第18話 半分だけ生き返る、その意味とは……

「うーん。不思議と天音お嬢様が起きませんね。何故でしょう???」

「もきゅ~っ???」

 静音さんともきゅ子はとても不思議そうな顔をしていた。


「(そりゃ起きるわけねぇだろうが。そんなんで生き返ったら苦労はしねぇよ……)」

 そんな苦言を心の中で呟いていると再び何を思ったか、静音さんは次の行動に移した。

「じゃあとりあえず、もう一度コレをブチ込みましょうかね♪」

 静音さんはそう言いながら『ジャラリ♪』っと鎖の音を立てそれに手を伸ばした。


「まさかまさか……」

 こんなとき俺の悪い予感とやらは良く当たるんだよなぁ~。外れて欲しいなぁと思いつつも『ああやっぱりかぁ~』っと呆れながら現実逃避するため、その光景をただ見守る事しか出来なかった。


「ほ~ら天音お嬢様ぁ~♪ さっさと起きやがれですよ~♪」

『ビューン……ドガッ!! ドガッ! ドガッ!』静音さんは笑顔ルンルン気分でまるでムチを振るうようにモーニングスターの鉄球を飛び跳ね上げるように棺へとぶち込みまくっている。そしてその度に棺から血やらなんやらがドッパドバっと床へと飛び散っていた。その光景をただ眺めていた俺だったが、ハッ! とし『さすがにやりすぎだろ!!』っと今更ながらに止めに入る。


「し、静音さん!! そんなことをしても意味ないからもう止めてくれ!!」

 俺はモーニングスターを操っている静音さんを後ろから羽交い絞めにして無理矢理動きを止めた。

「へっ? ちょ、ちょっとアナタ様どこを触っているのですか!? それとこれはお嬢様を復活させる『大切な儀式』なのですよ、邪魔をしないで下さいな!! そもそも『アナタ様が復活させろ』っと仰ったからしているのですよ」


「いやほんともう止めてくれっ!! こんなことしたら生き返らせるどころか、死者を冒涜しまくてんだろう!?」

 静音さんがとうとうイカれたのかと思い、全力で阻止する。


「もきゅ~っ」

 もきゅ子は悲しそうな声を出しながら、ズボンに裾を引っ張ってきた。

「何だよもきゅ子。今静音さんを止めてるんだからオマエも邪魔すんな……ってええっ!!」

 もきゅ子の方を向くとなんとそこには、今まさに棺から這い出てこようとする天音の手が見えたのだ。

 ガタガタ、ガタガタ……たぶん棺の蓋部分が破壊されて上手く開かないのだろう。血だらけの指が『うにょうにょ、じたばた』と動きだして這い出ようとしていたのだ。


「怖っ何あれ!? 天音のヤツほんとに生き返ったのかよ……」

「まま、そんなことよりもそろそろ復活なさいますよ♪」

「マジかよ……マジであんなんで復活しちゃうのか?」

『いいのかこれで?』とはもはや何度も思っていたが、まさかまさか武器で攻撃して生き返るとかどんなん世界の摂理なんだよ。


「ふふふっ。アナタ様もこれには驚きのようですね。実はこのモーニングスターはただの武器ではないのですよ。『生と死』を司ると言われてみたい『伝説の武器』という後付け設定だったのです!」

「で、伝説の武器なのだったのか? こ、これが……」

 俺にはただの『撲殺用の武器』にしか見えなかったのだが、実際この光景を目にしてしまえば例えそれが後付け設定だった・・・・・・・・としても納得せざるを得なかった。


「ムカツク相手にはこのモーニングスターで撲殺し、お金を貰えればこれでぶん殴って復活させる。なんともはや世知辛い世界ですよねー」

「結局静音さん的には何でも『金』なんっすか」

 もうこの世界の摂理よりも、静音さんの考え方そのものが怖くなっていた。


「もきゅっもきゅっ!!」

 何やらもきゅ子が慌てた感じで鳴きながら再びズボンの裾を脱がさんばかりに引っ張ってきたのだ。

「何だよもきゅ子? また裾を掴んでさ、そんな引っ張ると伸び……ってあれ!?」

 再びもきゅ子の方を見ると、なんと棺が開いており中が空になっていたのだ。『一体いつの間に?』そう思い教会内を見渡すと、天音が教会の中を歩いていたのだ。


「あーーうーー」

 だが天音の様子が変である。何やら唸り声を上げながら両手を突き出し、顔を伏せ教会内をウロチョロしていたのだ。

「天音のヤツ……何してんの?」

「……たぶんですが生存本能のみで動いているのでしょうね」

「あーーっ?」

 どうやら声に反応したのか、こちらに振り向くと俺達に向かってゆっくりと歩いて来ていた。


「ちなみに静音さんに聞きたいんだけど、アレはさ……い、生きてるんだよね?」

「えっ? ああ……え~っと、は、半分だけ生き返った感じですかね?」

(は、半分かぁ~。まさかここでそのフラグを回収してしまうとは予想もしてなかったぜ)


 静音さんから復活させる為の寄付金が半分しかなく『半分だけ生き返らせる』と言ったのは、まさにこのゾンビ状態半死半生を指していたのだろう。幸いというべきか服だけはちゃんと着ていたのだが、先程静音さんが行なった自称『復活の儀式』とやらのせいで所々傷だらけとなり、手足もあらぬ方向に曲がってお腹からは色んなモノが『ぴょんぴょん♪』っと中身が踊りだすように飛び出していた。それはまさに女の子ヒロインが決して他の人に見せてはいけない『秘密のモノ』だったのかもしれない。


「静音さんさすがにこれはマズイでしょ。だって何かその……色々といけないモノが飛び出しちゃってるんだよ」

「きっと天音お嬢様方もサービス精神旺盛なんですよ♪ ほら色々とポロリとして読者の方々にアピールしていらっしゃるでしょ?」

 天音のお腹からドロリドロリっと色んなモノを外に排出していた。


「うん。すっごくスプラッターホラー感をアピールしまくってるよねぇ~。それにもうあれはポロリを超えて、もはやドロリの領域だよね?」

「き、きゅ~っ」

 この光景が怖いのか、もきゅ子も俺のズボンの裾を掴んで怯えている。そんなもきゅ子と読者の為にも物語を早く進めるため、静音さんに声をかける。


「そもそもどこの世界にメインヒロインが女の子として……いいや、人として大切なモノをドロリしたままゾンビになって、教会内をウロチョロしてる物語があるんだよ!? あまりにも斬新すぎて文字描写すら追いつかねぇわ!!」

「ちっ……しゃあーねーですね。わかりましたわかりましたよ。真面目やりゃいいんでしょ。真面目に」

 俺の物言いに対して静音さんは物凄くヤサグレながらも真面目に『復活の儀式』とやらをしてくれるようだ。そもそも出来るなら最初から真面目にやりやがれよ!


「ほ~ら天音お嬢様ぁ~♪ さっさとこっち来いやぁ~Deathデスよ♪」

 どうやら静音さんは天音をる気でいるようだ。それは彼女のセリフに組み込まれた英文字からも容易に読み取れた。

「あ~~う~~?」

 静音さんの言葉に反応を示すかのように天音は静音さんの方向に歩いて行く。


「アナタ様。モノは相談なのですが、ちょっくら天音お嬢様の餌食になってくれませんかね?」

「はぁっ!? なんでだよ俺をエサにするって言うのか。あっいや待てよ……」

 だがもしかしたら真面目な『復活儀式』とやらをするのに時間を稼ぐ必要があるのかもしれない。そう勘繰って静音さんに聞いてみる。


「それはさ、絶対に『復活の儀式』の為には必要なことなんだよな? 正直すっげぇ怖いけど、天音の為に頑張るからさ! よーし、俺が気を惹いてるその隙にさっさと復活の儀式とやらの準備を……」

「いいえ全然。アナタ様を生贄にする事と復活の儀式とは何の関係ありませんね」

 静音さんはすっげぇ素の表情で首を左右に振り、『まったく必要ではないですよね』っとバッサリと否定してしまう。


「はっ? じゃあなんでそんなことを頼むんだよ?」

「いえ、実は人がゾンビに襲われたらどうなるのかなぁ~。な~んて、好奇心がなんとなく疼いちゃいまして。やはり人間好奇心には勝てませんよね~」

 静音さんは何食わぬ顔でそんなことを口にしていた。どうやらただの興味本位で俺にゾンビに襲われて欲しいようだ。


「そんな好奇心は捨ててしまいやがれっ!! アンタの好奇心を満たすために俺のこと生贄にする気なのかよ!?」

「(ハッキリと元気よく)はい!」

 まるで保健室のポスターに書かれている文言くらい、もう一切の迷いがないのよねこの静音さんクソメイド。まぁだからこそ、こちら側もルビ振りで『静音さん=クソメイド』っと訳させていただいてるわけなのだがな。


「あっようやく天音お嬢様もいらっしゃいましたね。それではさっそく『復活の儀式』とやらの準備をいたしますね♪」

 どうやら俺達の会話の最中にも天音はしっかりと歩いてきてくれたようだ。ものすっごく歩み遅いけどね。


「よいしょっと。さぁりますよ~♪」

 ジャラリ。静音さんは再びそんな不穏な音を立てながらまたもやモーニングスターを手にしていた。

「おいおいまたかよ。またなのかよ……」

 そんな俺の悲痛な叫びも空しく真面目な『復活儀式』とやらは滞りなく行われようとしている。だが俺にはそれを止めることすらできない。


「天音お嬢様……死にやがれです!!」

 静音さんは先程のふざけた感じではなく、まるで恨みがこもったよう声でそう叫びながらモーニングスターをぶん回した。

「あ~~?」

 天音が静音さんの声に反応して顔を上げたその刹那、ドガーッガラガラガラ……ガッシャーン!! 天音は顔に鉄球をモロに受けてしまい、派手に壁へと激突してしまった。

「……」

 そして完全に沈黙してしまい動かなくなってしまったのだ。


『おめでとうございまーす♪ ド真ん中大当たりでクリティカルヒットで~す♪ ……天音ゾンビは死にました』


 そんなナレーションのお姉さんの声が聞こえた瞬間、天音は光に包まれてまたもや棺になってしまった。

「結局このパターンなんっすか……」

 もはや作者の制作手抜き描写とも思えるその繰り返し……だが、それも嫌いじゃない!!

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