小清水くんと小鳥遊さん
月波結
第1話 「とりあえず」
今日こそは言わないといけないと思っている。さすがにズルズルと先延ばしにし続けるというのは気が引ける。だって……マズイよね。自分だったら絶対、イヤだ。
もちろん結果から見ると『断られる』くらいなら聞かなければよかったっていうのはあるかもしれない。でも、答えをもらえないのは苦しいと思う。が、『断る』方がこんなに心苦しいなんて…。こっちが先にまいっちゃいそうだ。
それは人生で初めてもらった恋の告白だった。
「すきです。つき合ってください!」
A号館前の散り始めた桜の下で、突然、呼び止められた。一緒にいた女ともだちのちーちゃんと美夜ちゃんは、「先に行ってるね」、「がんばれよ」とニヤニヤしながら小走りに行ってしまった。わたしは呼び止められた姿勢のまま、不自然に固まっていた。
「あ、あの…なんか突然すぎません?」
「突然かなぁ? そんなことないでしょ? クラスで飲む時には必ず参加してたし、実習もサボらないで行ったし、なんて言ってもサークルだって一緒だよ」
「や、サークルは…」
確かに彼の言うとおりだったけど、クラスというか学科は30人ほどで、飲みに行ってもわたしはちーちゃんたちと一次会上がりだったし、実習は単位もらえないから皆、ちゃんと出てるし、サークルは大所帯の、名前ばかりの「ミステリー研究会」で、ただ遊びたかったり出会いを求めてたり、そういう不純な動機のサークルだった。
むー。
わたしは下を向いて何か反撃するきっかけを探した。どうして反撃しなければいけないのかわからないけど、流されちゃうのはイヤだなーと思っていた。
「
「あ、うん…。なんかこっちこそ、ごめん。考えさせてね…」
「じゃ!」
納得した顔をして走って行ってしまった。
その後、ちーちゃんたちと南門前で合流した。
「小清水のやつ、カッコイイな。なんだよ、『すきです。つき合ってください』って、正統派すぎるー」
まずちーちゃんが茶化した。
「ちー、言いすぎ。いいじゃん、正統派で。
「まぁね、チャラく見えるけどある意味、場の空気、読めるってことでもあるしね」
わたしが口を挟む間もなくふたりの間で話がどんどん進んでいく。まぁ、わたしが食べるだけで精いっぱいで、おしゃべりに混ざれないんだけど…。
駅前のファミレスはわたしたちと同じ学生でいっぱいだった。お昼時ということもあるけど、そうじゃない時間も学生がダラダラとお茶を飲んでたり。ドリンクバーはダラダラするのにうってつけだ。わたしたちも今日は午後イチの授業がないから、ドリンクバーでゆっくりご飯しに来た。
「でもいいねー。むかしの少女マンガみたいじゃん? うっとりかも。ヤバい、小清水がイイ男に見えてきた!」
ちーちゃんがひとりでウケている。それを美夜ちゃんが横目で冷ややかに見ながら、
「ちー、風ちゃんのものだから、小清水は。あんたのじゃないの。…でもわたしもタイプだと思ったよ、入学したとき」
「うお? 問題発言! 美夜っち、魔性の女だな。
高城先輩はサークルの先輩でひとつ上、美夜ちゃんと1回生のときからつき合っている。なんていうか、美夜ちゃんは大人びている。クールでしっとりとして、年上の彼氏がいるのも頷ける。
「高城クンはもういいの…別れたわけじゃないけど、今年で彼は卒業だしね…」
…恋って難しいなぁ。
「で? 風はどうすんの?」
「風ちゃんには押しが強すぎるんじゃないの?」
ふたりとも、ドリンクを飲みながらこちらをじーっと見ている。…わたしはまだサラダうどんを食べている。
「風、飲み物持ってきてあげよっか?」
「ありがとう…紅茶お願い」
「おけ。ダージリンでいいよね?」
うなづいた。
「風ちゃんは高校の時、彼氏、いたんでしょ?」
「あ、うん。少しだけつき合ったっていうか…」
「じゃあ別に初めてってわけじゃないなら、とりあえずつき合ってみるっていうのもアリじゃない? 小清水はいいやつだと思うし、女関係の噂もないし、意外と純粋なのかもよ?」
顎の下で手を組んで、美夜ちゃんは涼しげに微笑んだ。
「お茶ー。遅くなってごめん。混んでてさ」
「ありがとう、ちーちゃん」
「お、やっとうどん、終わったね。ポテトでも頼もうか?
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