第17話 復活の儀式とモーニングスター

「じゃあ兄さん。姫さんのことは頼みましたんでワテはこれで失礼しますさかい。ほなさいなら~」

「あっそうですか。お気をつけくださいね~」

「もきゅ~♪」

「えっ? じ、ジズさん一体どこに行く……」

 俺が言い終える前にジズさんはその大きな羽を羽ばたかせるとそのままどこかへ飛んで行ってしまったのだ。静音さんももきゅ子も何事も無かったかのように手を振りジズさんを見送っている。


「ま、マジかよ。仲間になったんじゃなかったのかよ……」

 どうやら仲間になったのはもきゅ子のみでジズさんは仲間にはならなかったようだ。俺は『こんなパーティで魔王を倒せるのか?』っとややショックを受けてしまう。

「へっ? 仲間ならもきゅ子がなったではありませんか?」

「もきゅもきゅ!」

 どうやら静音さんともきゅ子は最初からそのつもりだったようだ。どうやら俺の一人勘違い祭り開催中フェスティバルであったらしい。


「さぁアナタ様。もきゅ子という心強い仲間を得たことですし、とりあえず天音お嬢様を復活させるためにも教会に行きませんかね? そのこんなことは言いづらいのですが……最近暖かくなってきましたし、腐ってしまうかもしれませんのでなるべくお早くして欲しいのが本音なんです」

 静音さんは申し訳なさそうな顔をして『まずは教会に行って天音を復活させるのが先決だ』っと俺に提案してきた。


「えっ!? 人って教会で生き返らせることが出来るのかよ!!」

「ええ、そうですよ。それがどうしたのですか?」

『えっ? そんなの常識でしょ』っと言った感じで極々普通に返してくる静音さん。

「…………」

 俺はその事実に言葉を失ってしまった。


「アナタ様は何か勘違いしておられるようですがこの世界は古きRPGをモチーフ元ネタにしているのですよ。そりゃ死んだら復活できるに決まってるでしょうが(笑)」

 っと言ったように静音さんは草を大量に生やし、大草原にして地球温暖化抑制に貢献するかの勢いだった。


「そっか……そうだよね。RPGの世界だと教会とかで金払って簡単に仲間生き返らせることが出来るもんね。それに一応天音も勇者でメインヒロインだもん復活させないといけないよなぁ。うん、分かった。とりあえず教会に行こうか!」

 さすがに美少女とはいえ腐敗した姿のヒロインを見たくはないと思い、俺はその提案を受け入れることにした。


 先程ジズさんに追いかけられて街の中を逃げ惑っていたが、それほど距離は遠くはないようだ。来た道を5分くらい戻るとアルフレッドのおっさんの農家に着き、そして宿屋を通りすぎ大通りを抜けて一路教会を目指す。途中静音さんともきゅ子は例の如く天音の棺の上に乗っている。途中静音さんから『アナタ様も……』っと誘われたがさすがに危機的状況下ではないので、俺は乗ることを拒否しロープで引っ張っている。


「ふぅ~っ。やはり紅茶はアールグレイですかねぇ~♪ ダージリンも嫌いではないですが、この甘い香りが堪らないんですよね。あっもきゅ子、焼き菓子がありますよ。食べますか?」

「もきゅ~? もきゅもきゅ♪」

「なんか後ろの方だけどさ、すっげぇ和んでねぇか? 文字描写と状況的にアレはいいのかよ……」

 正直お茶するのは一向に構わない、こうも天気が好ければ喉も渇いてしまい水分の補給は大事である。


 だがしかし、何も棺の上でお茶会を開くことはないだろう。しかもその棺はこの物語のメインヒロインであり、また勇者でもある天音の棺なのだ。むしろメインを退場させここまでぞんざいに扱う物語なんて正直聞いたことがなかった。そして歩くこと数分、俺達は教会へと辿り着いた。

 キィィィィッ。ゆっくりと教会のドアを開け、中の様子を窺ってみる。


「静音さん。どうやらこの教会は無人みたいなんだけど……大丈夫なの?」

 教会の中は木で作られた椅子があり小綺麗でちゃんと手入れもしてあった。もし使われてなかったとしたらこんなに綺麗ではないだろうからたぶん定期的に掃除をしているはずである。ということはこの教会は無人ではなく、たまたま留守にしてるだけなのかもしれない。俺はとりあえず棺を牽いたまま前にある教壇へと向かうことにした。


「さて留守みたいだけど、どうしたものか」

 そんなことを思っていると静音さんともきゅ子は棺から降りて俺の脇を通って教壇の前へと歩いて行く。な~んか嫌な予感しかしないがその行方を見守ることに。


「こほんっ。さぁ迷える子羊よ、この教会に何か用でもあるのですか?」

「え、え~っとその……」

 俺は状況がさっぱりと理解できず言葉を上手く出せなかった。だが改めて静音さんの役柄が一応は『僧侶様』である事を思い出して納得する。


「ほらアナタ様、セリフセリフ」

 静音さんは教壇の置かれていた聖書っぽいモノを開き俺に見せつけてそこに書かれているセリフを喋るよう促してきた。よくよくその聖書っぽいモノを見ると表紙は聖書なのだが、中身は役割やいつどのセリフを言えばいいのかなどが書かれた台本カンペだった。

「(い、いいのかよそれで……)」

 俺はそんなことを思いつつも物語を円滑に進めるため、セリフを口にする。


「覚悟しろオーク野郎が!! この俺がオマエを……ってこれセリフ違くねぇか???」

「あっ……すいません。どうやら違うところを開いたみたいですね」

 静音さんはペラペラっと聖書という名の台本を捲るとお目当てのページが見つかったのか、トントンっと指を鳴らして指し示していた。


「え~っと、何々……あのー俺達死んだ仲間を助けたいのですがー、どうすればよいのですかー?」

 俺は指示されるがまま、そのセリフを読んだ。

「いや、アナタ様。すっげぇセリフ棒読みなんですけど。あのぉ~せめてもう少しだけ真面目に演じてもらえませんかね? アナタ様も一応は主人公ですし……」

「(お、オマエにだけは言われたくねぇよ!!)」

 強く握ったコブシをプルプルさせつつ、今度はちゃんと感情を籠めてセリフを言うことにした。


「あ、あのっ!! 俺達死んだ仲間を助け……」

「はい。それならお一人様につき20シルバーのご寄付を戴いております。どうやらそちらはお一人様のようですので、合計20シルバーになりますね♪」

「…………」

 静音さんから真面目に演じろと言われすっごく真面目に演じたのにまだセリフの途中で邪魔されてしまい、怒りとも悲しみとも思えぬ感情から無言になってしまう俺がいる。


「そ、そんな20シルバーだなんて!? 今の俺達の手元には10シルバーしか持ってないんですよ! なんとかなりませんか、天音は勇者であると同時に俺の大切な仲間なんです!!」

 俺は力の限り与えられた自分の役割を演じながら、手持ちの全財産である10シルバーを教壇に叩き付け静音さんに頭を下げて頼み込んだ。正直『何で静音さんに頭下げて頼まなきゃいけないんだ!!』とは思っても口には出さなかった。


「そうでしたか。それならば半分だけ・・・・生き返ることになりますが……どうなさいますかねー?」

 だがそんな静音シスターはしれっとした態度で『何お前金持ってねぇーの? それなら半分だけしか生き返らせねぇからな!!』っとやる気のない返答になっていた。


「は、半分だけ生き返る……ですか? それって……」

 俺はその言葉の意味が分からず聞き返してしまったのだが、『ガチャガチャ、ガチャガチャ』っと音を立てながら静音さんは何か作業をしていた。


「さてと。準備も整いましたし、そろそろ天音お嬢様をを復活させますかね~」

 どうやら何かやってるかと思ったら、静音さんは『復活させる準備』をしていたようだ。

「えっ!? 金足りないのに復活させてくれるのか!!」

 俺はこのとき内心『お金足りないのにちゃんと復活させてくれるなんて、静音さんも案外良いとこあるよね♪』っと喜んでしまっていたのだが、後々先程静音さんが言っていた『半分だけ……』の意味を知る事となる。


「あっ、よいしょっと!」

 何を思ったか、静音さんはモーニングスターを取り出し『ダダンッ!!』っと教会の床に叩き付けると教壇の上へと登っていた。

「な、な~んか嫌な予感がするんですけどさ……」

 俺はこれから起きるであろう展開が容易に予想出来てしまい、少しだけ……いやかなり不安になってしまう。


「さぁ。いよいよ天音お嬢様を復活させますよ~♪」

 俺のほぼ予想通り、静音さんはモーニングスターをぶん回し始めていた。『ビューンビューン♪』っと凄まじい程の風切り音が教会中に響き渡り、先端に付いている鉄球は遠心力も手伝い更に勢いを増していた。


「あの……これってさ、ほんとに仲間を復活させる儀式なんだよね?」

 俺は誰に問うでもなくそう呟いた。

「もきゅっ!」

 そして何故だか俺の隣にいたもきゅ子は「うん!」っと元気良く頷き俺の不安心を煽りに煽っていた。


「あっ、そぉ~れ~っ♪」

 静音さんがそう声をかけた次の瞬間『ドガンッ!!』っとすごく鈍い音がした。それもそのはず鉄球は天音の棺の真ん中にその重たい身を委ねているのだから……。要するに天音が入っている棺の真ん中に重い鉄球が刺さっているわけなのだよ。


「ししし、静音さんっ!? アンタ何してんのさ!! 天音の棺にモーニングスターの鉄球が刺さってるよ!!」

 俺は心構えが出来ていたつもりだったが、いざその光景を目の前にすると静音さんの暴挙に混乱し慌てふためいていた。


「へっ? アナタ様、何をってこれはその……一応は復活の儀式なのですが……」

 何食わぬ顔で静音さんはあくまでもこれが『復活の儀式』だと言い張っていた。

「こんな儀式あるわけないでしょうがっ!! そもそも違うでしょっ!!」

 俺はその間違いを正すべく、静音さんに対して怒りの抗議をする。


「あっ、そうですよね。アナタ様の言うとおり……ワタシが間違っておりました」

「きゅ~」

 静音さんともきゅ子は反省するようにしょんぼりとした顔をする。どうやら俺言いたい事をちゃんと理解してくれたようだ。だが人間誰しも失敗の一つくらいはあるものだ。だから俺は諭しつつも反省の姿勢をみせる静音さんを許そうと思う。


「まぁ。静音さんも反省したようだし……」

「そうですよね! 最初に『復活の呪文』を唱えるのを忘れておりました!」

「きゅ~ぅ♪」

「……いやいや、なんでそうなるのさ! そもそも俺が指摘してるのは呪文を唱えるとかそうゆうことじゃなくて……」

 そして俺の言葉を無視するかのように静音さんが呪文を唱え始めた。


「ほぉ~ら~天音お嬢様さっさと起きやがれ~です♪ 起きないと~ブチ殺しますよ~♪ だから起きてくださ~い♪ 今なら~もきゅ子が食べ残した焼き菓子もありますよぉ~……」

「もきゅ~もきゅっ♪」

 静音さんは『復活の呪文』とやらを唱え、もきゅ子も隣で『もきゅもきゅ』言って静音さんの真似事をしている。


「これのどこが復活の呪文なんだよ…。そもそも復活させるのに『ブチ殺す』って表現は果たして適切なのだろうか……」

 俺は奇しくもその光景を目の当たりにして常識的な思考で物事を考えてしまっていた。だがしかし、静音さんともきゅ子が復活の呪文を唱えても天音は一向に復活気配すらなかった。むしろこんなので復活する方がおかしいだろう。

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