異世界召喚されたけど勇者ではなかった
東海道
第1話 召喚された
悪しき魔族を滅ぼすために、異世界とやらに勇者として召喚された。
眼前におわす王様の話を要約すると、こうなる。
少し前のこと。
仕事が休みなのでその辺をふらふらと散歩していたら、突然足元から眩い光が噴出した。その光が収まったと思ったら、それまでと全く違うところにいた。
石造りの部屋であった。
その部屋にはおれのように呆然としている人間が他に四人いて、そんなおれ達を囲むように、さらに十人ほどの人間がいた。
「成功……の、ようですね」
そして、その中の一人の人物がそう言ったのであった。
その後、わけのわからぬままおれ達は別の部屋に移された。
その途中で感じたのは、建物の内装もおれ達を囲んでいた人間も、異国の風情があって、落ち着かないということであった。日本の雰囲気が一切ない。
そもそも光に包まれたと思ったら、ほんの数秒で全く違うところにいることからして、わけがわからない。
ともあれ、おれ達は白い部屋に連れられ、そこで革張りのソファに座らされた。家具の価値なぞわからないけれども、このソファ含め、部屋の調度品全てが高級そうだと、漠然と思った。
そしておれ達の対面に一組の仰々しい服装の男女が座った。二人揃って、頭に王冠のようなものを被っている。
「私はマクロル王国国王レイテルト・フランジェル・マクロル。こちらは妻のソーニエ・ライア・マクロル。ようこそおいでくださいました、勇者様方」
やっぱりわからない。
続いてされた説明によると、
ここはおれ達からみて“異世界”にあたるらしい。
この世界には“魔族”なる人間とは異なる生物がいて、彼らは悪の化身である。
そしてここマクロル王国は魔族を滅ぼすために“勇者召喚”なる儀式を実行した。
その結果現れたのがおれ達である。
帰りたい。
説明されても飲み込めないことばかりだが、要は戦うために呼びつけられたということだろう。そんなことは勘弁願いたい。
それから王様は、魔族は今は目立った動きはないが奴らは本質的に凶悪で、また恐ろしい力を持っている、強大な力を持つ勇者様方だけが頼りなのだ、などと語った。その姿は必死なものであったが、ふと我に返ったようで、部屋を与えるから少し休んではどうかと言った。
肉体的な疲労はともかく、精神的にはおおいに疲れていたので、その言葉に甘えることにした。
「で、これ本当に現実か?俺達みんな夢見てんじゃねーの」
あてがわれた部屋に着いて案内人がいなくなると、大学生くらいの青年が乱暴にベッドに腰かけ、そう言った。
「…じゃあ、あたしたち全員同じ夢見てるって?」
「集団幻覚ってなあるだろ、そんな感じじゃね」
胡乱げに青年に返したのは、高校生くらいの少女。もしかしたら大学生かもしれない。とうに学生でなくなった身からすれば、制服でなければ見た目の区別が着きにくい。
それはともかく、これが現実と思えないのはおれも同じだ。夢と言われた方がよほど納得できる。
「ま、とにかくあれだ、自己紹介でもしようや。夢でも現実でも、お互いの名前くらい知っててもいいだろ」
そんな彼の言葉に全員同意して、自己紹介の流れになった。
「じゃまず俺から。俺は
最初は言い出した彼から。茶に染めた髪を後ろに上げて、カチューシャでまとめている。両耳にはピアスを着けていて、非常に軽薄な印象がする。
「あたしは
明るい髪色で、ポニーテールの背の高い少女。やはり高校生だった。
「えっと、僕は
眼鏡をかけていて、一にのまえ君とは対称的に真面目そうな少年である。
「
軽くウェーブしたというのか、そんな風になっている、なんとなくほわほわした感じのする少女である。
大学生は少女か女性か、どう形容すべきか曖昧に感じる。そんなことはどうでもいい。
「
小さい時分は「そうか」と言うと、「そうかがそうかって言ったー!」などといじられた。
「で、話戻すけど実際どうよ?いきなり勇者だとか魔族だとか言われたけどさあ、俺らに戦えるのか、てな」
「…えっと…」
「何だ
「……」
道祖君は一君に対して少し苦手意識を持ったようで、もごもごやっていたが、結局発言した。
「勇者として召喚されたなら、既に僕達にはなにかしらの力とかがあるんじゃ…」
「なるほどね、あたし達に自覚がないだけで、生まれつきあたし達には何かあるのか、召喚自体に力を与える効果があるのか、そんなところなのかしらね」
「魔法とか使えたりするのかなー」
おれは先程から面倒くさいから帰りたいとしか考えていないのに、年下の彼らは皆妙に冷静だった。これも勇者所以かもしれない。
では…おれは勇者ではないのか?だったらいいのに。
「
「怪しいから帰りたい」
しまった。急に話を振られたものだから、素直に答えてしまった。
「まあ…やっぱそっスよねー」
ところが、一君の反応はこんな風であった。それに反論したのが蟻芝さんである。
「ちょっと、あの王様の顔見てなかったんですか?あんなに一生懸命で…あれで嘘ついてるなんて思えない」
「どーだかなあ、表情なんかどうとでもなるだろ。勝手なイメージだが、王様ともなりゃ腹芸の一つくらいはできなきゃ務まりそうにねーしな」
それにまた蟻芝さんが噛みつく。それにまた一君が否定的な意見を言う。以下、これの繰り返しとなった。
どうやら蟻芝さんは正義感が強過ぎるきらいがあり、一君は慎重な性格のようである。
「君達はどうだね」
言い合う二人をよそに、道祖君と主計かぞえさんに聞いてみる。
「僕は、…まだわからないです。けど、困っている人がいて、それを僕が解決できるなら、そうしたいです。」
「私もそんな感じですねぇ。まあでも、勝手に呼ばれて戦えー、だなんて言われても…」
「そうか」
そもそも唐突過ぎて理解が追いついていない。だからまだ判断できない。こんなところか。
明日また王様たちと話すことになっているから、それからまた考えれば良いだろう。
蟻芝さんと一君はまだ口論している。一君は特に変わった様子はないが、蟻芝さんの表情は少しばかり険しくなっている。
ふと窓の外を見ると既に闇の帳が降りていた。とりあえず寝ようと思ったので、二人を止めることにした。
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