魔王、火種を投げ込む


 141-①


 妃の間には、様々な種族の魔族の女達がいた。


 妖狐族、ケイセイ

 オーガ一族、ヤシャ

 機人族、エスェフ

 悪魔族、シギャク

 植人族、ドッカ

 死霊魔術師ネクロマンサー一族、ミリョウ

 氷魔族、フブキ


 ……他多数


 彼女達はただの魔族の女ではない、それぞれが各種族の王族……姫であった。

 絶大なる力を持つ魔王の妻に見初められれば、一族の栄耀栄華えいようえいがは思うがままである。彼女達は復活した魔王シンに取り入るべく各種族の王が送りこんだ娘達である。


 ヨミは妃の間の妖姫達を見回した。


「何なのアンタ達は? ここ……妃の間なんですけど-?」


 ヨミの挑発的な物言いを、艶やかで美しい純白の髪と、髪と同じ色の九本の尾を持ち、蠱惑こわく的な色香を放つ美少女……妖孤族の王女、ケイセイが鼻で笑った。


「フン、そなたこそ何者じゃ……新入りのメイドか? わきまえよ」


 ケイセイの言葉に、部屋にいた妖姫達がクスクスと陰湿な笑い声を上げる。


「フン……私が誰かって……? いいよ、教えてあげる……!!」


 ヨミは妃の間の妖姫達を睥睨へいげいすると、高らかに声を張り上げた。


「聞いて怯えろ!! 見てすくめ!! 私の名はヨミ!! 妖禽族第一王女にして……魔王シンの妻だっっっ!!」


 ヨミが『魔王の妻』を名乗った途端、部屋の中が一気にざわついた。


「ふん、魔王様の妻を自称するなんて……どうせ貴女も『妃の間で待て』と言われたのを、この部屋の有象無象うぞうむぞう共と同じく、早とちりしてるだけのくせに……自惚うぬぼれもここまで来ると、腹が立つより笑えるわね」


 日本人形的な怖さと可愛らしさを併せ持ち、磨き抜かれた真珠のような美しい二本角を持つ小柄こがらなオーガ一族の姫、ヤシャはヨミに鋭い視線を向けたが、言葉とは裏腹にヤシャの顔は全く笑っていない。


「貴女は錯乱しているようです。頭の医者に行く事を推奨します」


 機械の身体を持つ魔族、機人族の姫、エスェフは顔色一つ変えずに言い放った。ヤシャの美しさが日本人形的だとするならば、エスェフはさしずめフランス人形と言った所か。

 この三人の他にもありとあらゆる種族達がヨミをあざけ罵倒ばとうするが、ヨミは全く意にも介さず涼しい顔だ。


「いいよいいよ、今の内存分に言っておきなよ、魔王様との結婚式が終わったら……アンタ達全員奴隷達のなぐさみ者なんだから!!」


 ヨミの発言に妃の間が殺気立つ。


「今すぐ私に平伏ひれふして許しを請うならメイドとして仕えさせてあげても良いわよ? 先着三名ね、三つ数えるまで待ってあげるわ。3……2……1……ハイ終了!! あれぇー? 揃いも揃って物好きねぇ、メイドより慰み者がいいだなんて」


 ……ヨミに平伏ひれふす者は誰一人としていなかった。


 ここにいる妖姫達は皆、誰もが自分こそが最も強く、最も美しく、最も魔王の妻に相応しいと思っているのだ……当然と言えば当然である。


 もはや、『殺気立っている』というレベルをはるかに超えて、妃の間の中は殺意が渦を巻き、爆発寸前の火薬庫も同然だった。


 そして、そんな爆発寸前の火薬庫に一人の男が現れた。魔王シンである。

 妃の間に現れたシンは一斉に跪いた妖姫達を前にたった一言、


「……誰でも構わん、武刃団を捕らえて我が前に引きずり出せ」


 とだけ言い残し部屋を出た。

 

 あまりにも……あまりにもあっけなく、爆発寸前の火薬庫に火種は投げ入れられた。

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