赤鬼、襲来する


 109-①


 四日間もの間、昏倒こんとうしっぱなしだったせいで、重くて仕方ない身体を必死で動かし、武光は、鍛治場の前までやって来た。

 鍛治場の前ではジャトレーとミトが会話していたが、武光に気付いたミトが急いで武光に駆け寄った。


「武光!! 意識が戻ったのね!?」

「おう、もう大丈夫!! 元気100倍ア○パンマンや!! ミト、それにカヤも……心配かけたな」

〔本当ですよー、武光さんがなかなか目を覚ましてくれないせいで、姫様は来る日も来る日も涙でまくらを濡らす日々だったんですからね?〕

「ちょっ……カヤ!! て、適当な事言わないでよ!! …………ほんのちょっとしか心配してないし!!」

〔えー? 今朝もまくらガビガビになってたじゃないですか〕

「ガビガビじゃないわよ!! 武光……真に受けたりしたら処刑よ、処刑!!」

「お、おう……いや、そんな事より!! ジャトレーさん、イットーの修復がもうすぐ終わるって……!!」


 武光の問いに、ジャトレーはうなずいた。


「……うむ、刀身は無事完成した。形状もお主の依頼通りに造っておる……自信を持って言える……鋭さ、硬さ、強靭きょうじんさ、美しさ……いずれにおいても、この一振りは……このジャトレー=リーカントの刀匠人生における最高傑作だと!!」

「おお……ありがとうございます!!」

「今、鞘師さやし柄師つかし、それに鍔師つばし達が最後の組み立てと最高の仕上げをしてくれておる。それと……お主に伝えておかねばならぬ事がある」


 そう言って、ジャトレーは鍛治場の奥に入って行くと、魔穿鉄剣を手に戻ってきた。だが、その手に握られた魔穿鉄剣は無惨にも刀身が中程から真っ二つに折れてしまっていた。


「ま、魔っつん!? そんな……何で……」


 呆然とする武光にミトが聞いた。


「武光……貴方、あの時の戦いで意識を失う直前の事、覚えてる?」

「おぼろげやけど、ザンギャクがこっちに向かって突進してきて……でも、覚えてるのはそこまでやわ」

「……あの時、あのオーガは額の角で仰向けに倒れた貴方を刺し貫こうとしたわ。でも……貴方は倒れたままそれを受け止めた」

「俺が……?」

「オーガは何度も何度も額の角で貴方を刺し貫こうとしたけれど、その度に貴方は倒れたままで、魔穿鉄剣で攻撃を弾き返し続けて……そして最後にはあのオーガの角をへし折ったわ。この剣はその時に……」


 武光は、イットー・リョーダンが折れた時の事を思い出していた。

 あの時も……イットーが俺を守ってくれた。そうか、魔っつんが俺を……


「武光殿……そのオーガの角もイットー・リョーダンの修復の材料に使わせてもらったんじゃが……あの黄金の角は、とんでもない強度じゃった。仮に魔穿鉄剣が黒王鉄より更に強靭な皇帝鋼で造られていたとしても、あの角を切り落とすのはそう簡単にはゆかぬだろう」

「でも……」

「ああ、それでも……魔穿鉄剣はあの角をへし折った。使い手を守らんとする意志が、打ち砕けるはずのない強度差を打ち砕いたのだ。武光殿……お主の言った通り、この剣は主を狂わせ、不幸にする魔剣などではなかったよ……この剣は、刀匠として誇るべき一振りじゃ」

「……はい」


 武光はジャトレーの言葉に頷くと、静かに目を閉じ、魔穿鉄剣に手を合わせた。


「ありがとうな……魔っつん」


 しばらくの間、魔穿鉄剣に手を合わせていた武光だったが、それは突如として聞こえてきた叫びによって中断された。

 ジャトレーの弟子の一人が悲鳴をあげながら鍛治場に転がり込んできたのだ。


「どうした!?」

「しししし師匠!! お、オーガです……オーガがここに現れました!!」

「何じゃと!?」

「ひっ!? あ……あいつです!!」


「どこだ……出てこい……モモタロォォォォォーーーーー!!」


 オーガが 現れた!

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