第64話 お姉さんに会う日
お姉ちゃんに話したら、「あら出来るだけ早く会いましょうよー」とハイテンションで、啓も「何着ていけば好印象なんだー!」とか始まっちゃって……。またわたしとお兄さんはついていけないんだ。
お姉ちゃんとお兄さんと三人で話してると、気がつくと話はお姉ちゃんのペース。入る隙がない。
それに啓のおしゃべりが来たら……。痩せそう。
お姉ちゃんはこともあろうに、焼肉屋を指定してきた。
「若い男の子には肉!」
という信念のもと、わたしもお姉ちゃんもお兄さんまで「焼肉より寿司」派なのに、ここに来て何を思って……。しかも、食べ放題コース、お姉ちゃんたちのおごりで。
お兄さんからこっそり、
『風ちゃん、無理してたべなくていいからねー』
とLINEが入っていた。
さて、当日。
わたしは別に着るものとか遠慮ないので、いつもの学校に行くような服を着る。啓がジトジトとこちらを見ていて、「ご挨拶に伺うのにあの格好……」とかぶつぶつ言ってるけど、今日はフリーだ。
でも、このまま置いておくと啓が行けなくなっちゃうので、
「わたしいつも啓ってオシャレだなーって思ってるの。この前買ったポロシャツとチノじゃ無難すぎるかな? 」
「あのポロシャツ、ちょっと高かったけど、いいよなー」
「うんうん」
ちょっとだけ、めんどくさい人である。
お姉ちゃんと約束してたのは、お姉ちゃんの家のそばにあるチェーン店。家と言ってもマンションなんだけど、お兄さんがぽーんと買ってしまったらしく……そんなときのお兄さんはちょっと恐ろしい。つまり、物腰が柔らかで人当たりはいいけど、何を考えてるのかわからない、と。
「初めまして、小鳥遊 風の姉の小野寺
「おいおい、『こっち』呼ばわりかよ。よく来たね、風ちゃん迷わなかった? なんか先に家に寄るのは順番的に星がダメなんだってさ。家はあとなんだって」
「お兄さん、ごめんねぇ。おねぇちゃんのことだから」
「慣れてるから大丈夫だよ、風ちゃん。で、風ちゃんの唐揚げの彼氏だね」
啓が吹き出す。
「か、唐揚げとかそういうむかしのことは置いておいて。まぁ、あの、彼が小清水啓太郎くんです」
なんかフルネーム久々。
「小清水
「わお! 風の彼氏なだけあって、しっかりしてるわ! そっか、小清水くんか……小清水……こっしー!」
お姉ちゃん、一人ウケ。
「冗談だよ、みんなで怖い顔してー。もっと和やかにねぇ。ほら、啓ちゃんも何かしゃべって」
「お姉さんがしゃべったほうが絶対的に楽しいのに!? 無理ですよ。……なるほど、この辺りが姉妹なんですね」
「そう、似てないように見えて、似てるんだよ。風ちゃんも中身はたぶん変わらないから、お互い苦労するよ」
お兄さんと啓はすっかり仲良くなってしまったのか、二人で話している。
「お姉ちゃん、コース、何頼んだの? いちばん高いのとか頼んでないよねぇ?」
「バッカじゃないの、あんた。お祝いごとなのに、ケチケチするもんじゃないわよ」
「お、お祝いー? まだつきあい始めに近いと思うんだけど……」
お姉ちゃんはサプライズの天才だ。いつも常にみんなが喜ぶこと、驚くことをするのが喜びのひとつだ。しかし……お祝いはうれしいけど、やり過ぎな気がする……。
「昼間っから飲み放題!? 」
「しーっ! 風、声大きいって」
「だってお姉ちゃん、おかしいよー。こんな時間から飲んじゃうのー?」
啓が耳元で言葉を告げる。
「あのさ、せっかくなんだから、今日はご馳走になっておこう? でも、風は絶対、ぜーったい、飲んじゃダメだからね!」
最後の方は、せっかく小さな声で言い始めたのに、みんなに聞こえる声になった。
「相変わらず風ちゃん、お酒ダメなんだねー」
お兄さんが笑う。うう、その節は……。
「風ねー、わたしたちの結婚式の乾杯用のシャンパン、ぐわーっとあおっちゃったのよ」
「!!!」
「啓くんはわかるでしょう? それが風ならどうなるか?」
「ああー。もう目に映るようですー」
啓はすごく嫌な顔した。まぁ、理由がわからないわけではないけれども。
「でも、ボクはいつも一滴も飲んじゃいけないって言ってるんですが……なぜか飲んでるんですよね」
一同、飲み放題のメニューを複雑な目で見ている……。
「はい。わたしはソフトドリンクにします。皆さんは楽しんでください」
「風ー、少しだけ飲みな。泊まっていってもいいんだしね」
「お姉ちゃん、ありがとう!」
「好きなだけたまには飲め」
最後の発言にみんな、ぎょっとした!
「あー、なんか風とお姉さんがベストコンビなのがわかってきたな」
「そうなの? 」
「仲いいよねー? ボクもそう思いますよ」
お肉は上等なものが次々に運ばれてきて、みんな遠慮なく食べた。炭焼きで網で焼いたお肉は脂が程よく落ちて美味しい。啓もしあわせそうな顔をしてお肉を頬張っている。……男の子はお肉、よく食べるなぁ。
啓のうちにいると、食事はほとんど和食なのに、たまにはやっぱりお肉を食べたいのね。肉料理、……お姉ちゃんに教わるか?
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