自由散文詩掌編『どこにもいけず』

朶骸なくす

死者の携帯電話

随分と、ぼうとしていた。

それは旅先でも同じ現実から離れた場所であっても脳裏に浮かぶのは後悔

死んだ祖父も

急に冷たくなった看護婦も

助けて来れなくなった行政機関も

無駄にかかるお金も

無常

悲しくなるほど冷たく他人事の切り替え


決して共に悲しんで欲しいわけじゃない

明日のメシについて考える

そして遺品をみる

ざわめく、蝕む、携帯電話は、もう鳴らない


私は書類を整理する

必要な事をする

私はいつになったら自覚をするのだろう

嗚呼、死の自覚など、なんて滑稽な

まさしく私は砂の城を作り上げて必死であった

満潮で消えゆくもの、地平線に沈む太陽を見ながら城は消える

叫びの文字も消えた

私は、やる事がある。やることはなんだろう

めんどくさくないといい、だって、まだ死の実感が私にはない

あの手元にある携帯電話は鳴るだろうか

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