斬られ役、試される(前編)


 135-①


 ソフィアと武光達は、武光一行に充てがわれた空き家で、大賢者に会いに行く支度したくをしていた。

 身なりを整えながら、武光はソフィアに質問した。


「ところでソフィアさん、その大賢者様って人の『予言』って一体どんなんなんすか?」

「……遥か遠き国より、四神の力宿せし、黒き髪の戦士来たる……」

「うわ、何ソレ、ク◯ガっぽい!!」

「この予言には続きがあります……」

「続き……?」


「黒き髪の戦士、聖なる剣を振るいて……その命と引き換えに災厄より我らを救わん……」


 そこまで言った所で、ソフィアは武光の異変に気付いた。


「あの……武光さん? き……気絶してる!?」


 『命と引き換え』と聞き、恐怖のあまり白目を剥いて気絶した武光を見て、仲間達は特大の溜め息を吐いた。


〔武光の奴……またビビリぐせが……〕

「た……武光様……」

〔ご主人様ー!? しっかり!!〕

「……まったく、ソフィアさんの前だというのに、恥ずかしい……」

〔うーん、毎度の事ながら……〕

「武光君、立ったまま気絶するとは……」

〔ナンテ キヨウナヤツ……〕

「あ、あの……武光さん、大丈夫ですか……?」


 心配そうなソフィアに対し、ナジミは引きつった笑いを浮かべた。


「ご、ご心配なく、いつもの事ですから……すぐに起こします。武光様、起きて下さいっ!!」


 ナジミに肩を揺すられて、目を覚ました武光はソフィアに詰め寄った。


「ちょっとソフィアさん!? 『命と引き換え』って何すかーーー!? 『命と引き換え』ってーーー!?」

「それは私にも分かりません……ただ、大賢者様の予言は必ず当たります」


 それを聞いた武光はぶるりと身震いした。


「ちょっと待って下さいよ!! お、俺は……救世主なんかと……んむっ!?」


 『俺は救世主なんかとちゃいます!!』そう、言いかけた武光の唇に、ソフィアは人差し指をそっと当てて黙らせた。


「それ以上はいけません。それを認めたら……私達は貴方達を魔王軍に引き渡さねばならなくなりま──」

「オッス!! オラ救世主!!」


 武光の神速の手の平返しに、その場にいた全員がズッコケた。


「と……とにかく武光さんには大賢者様に会って頂きます。ですがその前に、武光さんが本当に我々を窮地きゅうちから救う予言の男なのかどうか《三つの試練》で試させて頂きます」

「えぇ……そっちから呼んどいてどうなんすかソレ……」

「言いにくい事ですが……あなたがもし予言の男でないのならば、あなたは災厄の種に過ぎません。その場合即座に魔王軍に引き渡し──」

「矢でもゲ◯タートマホークでも持ってこいやあああああ!!」

「そ、それでは出発しましょう……」

「よっしゃ!!」


 武光達は出発した。エルフ達の長、大賢者の待つ神殿へ。


 135-②


 エルフ達の暮らす、深く広大な森の最奥部、そこに大賢者の暮らす神殿は存在する。


 武光一行はソフィアの先導で、神殿へと続く一本道に辿り着いた。

 そして、辿り着いたのは良いのだが、その道は丸太を組み上げて造られた大きな門によって閉ざされていた。


 門の前には武光達と森で遭遇したエルフ兄弟の弟、ヴィゴロウスが立っている。


 腕を組んで、門の前で仁王立ちしていたヴィゴロウスは、鋭い視線を武光に向けた。


「良く来たな、ソフィア様から話は聞いてるぜ。ここの試練の一切はこの俺、ヴィゴロウスが取り仕切る!! お前が本当に大賢者様の予言の男かどうか……白黒ハッキリさせてもらうからな!!」

「おうよ!!」

「大賢者様の予言によれば、予言の男は四神の力をその身に宿しているはずだ……俺にそれを見せてみな!! ソフィア様は私の隣へ……」

「いえ、私は別にここで大丈夫ですけれど……」

「こちらの方が良く見えます!! さぁ!! 是非に!! 急いで!!」

「わ、分かりました。では……」


 ソフィアが隣に立った瞬間に小さくガッツポーズをしたヴィゴロウスを見て、(コイツ……職権濫用しょっけんらんようはなはだしいな)と武光は思った。

 とりあえず、自身に宿っている神々の力を見せろという事なので、武光は異界渡りの書の効力で自分に宿っている “はず” の神々の力をヴィゴロウスに見せつけるべく、精神を集中し、呼吸を整えた。


「よっしゃ見とけよ……!! 神地術……《大地の赤い光の巨人》!!」


 武光は真上にジャンプすると、“デュアッ!!” と着地した。武光の周囲に土煙つちけむりが上がる。


「フフフ……どうや、俺の神地術!!」

「いや、お前……どうって……」


 ヴィゴロウスは戸惑った。


 今の技に神の力が『宿っていたか?』と問われれば、宿っていたような気もするし、『違う』と言われれば違う気もするという、何とも微妙なものだった。

 武光達の世界でたとえるならば、味噌汁飲んで『あっ、ほんのりかつおの風味がする……もしかしてダシ変えた?』……くらいのかすかさで、ヴィゴロウスはほんのり神聖なる力っぽいものをうっすらと感じたのであった。


「よっしゃ!! 白やな!! これは間違いなく白!!」

「保留!!」

「何でやねん!! めちゃくちゃカッコエエやろがい!!」

「いや、何でってお前……」

「カッコ……エエやろがいっっっ!!」

「ダメなもんはダメ!! それに、まだ《地の神力しんりょく》しか見てねぇ、予言だと救世主は四神の力を宿しているはず、他の属性の力も見せてみな!!」

「よっしゃ……ビビって漏らすなよ!!」


 そう言って、武光は胸の前で、右手の指先を前方、左手の指先を上方に向けた状態、要は両の掌を90度交差させた状態で合わせた。すると、両掌の間から “しゃーっ!!” と勢い良く水が前方に向けて吹き出し、ヴィゴロウスをずぶ濡れにした。


 その威力たるや……洗車用ホースヘッドの『強』に匹敵する!!


「フッ、これぞ神水術……《ジ◯ミラ殺し》!! ハイ白!!」

「保留!!」

「何でやねん!! お前、ジ◯ミラやったら悶死やぞ、悶死!! どう考えても白やろが!?」

「知らねーよ!! 何だよジ◯ミラって!? ってか、何してんだよ、羽織はおりの首の部分を被ったりなんかして……」

「え? いや、ジ○ミラ……」

「保留!! 次!!」

「ちっ、しゃーないな……ほんなら!!」


 ヴィゴロウスの視線の先では、武光が右手に耐火籠手を装着し、手が『真っ赤に燃える』だの『轟き叫ぶ』だのと、謎の呪文のようなものをつぶやいていた。


「神火術ッッッ……《爆熱神掌ばくねつしんしょう》!!」

「うーん……保留!!」

「何やねん!! お前、さっきから白黒付けるって言うて保留ばっかやんけ!!」

「お前こそさっきから何なんだ!! 神々の力が宿ってんのか宿ってねーのか分かんねー微妙な技ばっか出しやがって、判定しづれぇわ!! やる気あんのか!!」

「はぁ!? 俺の術は全部、神力1000mg配合じゃボケ!! よーし!! ほんなら……腕相撲で決着つけようや!! 俺が勝ったら白な!!」

「いやいやいや騙されねぇよ!? その真っ赤に焼けた耐火籠手を外せコノヤロー!!」

「……ちぇっ」

「そこまで言うなら次でキッチリ白黒判定してやんよ!! 全力で神の一撃を撃ってきやがれ!!」

「おうよ、やったらぁ!! 怪我しても責任取らへんからなコノヤロー!!」


 武光はヴィゴロウスに吐き捨てると、両足を肩幅に開いて真っ直ぐ立った。


「か……み……」


 腰を落とし、ゆっくりと息を吐きながら、目を閉じて両手を前に突き出す。


「か……ぜ……」


 手と手の間に生じている《風の神力》を圧縮しつつ、両手を右脇に持って行く。


「波ーーー!!」


 武光は両目を “くわっっっ” と見開くと、両手を前に突き出した!!

 解き放たれた《風の神力》が突風を巻き起こす!!


「きゃぁぁぁっ!?」


 その威力たるや、ヴィゴロウスの隣に立っていたソフィアのロングスカートをめくり上げる程の威力だった。

 ソフィアが普段の落ち着きぶりからは考えられないような慌てぶりでスカートを押さえる。


「ヴィ、ヴィゴロウス……判定を下しなさい」


 ソフィアは気丈にも冷静に振る舞おうとしていたが、内心死ぬ程恥ずかしい思いをしている事は、先っぽまで真っ赤になった長い耳を見れば明らかだった。


「白でしたか? 黒でしたか?」


「も……桃色でしたッッッ!! あっ……」


 間違えてソフィアの身に着けていた下着の色を答えてしまったヴィゴロウスと、故意ではなかったにしろ、かみかぜ波でソフィアのスカートをめくってしまった武光、更には不可抗力だったにも関わらず、見てしまったリョエンまでもがソフィア、ナジミ、ミトの三人にボッコボコにされた。

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