第一章
1-1 異世界へ
8月初頭。あまりにも暑い季節。
俺は犬の散歩から帰ったところだった。
……暑い……暑いというより熱い。体が。
クーラーと扇風機で体を冷やしていたのだが、体の芯の熱は冷めない。
よし、アイスを買いに行こう。
気温が30℃を超えるとアイスクリームは売れなくなり、かき氷が売れるというが、俺もその例に
チェーン付きの財布をポケットに入れて、俺はアイスを3つ買ってくることを母に告げて家を出た。
近くのコンビニまで自転車で5分とかからない。
むんむんとする熱気の中、自転車をこぎ続けて目的地であるコンビニに着いた。
コンビニの中は閑散としていたが客も全く居ない訳でもなく、店員達は忙しそうに品出しやら、レジ打ちにいそしんでいた。
聞き覚えのあるBGMが流れてきた。
今やっている深夜アニメのオープニングテーマがかかっていた。
……こういう家以外のところで知ってるアニソン聞くとテンション上がっちゃうんだよなー
俺はアイスコーナーで目当てのアイスバーを見つけると、積みあがってるそのアイスバーから3つを取り、レジに持っていった。
「レジ袋ご利用になりますか?」
「袋持ってきてるんでいいです」
「225円になります」
「はい。250円からで」
コンビニの店員は慣れた手つきでレジを済ませ、俺はアイスバーの3つを持ってきたマイバッグに入れた。
「ありがとうございましたー」
コンビニを出て俺は自転車をこぎだした。
群青色の空が目を焼いた。入道雲が浮かんでいる。
今年も働かなかったなー。
そんなことが頭の中に浮かんできた。
今年はあと約4ヶ月ある。だが、今年も恐らく働かないだろう。
俺、
就職活動に失敗し、大学卒業後、そのまま働かず、気が付くとこうなっていた。
今年で24歳になる。このままでいいわけがない。
そう思っていても、一歩踏み出す勇気がなかった。
そんなことを考えながら空を眺めるといつの間にか横断歩道に入っていた。
パッと目をやると歩行者信号は確かに青だった……
……はずだった。
そして、けたたましいクラクションが響くとともに巨大なトラックが突っ込んできた。
衝撃――――――――――――――――――――――――――――――
俺の体は自転車から離れ、宙を舞っていた。
しばらくしてから地面に叩きつけられた。
全身の骨が粉々になったかのように、痛い。
「かはっかはっ……」
声が出ない。地面に叩きつけられたまま俺は吐血した。
死ぬ。
意識が遠のいていった。
……
……
……
俺は死んだはずだ。なのに意識がある。
目の前が真っ暗なのは俺が目をつむっているからだろうか。
目を開けると何が視えるのだろう。
俺は目を開けてみた。
真っ暗な空間に机と椅子がポツンと置いてあった。
椅子の上に誰かが座っている。
一言で言うとそれは幼女だった。
黒くて長い髪に西洋人形じみた整った顔。
日本人形のような着物を着ていて、それが背中のオブジェと不釣り合いだった。
背中には白い翼と黒い翼が一本ずつ生えていた。
……天使?悪魔?
一目では判別がつかなかった。
「困惑してるようじゃの?まぁ無理もない。」
と、幼女が言った。
「お前は誰だ?ここは……あの世なのか?」
「わらわの名はグレイ。徳の低い天使じゃ。そしてここがあの世なのかという質問に関しては、半分正解じゃ。」
と、幼女は言った。「この世とあの世の狭間よ」
俺は状況の割には落ち着いていた。
「それで、俺は天国に行くのか、地獄に行くのか?それとも生まれ変わるのか?天使さんよ」
「お前は三級なんじゃ」
「三級?」
突如として出てきた数字に戸惑う。
「成人死者等級じゃ。生前、結婚して働いてたら一級。一人暮らししてたら二級、親の脛かじって生きてたら三級……じゃ!」
「なんだそれ!今の時代結婚するかしないかは個人の自由だろ!」
「上は意外と古いんじゃ。それに一級と二級の違いはどうあれ、お前が下位なのは変わらん」
「だったらどうだっていうんだ?親の脛かじって生きてたから地獄行きだとでもいうのか?」
「お前にはチャンスをやる。というのが上からのお達しじゃ。三級の者にはわらわのような徳の低い天使が遣わされての。とあるゲームをやるんじゃ。」
「ゲーム?」
「お前には異世界である人物として生まれ変わってもらう。なに、赤ちゃんからやり直せとは言わん。お前と同い年、同じ性別、人間じゃ。その世界ではお前は盗み、詐欺、殺人、何をやっても構わん。ただし……」
グレイと名乗る幼女は俺の眼をじっと見つめて言った。
「生き残れ」
沈黙が流れた。
「その世界で生き残ったらどうなる?」
「その世界で生き続けるか、あの世へ帰るかの選択権が与えられる。」
「断ったらどうなる?」
「お前の魂はただちにあの世へ行く」
……そうか。だったら……
「やってやるよ。そのゲーム」
「そうでなくては面白くない」
グレイはそう言うと床に手をかざした。すると床からアーチが生えてきた。
アーチの中は黄金の光が満ちており、中を見通すことはできない。
「さあ、心の準備ができたら中に入ると良い。お前の第二の生が始まる」
俺は心の準備はもう出来ていた。どうせあの世に行くなら、
その異世界での――RPG《ロール・プレイング・ゲーム》――を楽しんでやろうと思ったからだ。
俺は黄金色に光るアーチをくぐった。
「ようこそ、異世界へ」
グレイの声がこだました。
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