姫、暴れる


 24ー①


 武光とナジミの二人は、両手を後手うしろでしばられて、神殿前の広場に引きずり出された。


「貴様が余計な事をしたせいでわしの栄達の道は閉ざされた……そのむくいを受けさせてくれる!!」


 アクダが下卑げびた笑いをあげる。武光達は必死で言い逃れようとした。


「だーかーらー、何べんも言うてるやないですか、人違いなんですってー、あっしは水戸山田みとやまだ 金之助きんのすけっていう、越後えちご縮緬問屋ちりめんどんやの三男坊で遊び人なんですってー!?」

「そ、そうですっ!! 人違いですっ!!」

「二人して変顔で誤魔化そうとするな!! 貴様らのような黒い髪の人間はこの国にはそうそうおらん!! それに貴様が背負っているのは聖剣イットー・リョーダンであろうが……貴様は手足を切り落とした後、背中の呪われし聖剣もろとも火あぶりにしてくれる!!」


 武光がイットー・リョーダンを背負ったまま縛られているのは、アクダ達が『触れたら自ら死を望む程の地獄の苦しみに襲われる』という聖剣の呪い(嘘っぱちだが……)を恐れた為だ。


〔ひ、火あぶりだと!? ま、待て!! 我は何の変哲も無いただの丸太だ!!〕

「何の変哲も無い丸太が喋るかーーー!!」

「くっ、この外道、鬼畜、アホーーー!! それでも軍人かー!?」

「ふん、貴様は特に念入りに拷問ごうもんして殺してやる!!」

「げふぁっ!? ゴホッゴホッ!!」


 腹を蹴り上げられた武光は激しくき込み、転げ回った。


「武光様っ、大丈夫ですか!?」


 心配そうに近付いてきたナジミに、武光は小声で言った。


「……心配すんな、俺らみたいな斬られ役は、殴られたり蹴られたりした瞬間に、相手の動きに合わせて体を曲げる事で体へのダメージを最小限に抑えて、相手の攻撃をさも痛そうに観客に見せる技を持ってんねん……………ミスったけどな!!」

「ダメじゃないですか!?」

「うん……めっちゃ痛い。くっそー、あのデブ」

「さて……右手と左手どっちから切り落として欲しい?」


 アクダが目を血走らせながら腰の剣を抜いたその時だった。


「お待ちなさいッッッ!!」


 捕らえられた武光達の前にジャイナが現れた。


「ジャイナさん!?」

「た、助けてくださいー!!」


 ジャイナはアクダに捕まった二人を見ると、アクダを “キッ” とにらみつけた。


「アクダ=カイン……既に調べはついてます。軍令を盾にした街の人々への略奪・乱暴狼藉らんぼうろうぜきの数々!! 更には、私怨で国王より任命された魔王討伐兵を謀殺ぼうさつしようとしたその行い……断じて許せません!!」

「フン、一介の監査武官ごときが何を抜かす!! 儂は……セイ・サンゼンの代官だぞ!!」

「……それがどうかした?」


 そう言って、ジャイナは仮面を脱いだ。


「なっ!?」

「私の顔……見忘れたとは言わせませんっ!!」

「み……ミト姫様!?」


 ジャイナの正体を知ったアクダとその部下達が剣をさやに納め、慌ててひざまずく。


「アクダ=カイン……貴方の悪事は数々の証拠と共に、お父様に報告させて頂きます、覚悟しておきなさい!!」


 アクダ達は一言も発する事無く、青くなってぶるぶると震えている。この光景を前に、武光は思わず叫んでしまった。




「ええい……狼狽うろたええるな!! 姫様がこのような所におられるわけなかろう!!」




 条件反射とは恐ろしいものである。


 悪役の悲しきさがでうっかり発してしまった武光の言葉にアクダ達が反応する。


「フフフフフ……そうだ。王家の姫君がこのような所におられるはずがない。皆の者、此奴こやつは偽者だ!!」


 立ち上がり、一斉に抜刀したアクダ達を見て武光は絶叫した。


「や……やってもうたあああああーーーーー!!」

「ちょっ、武光様!? 何言ってるんですかっ!?」

「す、すまん……つ、つい……」

「武光様の……バカーーーーーっ!!」

「痛い痛い痛い!!」


 武光はナジミに鬼のようにローキックされまくった。


「皆の者……ミト姫様の名をかたる不届き者を斬り捨てよ!!」


 ミトは小さく息を吐くと、剣を抜き八双に構えた!!


「仕方ありません、私自ら成敗してあげます……光栄に思いなさい!!」

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