第2話 ケータイ小説

このガラケーは中一の頃に買ってもらったものだ。当時はまだスマホブームの始まりで、街ゆく人にインタビューすると「あー、スマホ?俺はまだ普通に携帯でいいかな?」なんて回答が返ってくる時代だった。


このガラケー、正しくはフィーチャーフォン。スマホに近い機能を持った優秀なガラケーらしい。


薄ピンク色をした薄い本体。とはいえ今使ってるiPhoneと比べると2倍の厚さ。

手のひらに収まるちんまりしたデザインだ。


表面には風化してしまったメタルシール。中二の頃にハマったアニメの推しキャラ。今も好きだけどなあ、なんて思いながら感慨深く眺める。


チャッ!みたいな小気味よい音がして、2つ折りケータイが開く。割れていない綺麗な液晶と、ピンク色のテンキー。十字ボタンには上下右にヒビが入っている。


原因は当時の私が毎日のように小説を書いていたからだ。


このガラケーは創作の友だった。


有名なケータイ小説サイトを友人に勧められて会員登録したのが始まり。


空想好きだった私はこのサイトに入り浸り、ケータイ小説を書き始めたのだ。最初は典型的な恋愛小説。ボーイ・ミーツ・ガールでライバル出現!?彼が死にかけて……!みたいなコッテコテのケータイ小説。


語彙力も何も無い私はやたらと改行しまくった。そうやって文字数を稼いだ。会いに行けるならばもれなく殴りたい。


そこからファンタジーとかなんだかんだと書いたものの閲覧数は伸びず。クラスメイトにペンネームがバレて「これお前の実体験?」と問われまくった。否定した。むしろ私にこんなケータイ小説みたいなリア充体験があったら良かったのに。


恋がしたい。人間不信だけど、恋がしたい。そうしたら閲覧数だって伸びるはず。


まだ純粋だった私はそう思っていた。


そんな私が久しぶりに恋をしたのは、恋をしてはいけない人だった。


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