空っぽの記憶

まる。

第1話 空白

頭が痛い。視界がぼやける、真っ白な空間でうっすらと目を開けた。


「先生、彼が目を覚ました。」

「本当か!?すぐに向かう。」


僕は電話をしている看護婦さんを見ながら意識をハッキリさせる。

(ここはどこだろう。)

そう思っていると先生と呼ばれていた男の人が来た。


「大丈夫かい?あー、無理に起きようとしないでいい2日も寝ていたんだから。」

「2日も…」

「そうだよ、2日もだ。家族の方々にも電話をしておいた、すぐこっちに向かうそうだ。」


僕は「2日も寝ていた」と言われたが何故そうなったのか、何故病院のベッドに横たわっているのか全く思い出せないでいた。

先生から体に異常はないか軽く検査をされているうちに、母親と思われる人が病室へと入ってきた。


「虎太郎!大丈夫なの?!」


慌ただしく母親が近づいてくる。


「お母さん・・・?」

「そうよ!お母さんよ?」

「ごめんなさい。何も思い出せなくて・・・。」


それを聞いた母はガタッと椅子にもたれかかってしまい、言葉を失ったのか下を向いている。

 それから二人で先生の話を聞き、恐らく事故のショックで一時的に記憶を失っているのかもと聞かされ、ここ何日間は安静にしておくようにとだけ伝えられ母と一緒に家に帰った。

 家に帰ると母は、「ほんとに何も思い出せないの?」と何度も聞いてきた。

僕はうん、思い出せないと答えるしかなくとりあえず自分の部屋に案内され部屋に入った。

 

「何か自分の物をみてみたら思い出すかもしれないわ。部屋でゆっくりしてて夜ご飯つくるからまた呼ぶわね。」


と母は買い出しに行ってしまった。僕はとりあえず何かないかと押し入れを探してみた。

少し探すと中学校のアルバムが出てきた。僕は今高校2年生で今年の春から3年生になるところらしい。学校はちょうど春休みに入っているみたいで学校のことはとりあえずは心配することはない。と言われた。

アルバムをかるくみてみたが思い出すことは特になかった。

 ブーブーと机に置いてあったスマホが揺れている。誰かからの電話だろうか。スマホを覗いてみると妹からの電話だった。恐らく母から連絡があったのだろう。

何も覚えてないので出るのが少し怖かったがあまりにも鳴りやまないので恐る恐る電話に出た。


「も、もしもし?」

「お兄ちゃん!!」


妹は耳が痛くなるぐらいの大声でそういった。


「大丈夫なの?!ちゃんと生きてる?!?!?」

「い、生きてますよ。じゃないとこうやって電話だってできないでしょう。」

「なんで敬語なのよ!どうしちゃったの?!」


妹は母から僕が記憶を失っている状態だと伝えてなかったらしく、妹は困惑していた。

僕は妹にある程度説明し、少し落ち着かせた。


「そうだったんだ、大変だったね。でも敬語はやめてよ。家族なんだし!」


妹はそう言ってくれた。ありがとうと一言言った。


「よし!帰ったら私が、私のこととお兄ちゃんのこといっぱいいっぱい話してあげる!」


そういって妹は電話を切った。妹のためにも早く全部思い出して恩返しがしたい。はやく仲良く暮らしたいとそう思った。

 妹が家に帰宅し母がご飯をつくり終わりお呼びがかかる。父は仕事の関係で県外に出ているそうだ僕の症状のことも知らされている。「あまり無理に思い出させようとせず、休ませてやれ。」父は言ってくれた。

妹に色々説明されながら母の作ってくれたご飯を食べ明るい時間を過ごせた。


「そういえば僕のスマホのパスワードお母さんか彩香(妹)わからない?」

「んーお母さんは知らないわね。誕生日とかじゃないの?」

「私もわかんないなぁ」


誕生日と言われたが、自分の誕生日すらもわからない。


「虎太郎の誕生日は3月15日よ」


と母が僕から聞く前に教えてくれた。


「ありがとう!試してみるよ」


と言い部屋に戻った。


 少しゆっくりしてからパスワードを試そうとしたが先にお風呂入りなさいよ~とお母さんの声が聞こえ先にお風呂に入ることにした。

お風呂場に向かおうと階段を降り洗面所に入ろうとし扉を開けると・・・


「お、お兄ちゃん?!」

「ご、ごめ!!!まさか入ろうとしているとは思ってなくて!」


空けた先には半裸の妹がいた。バタン!と急いで扉を閉め廊下から「ごめん・・・ごめん・・・」妹に謝り続けた。


「こ、こっちこそごめんね。いつもは私が先に入るようになってたから。先に伝えるべきだったね。」

「そ、そうだったんだ。あがったら教えて!僕自分の部屋にいるから。」


そういって急いで自分の部屋に戻る。


「はぁはぁ、焦った。本当に焦った。」


 ベッドに倒れこみ落ち着く。


「あやかがあがるまで時間あるだろうしスマホのパスワード試してみるか」


 スマホのボタンに指で触れてみる。すると指紋認証なるものでパスワードが解けた。


「よかった解けた。このスマホに何か記憶が戻りそうなものがあるといいけど・・・。」


 スマホをいじってみる。するとSNSのアプリに10数件メッセージが入っている。

友達だと思われる人たちから生きてるかーとかなんで返事しないのーとか色々メッセージが来ている。

高校の友達?の名前をみても思い出すものはやはりない。

返事をしたかったが、怖い。何も知らないのに僕が関わっていいのかと。今の僕は空っぽの何もない僕で本当の自分がわからないままだ。

 そう考えているとスマホがブーブーと音を鳴らし揺れた。

電話だ・・・。美咲と書いてある。妹からの電話でさえ怖いと思ったのに次は友達からときた。

妹は家族ということもあり少し気が楽だったが今度は他人だ。怖い、出たとしてどう喋ればいいんだろう。事情を説明して受け入れてくれるのだろうか。

 今回は出るのやめようと、スマホを手から離した。

・・・・鳴りやんだ。

(あー怖かった・・。)

そう思いもう一度スマホを手に取る。手に取った瞬間また着信音が鳴る。

僕はビックリしてスマホを落としそうになり必死にキャッチした。


「もしもし?!なんで一回目で出ないのよ!!!」


「えっっっっっっっっ・・・」


僕は出た覚えがなかったが焦ってスマホをつかんだ時にあやまって着信に出てしまったらしい。


「なにがえっ!よ!3日も既読すらしないd」


ツーツーツー


「あ、焦って通話きっちゃった・・・。」


ど、どうしようとあたふたしてるとすぐに着信がくる。

間違ったとはいえ何も言わず切ってしまったのだ、これは出ないと。と思い電話に出た。


「さっきはごめんなさい。も、もしもし・・・?」








 




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空っぽの記憶 まる。 @kota19

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