大公家の人々

 

 ……皇帝の突然の裁可に、大公カイエンは怒り給う

 しかし、その怒りは彼女のうちにあり

 その土気色に沈んだ顔色からはうかがい知れず

 余人は彼の人の熱気を知らずーー


          アル・アアシャー 「海の街の娘」より「始まりの嵐」






「……今、なんと申した」

 カイエンは、わざわざ宮廷に呼びつけられ、長時間ひざまづいたまま待たされた挙句、皇帝に理不尽な(あれを理不尽と言わずして何が理不尽か!)言いがかりをつけられ、自らの身分は安堵されたものの、大公家に関わりある将軍、ヴァイロンを、事もあろうに自分の男妾にしろ、と命じられ、まさに「心煮え繰り返る」といったところであった。

 しかも、昼過ぎに呼びつけられて、今はもう夜更けである。

 なんという一日であったことか。

 もともと丈夫でない体に鞭打って長々と皇帝に付き合った挙句がこれか。

(もう帰って、さっさと寝させろって言ってるんだよ! この○※△」)

 心の声が目から噴き出していたかもしれない。

 そんなカイエンのじろり、と灰色の底光りのする目で見上げられ、衛兵は恐縮した。

 それでも、お役目であるからもう一度言わざるを得ない。

「大公殿下、ヴァイロン将軍は将軍の任を解かれたにつき、乗馬での御移動は禁じられました」


 カイエンは普段から「目つきが悪い」だの「年頃の娘らしい可愛げがない」と言われ、特にこの衛兵のような年代の若い男には敬して遠ざけられる存在だ。

 その分、女性の方からの受けはよく、特に年上の世話好きなマダムには可愛がられる。不思議なのは同じ男でも、中年にさしかかった、娘の一人二人いるような御仁からもいろいろ構ってもらえることで、その場合、彼らのカイエンを見る視線は完全に「兄か父の目線」となる。

 そんな、若い男にはただ薄ら怖いだけの可愛げのない女大公殿下に睨み上げられ、衛兵は困惑していた。

「では、私の乗ってきた馬車に乗せて帰れ、ということだな」

「さ、さようでございます」

 カイエンは周りを見回し、ヴァイロンの馬を探した。

 いた。

 彼の愛馬はヴァイロンの巨躯を乗せて、戦場を駆け回るのであるから、特別に馬体が大きく、気の荒い馬である。名は、ウラカーン。大嵐という意味だ。

 轡は衛兵が持っているが、数人がかりである。

 ちなみに、カイエンは馬には乗れることは乗れるが、歩かせるのが精一杯、というところである。

「ヴァイロン」

 カイエンは後ろに、大きい体を縮めるように、遠慮がちに立つ男に向かって、横柄に顎をしゃくった。自分でもよく後で反省するが、お姫様育ちなのがこういうところで出てきてしまう。

「ウラカーンは馬車の後ろからついてこられるだろう。もう夜更けだ。さっさと乗れ」

「……いえ、殿下がお先に」

 ヴァイロンは無駄口を言わぬ、どちらかというと無口な男だが、荒々しい見かけに反して、よく気のつく性格だ。これはカイエンの乳母、サグラチカの教育の賜物か、はたまた生来の性格か。おそらく両方であろう。

 ヴァイロンは言いながら、馬車の扉の前でカイエンにむかって大きな手を差し出した。

 なるほど、馬車の扉を入るにはまず、地面からやや高いところにあるステップに登らねばならず、足の不自由なカイエンには助けがいる。

「それもそうだな」

 カイエンは白くて華奢な手を、ヴァイロンの大きな手に乗せた。即座に腕ごと体が浮き、半分抱えあげられるようにして、カイエンは馬車に乗りこんだ。

 次の瞬間に、巨体に似合わぬ豹のような身のこなしでヴァイロンが乗り込む。

 重みで馬車が一段沈んだ。

 カイエンはいらいらと左手の杖の銀の頭で天井を叩き、御者に出発の合図をした。

「散々だったな」

 カイエンは独り言のように言って、ため息をついた。

 馬車に二人で収まってみると、大公の格式に則った立派な馬車とはいえ、狭苦しい。

 二人は向かい合って座っているのだが、小柄なカイエンの前の空間いっぱいを、ヴァイロンの巨体が塞ぐような感じだ。

 普段なら若い娘として意識してしまいそうな距離だが、気持ちが逆立っているカイエンはそれを押し返すような怒りで頭がいっぱいであった。


 カイエンの父、アルウィンがまだ生きていた頃、三年前までは二人はほとんど話したこともなかった。大公家の使用人である執事のアキノや乳母のサグラチカは、彼らの養い子がまだ少年であった頃には、主人である大公の家族の目のつく場所に、彼が出ることを許さなかったし、そのうち、恵まれた体躯と運動神経、見かけに合わぬ謹直な性格を見込んだアルウィンによって、ヴァイロンは皇帝軍の士官学校へ送られたからだ。

 士官学校時代も、任官してからも、ヴァイロンは宿舎に住んでいたので、大公宮へ戻ることはまれだった。

 もどっても、大公の娘(公式には皇妹であったが)であるカイエンに会う理由はない。身分が違いすぎた。

 それが変わったのは、三年前にアルウィンの病が重くなり、ついに亡くなった後のことだった。

 カイエンが子供の頃から、当時まで、帝国は複数の隣国との国境紛争を抱えており、首都ハーマポスタールでの市民の生活には影響がなかったものの、国としては十年あまりも戦中であった。その中で、ヴァイロンは勇猛に戦い、手柄を立てつづけて順調に位を重ね、獣人の血を引くことで差別されたり、嫌な思いもしたようだが、三年前には千人単位の軍団を指揮するまでにのし上がっていた。

 まだ若年であるのに立ち居振る舞いも堂々とし、精悍な顔は誇りに満ち、将兵は憧れを持ってこの若い指揮官を見上げていた。


 もっとも、ヴァイロンの実力はもちろんだが、彼の後ろ盾が大公であることも影響しなかったとは言い難い。

 ともあれ、大公死す、との報にちょうど戦局が落ち着いたこともあり、急ぎもどってきたヴァイロンは二十歳そこそこにして千人単位を束ねる軍団長の地位にあり、彼ら二人の間の身分の差はやや縮まっていたのである。


 アルウィンの葬式で、カイエンとヴァイロンは初めて言葉を交わし、カイエンが大公位を継ぐと、ヴァイロンの「後ろ盾」は新大公カイエンということになった。

 その頃、国境紛争はハウヤ側の勝利として、国同士の約定が結ばれ、帝国軍は国境の要塞や砦に辺境警備隊を残して首都へと凱旋した。

 それからヴァイロンは軍の宿舎から、養父母を見舞うこともあってたまに大公宮へ祗候することが増えた。

 二人は初めて話した時から、子供の頃からの幼馴染のように気があった。

 体の不自由なカイエンは、次期大公位に就く子であることもあって、ほんの子供の頃から家庭教師について帝王教育を受け、膨大な量の書物を読み、「本の虫姫」と呼ばれていたが、それほどではないにせよ、ヴァイロンもその見かけと仕事にそぐわぬ読書家だったからである。

 意外なことかもしれないが、二人の間に、恋愛感情のようなものが入る余地はあまりなかった。

 あまりに正反対な存在だったこともある。

 まだちっとも色気付かないカイエンにとって、ヴァイロンというのは「自分も男に生まれてこうなりたかった理想像」であり、ヴァイロンにとってカイエンは「弱々しく、守らねばならない小さな主君」であった。女として見るには、身分や、相手に持っているイメージが邪魔をした。

「申し訳ございません、殿下」

 馬車が、皇帝の宮殿からさほど遠くない大公宮へ着く頃になって、ヴァイロンはやっと返答した。常から謹直な男だが、カイエンの前だとそれが一層強化されるようだ。

 ヴァイロンの大きな体は今や恐縮な気持ちでいっぱいであった。生真面目なところのある彼は、今日の事態に驚愕しつつ、それ以上にカイエンに対して申し訳ない気持ちで言葉も出なかったのだ。男くさい顔が固まっている。

 かわいそうに。

 カイエンはらしくないやさしい気持ちになった。だが、何とも慰め方がわからない。

「……ああ、アキノとサグラチカが待っている。続きは降りてから話そう」


 

「ヴァイロン、あなた、どうして殿下の馬車に……!」

 大公宮の広大な入り口の前の馬車どまりで馬車を降りるなり、サグラチカは養い子を怒鳴りつけた。

 夫の執事アキノはそんな妻を押しとどめ、カイエンに手を貸して馬車から降ろすと、落ち着いた声で言った。

「さぞやお疲れでございましょう。お食事はどうなさいますか。すぐ、おやすみになられますか」

 いつも帰宅した時に言うのと同じ台詞。

 アキノはカイエンと同じ病を持って生まれ、体内に蟲があるため、カイエンほどではないにせよ足をやや引きずって歩く。もう五十に手が届く年齢だが、黒い執事の正装に包まれた体は糸杉のように堅牢で鋭い感じを人に与える。顔つきも鋭角的で、きっちりと撫で付けた灰色の髪の下で、青い目がいつでも周りに気を配っている。

 反対に妻のサグラチカはやや太り肉で、頼り甲斐がある家政婦、といった趣だ。実際に、カイエンの乳母としての仕事が終わってからは、カイエンの身の回りの差配をすべて行っており、この家の家政をとりしきっている。髪も目も明るい茶色で人の良さが体全体から見て取れる。

「うん。どうかな、なんだか興奮していて食欲はないが、熱いお茶を飲みたいかな」

 カイエンはちょっと考えた。

「いま、何刻だ」

「ちょうど、八時でございます」

 時計を見ながらアキノが答える。

「そうか、ではまだ皆起きているな。アキノ、すまないが食堂に団長のイリヤと、騎士シーヴ、この二人は酔っていてもどんな服装でも構わないから、すぐに来させてくれ。それから誰かな。もちろん、お前たち二人もだ。ああ、それと女中頭のルーサ、料理長のハイメ、これくらいかな……あ、モンタナ、そなたもだな。彼らをみんな集めてくれ」

 カイエンはアキノの後ろにひっそり控えていた侍従も勘定に入れた。

 アキノが気を利かせたのか、他の使用人の姿はない。

 アキノは頷き、後ろに立っていた侍従長のモンタナに指示した。

「モンタナ、給仕はお前とルーサの二人だけで行うように」




 カイエンが大公宮の、控えめだが、洗練された美しい木材で組まれた壁や床の装飾が美しい大公家族専用の食堂で、アキノの淹れた濃い紅茶の二杯目を飲んでいた時、カイエンが呼ばせた人数がそろって食堂へ入ってきた。

 総勢、七人。

 それに、長いテーブルの向こう、入って正面の鏡と暖炉の前に座った、大公のカイエン。その左側にかけて、遠慮がちにお茶のお相伴にあずかっていたヴァイロンを入れて九人。

 これが、現在の大公家の主だった人々であった。

 一国の大公の宮としては少数であったが、主人であるカイエン以外に大公家の家族が居らぬため、使用人はカイエン一人の世話ができる人数が居ればよく、大公宮の中も、後宮を始め、大公の子女が暮らす宮など、使用されていない区画が数多くあった。

「なんですか〜。こんな時間にお呼びとは」

 緊張感のない声は大公家の私軍である「大公軍団」の軍団長を務める、イリヤボルト・ディアマンテスだ。カイエンはあまりこの男が得意ではない。前髪がやや長い鉄色の髪に、同じ鉄色の鋼のような冷たい目をしているが、態度は慣れ慣れしく、それに、いやになるような甘い顔をした美男子だ。年齢はヴァイロンより三つ四つ上だろう。

 その後ろにいるのは騎士のシーヴ。こちらは浅黒い肌にそれに似つかぬ亜麻色の髪をした、元気のありあまった太陽のような青年だ。いつもはカイエンの護衛をしているが、今日は呼ばれ方が呼ばれ方だったため、宮廷へは連れて行けず、留守番という形であった。こちらはこの場の雰囲気にのまれたのか、黙って周りを見回している。

 二人とも、きちんと大公家の軍団の黒い制服を着、剣も下げている。酔っている風もない。きっとカイエンが皇帝に呼びつけられ、なかなか帰らないため、いつでも動けるように待機していたのであろう。

 この二名の他は邸の使用人であるから、テーブルにはカイエン、ヴァイロン、イリヤの三名がつき、残りはそれぞれの役目にあった場所にてんでに控えた。

 アキノはカイエンの脇に、シーヴも反対側の椅子の後ろに立った。

 ヴァイロンの後ろ、カイエンとの間にサグラチカ。

 女中頭のルーサは飲み物を給仕するため、ヴァイロンと向かい合わせに座ったイリヤの近くに置かれた、ワゴンの脇にいる。ルーサは有能な女中であり、そのために若くして女中頭を務めているわけだが、化粧気がないのにもかかわらず、その白い顔は端正である。化粧をしたらすさまじい美女に化けるだろう。偶然ではあるが、美男美女が並ぶことになった。

 侍従長のモンタナと、料理長ハイメは入り口を塞ぐように、食堂の扉の前に控えた。

 人々の居場所が決まり、三杯目の茶が自分の前に置かれてから、カイエンはおもむろに口を開いた。

「実は……」

 カイエンが今日、皇帝に呼ばれて言い渡されたことを話し終わると、当然のことながら、沈黙がそこを支配した。

 カイエンにとっても、自分の口で全部話し終えてみると、なおさらわけの分からぬ、前代未聞の話であった。

「質問〜」

 最初に口を開いたのは、予想通りにイリヤだ。精神的な強さではアキノと張るだろう。どんな危機的状況でもひょうひょうとしていられるのではないか。この男は。

「そうすると、ヴァイロン閣下は今日からもう閣下じゃないってことですかー」

「そうなるな」

 カイエンの答えはそっけない。

「不敬の数々って、一体……なにをなさったんですかヴァイロン閣下」

 イリヤは今度は真っ暗になってうなだれているヴァイロンの方へ話を振った。

 イリヤはこういう「会合」の進行には得難い素材である。際どい問題も、彼なら普通に扱ってしまえる。

 イリヤがヴァイロンにしたのは、しごく当然の質問だ。

 しかも、もう閣下じゃないのかと聞いたくせに、まだちゃんとヴァイロンに閣下の尊称をつけている。カイエンはヴァイロンとイリヤの付き合いがどの程度なのかは知らないが、茶化しているようではないな、と思った。

 イリヤの質問はカイエンには答えられない。てんで分からないままに沙汰だけを伝えられ、宮殿を追い払われて来たのだから。

「ヴァイロン、心当たりはないのか」

 しかたなく、もう一人の当事者の発言を促した。

「それが……」

 真面目なヴァイロンはことここに至るまで、考え続けていたらしい。

 額に刻み込まれた皺がそれを物語っている。

「どうしても思い当たることがなく……」

「そもそも、長く戦場にあったそなたが皇帝陛下にお目にかかる機会など幾度もあるまい。将軍位を授かった時は直接会っただろうが、あれは先年のことだろう。私もその場にいたが、今更問題となるとは思えない。先月の戦勝祝いの席ではないのか」

 先月、国境紛争の終了を祝う、大掛かりな戦勝会と祝宴が行われた。この席で、将軍たちは一人ずつ皇帝に挨拶をしたはずである。カイエンもその席にいたので、ヴァイロンの挨拶は直に聞いている。問題があったとは思えない。その時の皇帝の様子にも変わりはなかった。

「違うな」

 自ら否定して、カイエンは唸った。

「殿下、皇帝陛下は理由をおっしゃらなかったんですか」

 またイリヤ。

 だが当然の質問だ。

「それを聞いていれば、ここで唸ってなどいない!」

 思わずいらついて声が高くなった。サグラチカが駆け寄って肩を抱く。実母の愛を知らないカイエンにとって、この乳母は安らぎであり、今の所、もっとも信頼する存在でもあった。

「……それは、きっと非常に個人的なお怒りなんでしょうねえ。将軍を罰するのに侮辱刑なんて、前代未聞でしょう」

 イリヤは意地悪そうに口を捻じ曲げて言ってのけた。頭のいい男だ。年若い女大公の私設軍隊である大公軍団をきれいにまとめあげ、仕事にも遅滞はない。皮肉な物言いをする割には言うことはいつも正しく、能力の出し惜しみもしない。ありがたいことに、女に命令されることに対する偏見もないようだ。出来すぎているのがいっそ一番怪しげなところだろう。

 つけつけものを言うイリヤの後ろで、若いシーヴはただただ驚いている。

 カイエンはイリヤのこの言葉に背筋がゾッとするものを覚えた。

 やはりイリヤは頭がいい。事の裏まで覗ける男だ。軍人よりも政治家にむいているのではないか。

 いる。

 この手の問題の元になりそうな存在が、皇帝のすぐそばに。


「皇后か!」


 カイエンはあえて口に出した。アイーシャ。自分を産み落として去っていった女だ。

 現在三十四歳の皇后は皇帝に対して、すさまじいばかりの影響力がある。

 カイエンを捨て、皇后となった後、皇帝との間にオドザヤ皇女をもうけている。皇女は今年十六歳。母親似のうつくしい姫君だ。

 皇帝には他に第一妾妃との間に第二皇女カリスマ、第二妾妃との間に第三皇女アルタマキアが生まれているが、皇子はまだない。

 ちなみに二人いる妾妃は、属国、自治領、といった場所から、人質同然に後宮へ入れられた女たちである。

 皇帝は皇子誕生までのつなぎとして、皇女を皇太子に立てるために法を変えようと考えているとも聞く。第一皇女の母である皇后はこれを後押ししたいに違いないと思っていた。

 だが、今回の事件とつながるとは、今のところは思えない。

 ヴァイロンの率いていたのは近衛の軍ではない。現在、皇帝軍の将軍は17人。大将軍はいない。国境紛争の終了で、しばらく新しい将軍の必要もない。

 一番新しく将軍に列せられたヴァイロンの率いていた一軍は一番新しく編成された軍である。将軍達の中で一番若年なのもヴァイロンだ。

 それをわざわざ、今この時期に「潰す」理由は何か。

「畜生! 何考えてるんだあの◯×※!」

 言葉の乱暴だった父の影響で言葉の汚いカイエンは、口汚く皇帝夫妻を罵った。

 お姫様育ちのカイエンがそんな言葉を日常的に話す階層の人々と知り合いのはずもなく、父親の話し方だけでここまでそっち方面の語彙を身につけてしまったのだから恐ろしい。

 聞いている皆は慣れっこなので驚きもしないが。

「しかしねえ、男妾ですかあ。勇猛果敢な新将軍が、一転して大公殿下の後宮の花! すごいことが始まりそうですねえー」

 カイエンはこの気持ちの悪いイリヤの冷やかしを聞きながら、咎める気力もなかった。



 そして、イリヤが意味ありげに執事アキノのほうへ目配せしたのにも気がつかなかった。

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