あな婚だ。~あなたの目の前に野生の婚約者候補(フィアンセ)があらわれた!入力コマンドは!?……だがしかし、コントローラーにシカトされてしまったようだ。~
第36話 世界崩壊の足音と聖剣フラガラッハの真の主
第36話 世界崩壊の足音と聖剣フラガラッハの真の主
「……もう朝になっちまったのか」
あれから一睡もできず、俺は朝を迎えてしまった。未だ気分は悪く、水でも飲もうと部屋を出た。
「おや、兄さん。おはようさんですぅ~」
「ああ……おはよ」
上手く頭が回らず素っ気無い挨拶をしてしまう。
「うわぁなんだ!? 部屋の中に魔物が!!」
「っ!?」
天音の叫び声が響き渡ると俺は考えるより先にその声の元である部屋へ駆け込んだ。
「どうした天音!?」
「あっキミか! 部屋の中に魔物がいるのだ。早くなんとかしてくれ!!」
ベットの上で騒ぐ天音の視線の先には……。
「もきゅ?」
もきゅ子がいるだけだった。
「はっ? 何言ってやがんだよ天音。コイツはもきゅ子だろ? 冗談がキツすぎるぞ」
「ななな、何が冗談だと言うのだ!? それはドラゴンであろう? なら魔物ではないか!」
一瞬天音が何を言ってるか理解できなかった。だが天音の様子をみるに仲間であるもきゅ子のことを魔物認識していた。
「きゅ~」
もきゅ子は魔物と呼ばれ悲しそうに鳴きながら天音へと近寄って行った。
「こっちに来るな、この魔物めっ!!」
バンッ!! 天音は『魔物』を追い払うため、手元にあった枕をもきゅ子目掛けて投げつけたのだ。
「きゅ~っ!!」
もきゅ子は逃げるようにドアから出て行ってしまった。
「(一体これはどうゆうことなんだよ……)」
そこで俺は昨日帰って来てから誰も静音さんの話題に触れなかった違和感を思い出してしまった。あの時は気付かなかったが、もしかしたらみんな静音さんを忘れちまっていたのではないか? 今の天音ともきゅ子とのやり取りを見ているとそんな恐ろしい考えに到ってしまう。
「天音……」
「ん??? キミは誰に話しかけているのだ? あれ、そもそも私は誰なのだ?」
そして天音は自分自身の事すら忘れ去ってしまっていたのだ。俺は『大丈夫。大丈夫だから……』っと天音をベットに横にして寝るのを見守ってからそっと部屋を出た。
「あれもきゅ子は?」
廊下に逃げ出たもきゅ子姿が見えなかった。
「もきゅもきゅ♪」
「んっ? ああ、ジズさんと一緒なのか」
ふと見てみると玄関に佇んでいるジズさんの所にもきゅ子は居た。
「もきゅ子、さっきは天音がごめんな」
俺は天音に変わってもきゅ子に頭を下げた。
「きゅ~?」
だがもきゅ子は俺を見ても『貴方はだぁれ?』っと首を傾げるだけだった。
「はっ? も、もきゅ子……オマエ記憶が……」
「……姫さん、記憶が無くなってるみたいなんですわ。兄さん、魔王を倒しましたやろ? ですからこの世界はもう終わりなんですわ。次第にすべてが何事も無かったかのように
「ジズさんはまだ俺のこと覚えてるのか?」
「ええ、そうですわ。ワテは外史の存在やから元々影響を受けまへんのや」
ジズさんは悲しそうな目で俺を見てからもきゅ子に視線を移した。
「なら俺はどうすりゃいいんだ? そもそも魔王を倒したら元の世界に戻れるんじゃなかったのかよ?」
この世界の管理人である静音さんも居なくなり、俺はジズさんに問いかけるしかなかった。
「本来ならそないですわな。でも兄さんが元の世界に戻れていないのが答えやないんでっか?」
ジズさんは暗に俺に自分の頭で考えろと言ってくれてるようだった。俺はまだ元の世界には戻れていない……つまり、だ。
「そっか。そうゆうことか。ジズさん、さんきゅな♪」
「姫さんや赤い髪のお嬢さんのことはワテに任しなはれ」
俺はジズさんのその意図を理解すると礼を言ってその場所へ向け走り出した。
「はぁはぁ」
俺は宿屋を出ると大通りを抜け、街の中央にある噴水を通り抜け、そして一際大きな建物に入って行き重い両扉がある部屋の前に立った。
「……ここか」
そこはRPGのクライマックスでは定番中の定番である魔王のお城だった。
俺は両腕に力を込めてその重い扉を開いた。
「よおっ。待たせたか、クソメイド!」
「ふっ。ようやくお出ましか? 遅かったではないか。遅刻じゃぞお主」
「……何でサタナキアさんなんだよ。ここは静音さんじゃねぇのかよ」
俺はそこに居た人物に驚きの声をあげてしまう。
「どうしたのじゃ小僧。この場に
もう不思議だらけの光景だった。本来なら『魔王の間』には魔王である静音さんが居るべきなのに、何故だか知らないけれどもサタナキアさんが居たのだ。しかもラスボスチックな演出をしたかったのか、部屋全体には何故か缶に入った殺虫剤の霧が立ち込めていた。
「絶対この場に出てくるヤツじゃねぇよ。普通この流れで言えば、ここは静音さんがその椅子に座って俺が来るのを待ち、そして話し合いの末に平行線となり最後の最後に互いの命をかけて戦うって流れじゃねぇの? サタナキアさんわりぃけどさ、完全に場違いだよ……」
クライマックスを控える主人公としては時に厳しい言葉を口にせねばならない。でなければこれまで着々と敢えてコミカルな物語構成で抑えてきたのに、この最後の山場であるシリアスな場面で変な茶々を入れられては感動物語へと変貌を遂げる足枷となるからだ。
「この場に妾がいるのはじゃな、物語上重要な
「(サタナキアさんってお笑い要員じゃなかったのか。俺と読者の認識じゃ、完全にボケ要員って認識だったのになぁ。まさかまさかの重要な因子だとは思わなかったわ)」
俺は失礼なことを思いながらもその因子とやらを聞いてみる。
「で、何でサナタキアさんがここにいるのさ?」
「実は妾の本体である聖剣フラガラッハにはのぉ、呪いである『
サタナキアさんは長いセリフを言い終えると剣身全体が光りだすと俺に斬りかかってきた。
『やられる!?』っと思い目を瞑ったが衝撃はこなかった。そして目を開けてみた。
「またつまらぬモノを……いや、
何故だかトイレを詰まらせたようなドヤ声をしているサタナキアさんの声が聞こえ、聖剣フラガッハの刃は俺の股下の床部分へと突き刺さっている。
「俺は……生きているのか?」
「
聞けばフラガラッハには『すべてを断ち切る』という意味が込められており、誰かによって封印されていた俺の記憶の鎖を断ち切ったのだと言う。
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