地が悪そうにしているのを見ているのがつらい、というのが主な理由だったりします。

 ヴァリアッテは、久能を足蹴したり、困らせるようなことを言ってきたりする方が見ていて安堵できるという個人的な見解によるところがあったりします。


「今日のおやつは何がいいのか迷う……」


 お城までの道のりで、ヴァリアッテは昼ご飯ではなく、おやつのことをもう考えていました。

 そのことで久能がくすっと笑うと、ヴァリアッテが後ろを顧みて、ぎろりとにらみました。


「……あ、今のは……」


 ヴァリアッテと並んで歩くのは外だと人目があるので久能のほうが一歩下がって歩くのですが、ヴァリアッテはそんな久能の考えを見抜いて、並んで歩こうとします。


「余と歩くのがそんなに不満か?」


 ヴァリアッテは久能のことを睨んだまま、意地悪くそんなことを言ってくるのです。


「でも……」


 久能は魔族からの突き刺すような視線を向けられているのを知っています。

 ヴァリアッテの一存で休戦したとはいえ、まだまだ人に対しての遺恨が消えたとは言えないからです。


「自業自得なのだから気にする必要はない。むしろ見せつけるべきなのだ。十二使徒が余を封印したにも関わらず、誰も助けようともしなかった。それに、十二使徒の口車に乗って戦争を始めた結果なのだ。自業自得といわずになんと言うのだ? だから悪意など無視すればよい」


 そう言いながら、ヴァリアッテは久能との距離を狭めるようにちょっと寄って歩くようにしました。


「むぅ……」


 ヴァリアッテは久能の困る顔を見るのが好きなのです。

 どうやって困らせてやろうかと思案しているようなところもあり、ヴァリアッテにとって、久能はやはり愛玩動物のようなものなのかもしれません。


 久能にとって、ヴァリアッテはどういう存在なのでしょうか?

 そのことを久能は深く考えたことがないので分かっていませんし、絶対的な存在ではなく、そこはかとなく御主人様だと思っている節はあります。

 久能はヴァリアッテが自分にとって何であるのかわかるとする日はくるのでしょうか?


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