ルカ・エヴァンヘリオの治療
ディエゴは教授に腕の怪我のことを指摘された途端に、怪我の痛みを感じ始めたらしい。
それまでも痛かったことは痛かったのであろうが、カイエンを糾弾している間は痛みを忘れていたのであろう。
「まあ、座りなさい」
教授はディエゴを座らせると、そっと彼の着ている冬物の毛織り物の上着を脱がせにかかった。ディエゴはこのトリニのペンシオンへ来るなり、この食堂へ入ってきたので、まだ外套を着たままだったのだ。
トリニがはっとしたように動いて、教授を手伝う。
二人がディエゴの腕から外套を抜き取った時、二人だけでなく、向かいに座っていたカイエンとヴァイロンの顔も緊張した。
外套の下のこれも毛織りの、なるほど裕福な両替商の息子らしい、品のいいシャツの左腕、その肘の下あたりが真っ赤な血潮で濡れていた。
これでは外套の袖の内側にも滲みがついているだろう。目の詰んだ材質の外套であったから外まで滲みでていなかっただけだ。
「ディエゴ、君、この傷ちゃんと医者に見せて手当てしてもらったのかね?」
教授がそう言いながら、シャツの袖をめくりあげると、血に染まった包帯が現れた。その包帯の巻き方は素人臭く、斜めに交差するように巻くことなく、同じ方向にぐるぐる巻いてしまっているためにずりあがってしまっており、医者の巻いた包帯でないことは、そこにいた誰の目にも明らかだった。
「私に見せて」
トリニが言うと、教授は彼女の顔をちょっと見て、すぐに怪我人の真横からどいた。
トリニは慣れた手つきでディエゴの包帯をくるくると取った。
現れた傷口は左腕の肘のすぐ下、その外側だった。大きな刃物による切り傷で、それも一つではない。
二本の傷がほぼ同じ方向に走っている。
傷口は赤黒く腫れ上がっており、まだじゅくじゅくと血がにじんできていた。古い傷ではない。まだ酷くは化膿していないところから見ても昨日一昨日に負った傷ではないか。
カイエンとヴァイロンは机越しにそれを見てから、顔を見合わせた。
裕福な商人の息子である。
自分で負った傷ならば迷わずに医者にかかるであろうし、誰かに負わされた傷だとしてもそうするだろう。治療費の心配をする必要がないのだから。
しかし、ディエゴのこの傷はまだ傷口が開いたままだ。これほどの傷ならば、縫わねばふさがるまい。
ディエゴには医者にかかりたくない事情があるのだ。
となればこの傷を負った事実自体を隠そうとしていたとしか思えない。
「これを使え」
血が出続けているのを見て、カイエンはテーブルの周りを杖をつきながらトリニたちの方へ回り、自分のハンカチをトリニに差し出した。一緒に動いたヴァイロンが一瞬、カイエンの顔を光る目で見たが、すぐにまた目をそらした。
「今朝、私の乳母がアイロンをかけてから渡してくれたものだ。まだ使っていないから、清潔だろう」
カイエンがそう言うと、トリニはちょっと驚いた顔でカイエンの顔を見たが、すぐにハンカチを受け取り、それをそっと指先だけで開いて内側の部分が傷に当たるようにすると、それを当てて上から押さえた。
「これ、誰かに襲われてできた傷じゃないの?」
トリニが冷静な声で、そう言った。言いながら、教授の方を見る。
教授がうなずいて、台所の方へ入って行き、やがて、木の箱を持って戻ってきた。勝手知ったる他人の家、と言ったところか。
ディエゴはトリニの問いに答えない。
その様子を見ると、トリニはぴしゃっとディエゴの上腕部をひっぱたいた。傷のすぐ上だから痛いに決まっているが、ディエゴはぐっと堪えた。
「この傷の位置! これは刃物持った相手から襲われて思わず防御してできた傷だよ。それに、あんた無理して強がってるけど、熱もあるよ。この傷、このままにしておくと酷く化膿して高熱が出るし、傷が開いたままだから、悪いものが入ったら腐るよ」
カイエンはともかく、ヴァイロンは士官学校でも戦場での傷の応急処置については学んでいるし、実際にもっとすごい傷の手当てをしたこともある。もちろん、けが人は従軍医師に診てもらうことになるのだが、その前の処置は周りのものが行う。
そのヴァイロンから見ても、トリニの言っていることは全て理にかなっている。
教授が傷の手当てをトリニに任せたのもうなずけた。
トリニには明らかに手当ての心得があるのだ。
トリニは傷を圧迫するのを教授に変わってもらうと、台所へ走って、手を洗ってきた。それから、教授の持ってきた箱を開く。
中には消毒用の強い酒、包帯、清潔な布、貝殻に入った塗り薬、瓶に入った飲み薬などが入っていた。
庶民の家でも、傷の消毒用の度数の高い酒は常備している。
トリニは自分の手に瓶の酒をぶっかけると、そっとカイエンのハンカチを剥がし、傷口へも惜しげも無く酒をかけた。
「うっ!」
ディエゴがさすがに痛そうに顔をしかめる。
「痛くて当たり前だよ」
トリニはにべもなくそう言い、付け足した。
「あのねえ。この傷、あたしじゃ手に負えないわ。縫わなきゃならないし」
箱から出した新しい布で、消毒した傷口を押さえる。
「先生、ちょっと見ててくださいます?」
教授はうなずいて、彼女に代わって止血のための傷の圧迫を代わった。
「あたし、ちょっと行って、ルカを呼んできますから」
「わかった」
カイエンとヴァイロンにちょっと会釈して、トリニは慌ただしく通りへ出て行った。
それを見送り、もう諦めたのか、ぐったりとうなだれて椅子に座っているディエゴと、教授がディエゴの傷を見ているのを確認してから、カイエンはそっと動いた。
それを見ていたのはヴァイロンだけ。
半年余りとは言っても、この春からカイエンとは毎日、一緒に行動してきている。彼女の意図はもう彼にはわかっていた。
カイエンは足が悪いとは思えない動き方で、音もなく動き、手を伸ばして、先ほどトリニが傷口から剥がしたカイエンのハンカチをテーブルから取り上げ、血の付いた面を内側にして素早くたたむと、懐に収めた。
大公宮には人の形をした犬がいる。
程なくして、家の入り口が騒がしくなり、食堂へ二人の男女が入ってきた。
もちろん一人はトリニ。
もう一人は、大きな黒い革鞄を持った若い男だった。
年は二十三というディエゴよりもやや年上だろう。二十代半ばに見えるその男は中肉中背。背の高いトリニとそう変わらない。
教授やカイエンたちのことはトリニから聞かされてきたらしく、物腰は落ち着いている。
彼の身分と職業は、見ればすぐにわかった。
長い襟の詰まった白衣に、白い筒型の帽子をかぶった姿は、国立医薬院を卒業した正式な医師のみが着ることができる装いだ。
白い帽子の下から見える髪の色は褐色で、顔色は白く、その輪郭は鋭角的だ。高い鼻の左右の目はワインのような赤みがかった紫。頭の良さそうな緩みのない顔つきは、いかにも若い精鋭の医師と言うに相応しい。職業柄か、彼の姿は隅々まで清潔感に溢れていた。
「初めまして、大公殿下。私はルカ・エヴァンヘリオと申します。忌々しいことですが、そこの怪我人とは幼馴染でして。治療を始めてもよろしいでしょうか」
カイエンは灰色の目をぱちくりさせた。悠長な医者もいるものだ、とカイエンは思った。
「いいも悪いもない、早く見てやるがいい。……ドクトル・エヴァンヘリオ」
この国では、「ドクトル」と呼ばれるのも、医薬院を出た医師たちのみだ。
カイエンが答えると、ルカはすぐにディエゴの診察にかかった。
トリニが黙って、ルカのそばに立ち、助手を務める。
「水臭いねえ。ディエゴ、こんな怪我をしたっていうのに、僕を呼んでくれもしないとはねえ」
嫌味っぽく言う声は場違いに明るく、剽軽でさえあった。
さすがは教授の関係者だけあって、ルカは一癖も二癖もある人物のようだった。
「これは、鋭利なナイフ、それも刃渡りの結構長いものでつけられた傷ですね。長剣じゃないし、小さいナイフでもない。きれいに切られているから、この通り、きれいに縫い閉じられましたが、一本はかなり深いです。……ディエゴ、相手は手練れだな?」
傷を縫い、丁寧に包帯を巻き終わったルカはカイエンとディエゴの方を交互に見ながら、そう言ったが、ディエゴは何も答えない。
その様子を教授とトリニが黙って見守っている。
カイエンはルカの理知的な顔を見ながら、尋ねた。
「凶器は、例えば、ククリナイフのようなものだろうか?」
カイエンの口から、「ククリナイフ」という言葉が出ると同時に、ディエゴの大きな体が大きく揺れた。
昨日の連続殺人事件の凶器がククリナイフであることは、すでに朝のうちにイリヤに聞いている。
カイエンの後ろに黙って控えるヴァイロンの目の色も一瞬だけ変わったようだ。
だが、ディエゴの食いしばった口からはここまで来ても、何の言葉も出ない。
「ククリナイフというと、田舎の農夫とかが日頃から身につけているあれですか。もともとは
ルカはちょっと考え込んだ。
「断言は出来ませんが、そう言った薄い刃の刃物で、刺すよりも切り払うのに適した刃物でしょう。ですから、傷口はギザギザがなくてきれいでした。刺されなくてよかったですよ」
ルカはそう言うと、カイエンたちの前で、傷の縫合に使った道具を全てトリニの出してきた、たらいに放り込み、トリニにざっとでいいので洗って煮沸消毒してくれるように頼んでいた。
ルカ自身もトリニの後から台所へ入っていく。すぐに水を流す音が聞こえてきた。こういう民家では必ず台所の裏にある井戸から水を汲んで、手を洗っているのだろう。
カイエンは彼女たちとは目を合わせず、椅子に持たれてうつむき、まどろんでいる様子のディエゴをちょっと見てから、教授に話しかけた。
「教授、あのドクトルもあなたの学生の一人なんですか」
「そうですよ。あれはこのディエゴやトリニの幼馴染でしてね、実家もこの近所の町医者です。ですからあの通り、国立医薬院に通って正式な医師になりましたが、医薬院にいた頃から、螺旋帝国の螺旋文字で書かれた薬学書を読みたいと言って、私の塾に来るようになったんです。もちろん、医薬院でも螺旋帝国の薬学は勉強するんですが、授業では翻訳した教科書を使っているそうでね。ルカはその翻訳が怪しいと思ったそうで、原書を読みたくなったんですな」
教授は、灰色一色の視線を己の骨ばった小さな手に落とした。
「研究者というのは、そう言うものです。私が頼國仁先生の門を叩いたのも、螺旋帝国の戦術書を原書で読みたいと思ったからでした。私の場合、翻訳のあるものは読み尽くして、それからまだ翻訳のなかった本を読んで、ついでに翻訳したところから認められて士官学校の職を得たのですからな」
カイエンは初めて知った思いがしていた。
彼女が教授やルカのような職業の人間と交流するのは、頼國仁先生を除けば、初めてと言っていい。
違うところは、頼國仁先生はカイエンのいる大公宮へ通ってくる家庭教師だったということだ。
教授や医師のルカは違う。
この下町のトリニのペンシオンで出会ったことの意味。
ディエゴの糾弾だってそうだ。
あれはこの下町のペンシオンで聞いたから、意味があったのだ。
大公宮で聞いていたら、全然違った印象であっただろう。
そこまで考えて、ふと、カイエンは顔を上げた。
「教授」
トリニとルカはまだ戻ってこない。
「教授、では、トリニは? 彼女はあなたに何を習っていいるのですか」
トリニは教授が借りている私塾の部屋の大家らしいが、彼女の教授との話しぶりをみれば、彼女もまた教授の教え子であろうことは想像できた。
ディエゴの傷を改めた時の落ち着きぶりも印象に残っている。
教授はカイエンのその質問を予期していたのかもしれない。
彼は、骨ばった白い手で眉間を揉みながら、答えた。
「そうですね。あの子は今年、二十歳になったのですが、頭のいい子ですよ。頭だけじゃなくて体も丈夫だし、なかなか強いのですよ」
「強い?」
「ええ。トリニは幼い頃から螺旋帝国の武術をおさめていましてね。……実はあの子の亡くなった父親というのは、螺旋帝国人だったのです」
カイエンは目を見張った。
「コンドルカンキというのは母親の姓でしてね。母親が営んでいたのがこのペンシオンです。そこにやってきた螺旋帝国の武人崩れが父親でした。二人とも、相次いで一昨年に亡くなりました。仲のいい夫婦でね。母親のマリアが亡くなってすぐ、父親の方も後を追うように旅立ってしまいました。父親は赫カク赳生キョウセイと言いましてね。武術の達人でした」
教授は、テーブルの上に指文字で螺旋文字を書いて見せた。
「名前も勇しいでしょう。トリニは彼によく似ていますよ。ああ、こんな話はあの子のしたいことと関係がなかった。私がここに私塾を開いたのは、頼國仁先生の塾で、トリニの父親を紹介されたことがあったからでしてね。初めて会った頃、トリニは医者になりたいと言っていたんです」
(医者になりたいと言って……)
カイエンの心臓に、その言葉はぐっさりと突き刺さった。
だって。その願いは聞いたことのある願い。
あのマリアルナと同じ。
教授は、カイエンの様子に気がつかないまま、続けた。
「でも、国立医薬院は男子にしか門戸を開いておりませんからね。トリニは医薬院に入学したルカからしつこく教わっていましたよ。でも、見たでしょう。知識はあってもね、今度のディエゴの怪我みたいな外科の技術はね。実地に練習する手段もないし、どうにもなりません。だからね、あの子は最近、他の仕事に目を向け出したんです」
「ええ?」
カイエンが顔を上げると、教授の真面目な目がそこで待っていた。
「私が昨日、あなた様に申し上げた、大公軍団での女性隊員募集の話は、トリニを念頭においた話なのですよ」
「トリニは申し上げたように、武術をおさめています。まあ、達人と言ってもいいでしょう。螺旋帝国ではともかく、このハウヤ帝国ではね。そして医術の心得もあります。そして、彼女は何よりもこのハーマポスタールの人たちの役に立ちたいと思っているのです。もう二十歳ですから、そろそろいき遅れになりかかってますがね。本人はそんなこと気にしてませんしね」
教授は苦笑いした。
「私も結婚がどうとか、気にしたことはありませんからね。ま、女の子はまた別でしょうけれど、急ぐこともないですよ。まだ一人でやりたいことがあるうちはね。一人で立ち向かいたい仕事があるうちはね」
謎のように教授は言う。
「二人でしたいことができたら、二人ですればいいんです。三人でしたいことができたら三人で」
もうすぐ、やっと十九のカイエンには挟む言葉もなかった。
カイエンとヴァイロンは、台所から戻ってきたトリニとルカに挨拶すると、ディエゴの怪我の原因については明日以降に取り調べの係官を派遣すると言い置いて、そそくさとトリニのペンシオンを後にした。
カイエンとヴァイロンがトリニのペンシオンから出て行った後。
マテオ・ソーサ教授は、ルカの鞄の中身をはじめとして、様々なもので散らかった食堂のテーブルの上を一通り見てから、ふうっとため息をついた。
「トリニ、最初に止血に使った、大公殿下のハンカチはどこへやった?」
トリニは一瞬、ぽかんとしたが、慌ててテーブルの上、そして身をかがめてその下までを一通り調べた。それから、困ったように返答した。
「……どうしましょう。見当たりません。先生、大公殿下にお返ししなければならないのに」
ルカとディエゴは事情が飲み込めないようだ。
教授は、黙ってテーブルに肘をつき、だらしなく足を組んで座り、天井の方を斜めに見上げて、もう一度大きく嘆息した。
「トリニ、いいんだよ。ハンカチは大公殿下がお持ち帰りになったのだ」
教授は殺人現場で、二人の血液の匂いをかぎ分けた、ガラの存在を知らない。
だが、カイエンの行動から何事かを彼は察していた。
「ディエゴ、君はさっき、黙秘を通して大公殿下をごまかしたつもりだろうが、あの方は甘くないよ。末恐ろしいね。君の糾弾に一言も反論できなかったあの方は世間知らずではいらっしゃるが、大公軍団を率いる大公殿下としては、油断がならない目をお持ちだよ。それに、すごい部下を持っていらっしゃるようだ」
「それは、……あの元将軍閣下のことですか」
ルカが口を挟むと、教授は人差し指を立てて、ふらふらと左右に振った。
「それもそうだけどね。どうも、それだけじゃあなさそうだ」
教授は、明日にでもディエゴ共々、大公宮へ引っ立てられる自分が見えるような気がしていた。
いや、自分は顧問として迎えられるのであるから、引っ立てられることはあるまい。
教授は、ディエゴに向かって、意地悪く言った。
「ディエゴ、今日はゆっくり家で休むんだな。明日は大変だぞ。ちゃんとルカに解熱剤と化膿止めをもらって、しっかり飲んでおくことだね」
ディエゴは言葉もなかった。
「私は士官学校に手紙を書かなくちゃいけないな。明日からしばらく、戦術学の授業をバティスタ君に変わってもらわにゃあならんからね」
マテオ・ソーサの心の中はやや高揚してさえいた。
不謹慎なことは自覚していたが、彼のような当時としては人生の半ばをとうにすぎた者にしても、代わり映えのしない毎日が変貌していく予感というものは抑えようもないものであるのかもしれなかった。
大公宮へ帰ったカイエンは、早速、ガラとイリヤ、それに治安維持隊の隊長、双子のマリオとヘススを呼び出した。
イリヤと双子は仕事中で、来るのに時間がかかったが、ガラの方はすぐに現れたので、イリヤたちが来た頃には事実は判明していた。
「この血は乾いていて、匂いが変わっているが、多分間違いない。……あの殺人現場の、死人じゃない方の血の持ち主だ」
ガラはカイエンのハンカチの匂いをかぐと、そう断言した。
急いでやってきたイリヤと双子は、カイエンに事情を聞くとすぐにサンティアゴ・リベラをひっ立てようとしたが、カイエンは止めた。
「急がなくてもいいだろう。教授の私塾の学生だから逃げる心配はないし、あの傷では今夜は熱が出るだろうから」
双子は黙ってうなずいたが、イリヤは皮肉そうに顔を歪めた。
「お優しいことで。教授をずいぶんご信頼のようですが、大丈夫ですかね」
カイエンは、イリヤの甘ったるい伊達男顔をまじまじと見てやった。この顔は危険な顔だし、性格も苦手だが、改めて見てみれば印象が変わる。
カイエンは言った。
「イリヤは教授と気があうと思うがな。年も顔も全然、違うけど、なんだかにょろにょろしてて、でも結局は親切なところとか、なんか似てるからな」
「ええっ?」
カイエンの後ろで、ヴァイロンが小さな声を上げた。彼には意外だったらしい。
教授は、にょろにょろしてはいないと思う、と彼は言いたかったが、黙っていた。
「にょろにょろって……。それに、俺が親切……?」
イリヤ本人も不満そうにカイエンを見たが、カイエンは動じなかった。
「そうだ、よくしゃべるし、嫌味っぽいけれど、物事をよく見ているし、何よりなんでもぽんぽん言いたいことを言うところとか、そっくりだ」
イリヤはもう何も言う気も起きなかったので、黙っていた。
だが、翌日、大公宮にやってきた、マテオ・ソーサ教授とイリヤの対面はなかなかの見ものであった。
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