第8話…最初のお魚はどの子がいいかな
「こんにちはー。」
「おう、いらっしゃい。水槽立ち上げられたか。」
時刻は10時少し過ぎ、店長さんはいつものサングラスをかけ、お店の前のベンチに座って電子タバコを吸っていた。
「はい、なんとか。全身筋肉痛になっちゃいましたけど…。」
朝起きたら肩と腕、足が筋肉痛になっていた。階段を何回も昇り降りしたからなぁ。
「立ち上げは結構重労働だからな。定期的にメンテもしなきゃいけないから運動になるぞ。」
店長さんは、はははっと笑いながらタバコをしまった。
「魚はもう入れていいだろうから、好きなの選びな。1000円までなら水槽セットに込みだ。まぁ最初は丈夫な奴がオススメだけどな。あと、水草はセットに入ってないからな。」
カラカラと戸を開けてお店に入っていく店長さんに続く。
熱帯魚のいる部屋に入ると、むわっとした匂いと高い湿度に包まれる。
「ちなみにオススメってどれですか?」
一応昨日調べてきたが、やはりプロに聞くのが一番だろう。
「立ち上げ直後だから丈夫な魚がオススメだけど、半分以上うちの水だし、まぁどれでも大丈夫だろ。とはいえ、初心者だしな、飼いやすいのがいい。」
スタスタと歩き出す店長さんの後を追う。
「まずはネオンテトラ。安い、丈夫、綺麗の優等生だ。群れで泳ぐから数を飼うのをオススメする。混泳もできる。」
「次にブラックテトラ。かなり丈夫だけど、少し凶暴。混泳にはあんまりオススメしない。」
「混泳って、違う種類の魚を一緒に飼うことですよね?混泳できるやつがいいかなぁ…。」
予算的な問題で、まだあんまり魚は増やせないけど、飼ってみたくなったときに一緒に泳がせられないのは嫌だ。
「まぁブラックテトラもできないわけじゃないけどな。じゃあ大人しいやつで、グッピー。こっちのでかい水槽に入ってるやつな。こいつらは勝手に繁殖するから面白いぞ。」
「こっちの国産って高い子達との違いは何なんですか?」
小さい水槽に数匹しか入れられていない、数千円する子達と、大きな水槽に入れられた子達は何が違うのだろう。
「こっちの国産は、国内で繁殖した個体で、血統を管理されたやつ。でかい水槽のやつは外国で繁殖した個体を仕入れてて、色とかごちゃ混ぜ。簡単に言うとそんな感じ。グッピーを綺麗に育てるのは大変なんだよ。」
この辺の国産はうちでブリードしたやつ。と言っていくつかの水槽を示される。
どれも凄くヒラヒラしていて綺麗すぎる。値段もかなりお高くて、私には手が出せなさそうだ。
「あとは、コリドラスも初心者向けだけど、地味だな。コリドラスだけの水槽作る人もいるけど。」
「この子達は底の方をずっと泳いでるんですね。」
「ナマズだからな。コリドラスは混泳できるから、余裕が出来たら手を出してもいいかもな。」
底砂をつんつんしながら泳いでいるのがかわいい。平べったい石に乗ってじっとしているのもいる。
……これは見ていて飽きない。
「おーい、次はこいつだ。」
いけない、またぼーっとしてしまった。
早足で店長さんの元に向かう。
「アカヒレ。地味だけどめちゃくちゃ丈夫。安い。立ち上げ直後のパイロットフィッシュによく使われる。地味だから水草メインの水槽に入れると結構映えるな。」
金色っぽい身体に赤いヒレの小さな魚が沢山泳いでいる。
なるほど、他の熱帯魚に比べたら少し地味かなぁ。
「とりあえずこんなとこだな。あとは好きに見て、気になるのがいたら声掛けてくれ。」
ごゆっくりーと手をひらひらさせながら出ていってしまった。
ふらふらと水槽を眺めながら歩きつつ、どうしようかなと考える。
昨日調べた初心者向けの魚種と、今日店長さんが教えてくれたものはだいたい合っていた。
やっぱり最初は丈夫で綺麗なやつがいいよね。うん、決めた。
「魚は決まったからー、水草見ようかなぁ。」
生体コーナーから、今度は水草コーナーに向かう。水草もたくさんあって何を選ぶか悩んでしまう。
「とりあえずお手ごろなやつで…。」
数百円の水草が陳列された水槽の前で、昨日立ち上げばかりの、私の水槽をスマホに写す。
「うーん…。どこに何を置けばいいのかわかんない。この辺のやつは昨日調べた初心者向けのやつだと思うんだけど…。」
頭の中でレイアウトを考えてみるが、どこに水草を植えればいいのか、どんな水草がいいのか、いまいち想像がつかない。
「あの水槽を参考にしてみよう。」
この部屋の入口の方に置かれた、綺麗な水槽をレイアウトの参考にしようと思った。
店長さんが作った水槽で、めちゃくちゃ綺麗なやつ。
「うわぁ、いつ見ても綺麗だなぁ。」
照明に照らされた水草からは、キラキラした小さな気泡がぷつぷつと浮き上がっている。
いくつかの流木を複雑に組み合わせて立体的なレイアウトを作り上げている。
「この流木についてるやつはなんだろ…。これ、水草が光合成して、気泡が出てるのかな…?うーん、凄いということしかわからないや。」
このままでは時間がいくらあっても足りない。今日が終わってしまう。
「店長さんに聞くかぁ…。」
自分で考えても埒が明かないし、上手くいく気もしない。
カラカラと引き戸を開けて、おそらくタバコを吸っているであろう店長さんの所に向かった。
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