第10話…私の趣味はアクアリウム!

 家に着いたのは1時過ぎ。

 ご飯よりも先に、水合わせの方法を検索した。


「あ、浮かべとけばいいんだ。簡単。」


 ネオンテトラが入った袋を取り出し、水槽のガラス蓋を開けて袋のまま水に浮かべる。

 こうすることで水温が均一になり、魚に与えるショックが少なくなるそうな。


「よし、それじゃあご飯だ。」


 どたどたと階段を降りてリビングに向かい、お父さんが作った焼きそばをチンして食べる。

 リビングではお母さんと妹がダラダラとテレビを見ていた。

 いつもはここに私も入っているのだが、今日の私は忙しいのだ。


「ごちそーさまー。」


 お皿をキッチンに片付けて、そのまま自分の部屋へ。


「もういいかなぁ。」


 袋の中のネオンちゃん達は元気なようで一安心。


「んー、水草植えてから、ネオンちゃんを放した方がいいかなぁ。」


 水草を植えるために手を突っ込む事を考えると、まず水草を植えてから、ネオンちゃんを水槽に放した方が、びっくりしないで済みそうだ。


「とりあえずバケツとタオル。ハサミもかなぁ。あ、裁縫セットはどこだっけ。」


 スマホで水草の植え方を調べながら必要なものを確認していく。


「よし!やるぞー。」


 ハサミで袋を切って、水草を取り出す。

 輪ゴムはぎちぎちに巻かれていて上手くとる事ができなかった。


「まずはアヌビアスナナを、流木に……。あ、流木洗ってこなきゃ。」


 急いでキッチンに向かい、流木を水で流す。

 アク抜き済みだから水で流すだけで大丈夫って言ってたっけ。


「あー、タオル…。」


 タオルを部屋に置いてきてしまった。洗面所から1枚持ってきて、流木を包んで2階に戻る。


「よし、まずはアヌビアスナナをポットから取り出して…、この変なのを取り外す…。」


 変なのはグラスウールというらしい。しゃりしゃりしていて、根っこを保護するみたいに絡まっている。


「んー、流した方がいいかも。」


 アヌビアスナナとタオルを手に持ち、キッチンに向かう。

 アヌビアスナナの根っこを水で流しながら、微妙に残ったグラスウールを取り除く。


「よし、おっけー。」


 自分の部屋に戻って、流木にアヌビアスナナを合わせる。


「んー、この辺かな。」


 根っこを指で押さえながら、裁縫用の糸をクルクルと巻いていく。

 強めに巻き付けていいみたいなので、解けるよりはマシかと思いしっかり巻き付ける。


「よし、できたー!意外と簡単じゃん。」


 うんうんと1人で頷きながら、流木を水槽に沈める。


「んー、この辺か…?あれ?石が邪魔?ん?」


 頭に思い描いていたレイアウトになるように流木を配置する。…けれどもなんだかしっくり来なかった。


 少し離れて全体を確認しつつ、また手を入れて少し位置を調整して、再び全体を確認する。

 手拭き用のタオルはあっという間にびちょびちょになってしまった。


「うん…、うんうん!きたきた!」


 やっと納得いく形に行き着いた。

 さて、次はパールグラスとクリプトコリネを植えなくては。


「タオルの上でやればいいかな。トレイみたいなのがあれば楽かも…。今度100均で買ってこようかなぁ。」


 床に敷いたびちょびちょのタオルの上でパールグラスとクリプトコリネの処理をしていく。

 アヌビアスナナと同じように、ポットから取り出してグラスウールを剥いでいく。


「えーっと、根っこをギリギリまで切って…、下の方の葉っぱを取る…。」


 クリプトコリネは処理がしやすいけど、パールグラスは細くて凄く大変。


「よし、植えるぞ!」


 処理が一通り終わって、ようやく植えられる。


「んーと、クリプトコリネはこの辺かな…。」


 根に近い茎を摘んで底砂にずぶっと突き刺す。

 バラしたクリプトコリネを数株分、間隔を開けて植えていく。


「よしよし、いい感じになってきたぞ!」


 次はパールグラスを植える。

 同じように指先で摘んで底砂に突き刺す。


「あれ…。上手く植えられない?浮いてきちゃうな…。」


 クリプトコリネと違って、パールグラスはすごく細いから、植えづらいし浮きやすいのかもしれない。


「うーん…、どうすればいいかなぁ。」


 ネットで調べてみると、普通はピンセットを使って植えるみたいだ。

 ピンセットなんて突然言われても、持ってないなぁ。


「ピンセットは買わなきゃダメだなぁ。とりあえず、どうやって植えよう…。」


 指で1本づつ植えるのは難しそうだ。

 ポットに入っていたパールグラスは全部で7本あった。

 1本でダメなら2本だ!と思い、2本づつまとめて摘んで植えてみる。


「お、いけるか…?」


 なんとか植えることができたっぽい。

 パールグラスを摘みつつ、底砂に指を入れて穴を掘る。

 掘った穴にパールグラスを差し込み、指先で穴を埋める。

 指先がつりそうになりながら、なんとか植えきった。


「いたた…。なんとかなった…。」


 タオルで片腕を拭きながら、少し離れて水槽を眺める。

 ライトがついていないから分かりづらいが、なんとか形になった気がする。


「最後に、ネオンちゃんの水合わせだ。」


 ずっと浮かべておいたネオンテトラが入った袋を取り出して、空のバケツにあける。

 コップを使って少しづつ水槽の水をバケツに移していく。

 こうすることで水槽の水が少しづつ混ざっていき、水槽に入れた時のショックを無くすことができるらしい。


「店長さんは、ほとんどお店の水だから水温だけ合わせればいいって言ってたけど、少しは水も合わせた方がいいよね…。」


 コップの水を時間をかけて数回、バケツに移していく。


「こんなもんかなぁ。よし、網を使って、ネオンちゃんを水槽に…。」


 熱帯魚用の網を使ってネオンテトラを掬って水槽に移していく。

 数匹づつ水槽に放していくが、元気に泳いでいるみたいだ。よかった。


「これで最後…。」


 最後の1匹を水槽に放す。

 水が少し減ってしまったので、バケツの水をコップで汲んで戻しておく。


 タオルで水槽や周辺を拭いてから、ガラス蓋とライトを戻す。

 びちょびちょのタオルを洗濯機に入れてから、手を洗って自分の部屋へ。


「スイッチ…オン!」


 ライトのスイッチを入れて、少し離れる。


「わぁ……。」


 そこにあったのは、昨日とは見違えるくらい綺麗になった水槽だった。

 上部フィルターからの水流に揺れるクリプトコリネとパールグラス。

 高さのある流木と石のバランスもバッチリな気がする。


 そして群れて泳ぐ赤と青の小さな魚、ネオンテトラ達は光が反射してキラキラと輝いて見える。


 歯医者さんやお店で見たような、水草がたくさん茂っていて、色んな魚が泳ぐ、迫力のある水槽ではないけれど、そこにあるのは紛れもなく、私の作った小さな世界だった。


「はぁ……。きれいだなぁ……。」


 いつの間にか日が落ちて部屋は暗くなっており、水槽の照明が部屋をゆらゆらと照らしていた。


 こんなに忙しい土日は今まで無かった。

 休日なのにとても疲れたけど、心はとても満たされていた。


 趣味って、楽しいなぁ…。

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