斬られ役、神風術を放つ


 23-①


 思いがけない質問に、武光とナジミはキョトンとした。


「えっと……どういう意味ですか? 僕、本人ですけど」

「……ハッ!? そういう事なのですね、ドルトーネ様!! ほぁたぁっ!!」

「痛ででででで!?」


 ナジミが突如として、神前で正座していた武光を突き飛ばし、キャメルクラッチ(に酷似した技)をめた。


「ちょっ!? お前いきなり何すんねん!?」

「風の神ドルトーネ様の目は誤魔化せませんっ!! 貴方、武光様に化けた魔物ですね!! 本物の武光様をどこにやったのです!?」

「はぁ!? お前何言うて……ぎゃーーー!?」

「さぁ早く言いなさい!! 言わないと体をこのまま真っ二つに引き裂きますよ!!」


 とても巫女さんの言う台詞とは思えない、一体どこの残虐ラーメンの人だ!?


「あ……アホかー!!」

「あ、アホ!? ……もう怒りました!! 風の神ドルトーネ様の名の下成敗してやります!!」

「全く、言ったそばから……ハァ」

「うわっぷ!?」


 風の神ともなれば、小さな溜息ためいきでも突風に匹敵する。ドルトーネの溜息に煽られて、ナジミは武光の背中から転げ落ちた。


「ナジミ……僕が言いたいのはそういう事じゃないんだよ」

「え?」

「……異界渡りの書にその名を記した者には、三つの特別な力が授けられるんだけど……ナジミ、君はそれを知っているかい?」

「い、いえ。私は『異世界に渡る為の神具』としか父から聞かされていませんが……」

「ふむ……」

「痛たたたたた……で、何すか特別な力って?」


 武光は腰を押さえながら、ドルトーネに問うた。


「一つ目は、『この世界の言葉や基礎的な知識を理解出来るようになる』という事。武光、君はこの世界に来てから、言葉が通じなくて困った事はあるかい?」

「言われてみれば……無いです」

「他にもこの世界の重さや、長さ、時間なんかの単位も、君には君の世界の単位に変換されて認識されるんだよ」

「………………あっ!?」


 武光は思い出した。セイ・サンゼンで、街の東口から逃げて来た男性に、オークの襲撃を知らされた時だ。


 ……あの時、逃げて来た男は、正確には『あと“15ミニツ”もすれば街の東口に魔物の群れが到達する』と言っていた。しかし武光の頭の中では自然と15ミニツ=およそ10分と認識し、『あと“10分”もすれば街の東口に魔物の群れが到達する』と理解していたのだ。


「二つ目は、神官や巫女のように厳しい修行を積んでいなくても、神や霊魂の姿が見えたり、声が聞こえるようになったりと……『普通の人間には見えないものの姿を見たり、声が聞けるようになる』という事」

「えー、武光様ズルい!!」

「いや、ズルいって言われても……で、最後の一つは?」

「……神々の力がその身に宿るんだ。身体能力は、もはや異次元の域で向上するし、その他にも、この世界には風を操る《風術ふうじゅつ》や火を操る《火術かじゅつ》、水を操る《水術すいじゅつ》、土や岩を操る《地術ちじゅつ》といった技があるんだけど、異界渡りの書に名前を記した者は、それらの遥か上を行く、《神風術しんふうじゅつ》や《神火術しんかじゅつ》、《神水術しんすいじゅつ》や《神地術しんちじゅつ》なんかが使えるようになる……はずなんだけど」


 ドルトーネの言葉の歯切れが急に悪くなった。


「けどって何すか?」

「……君からは神々の力をまるで感じないんだ。僕の姿が見えて、会話出来てるって事は異界渡りの書に名前を記してこちらの世界に渡って来たって事で間違い無いんだろうけど……」

「さっき僕に『本当に唐観武光本人か?』って聞いたのはそういう事やったんですね……おい、ナジミ」

「全く君って子は……」

「ご……ごめんなさーーーーーいっ!!」


 武光からのジトっとした視線と、ドルトーネから吹いてくるジトっとした風に耐えかねたナジミは物凄い勢いで土下座した。


「ま、とにかく異界渡りをするための力を分けてあげよう。さぁ、異界渡りの書を出して」

「はい!! ありがとうございます!!」


 そう言ってナジミが異界渡りの書を取り出そうとしたその時だった。


「いたぞー!!」


 風の神殿に、20人近い兵士がわらわらと入って来て、武光に一斉に剣を向けた。


「な、何やねんお前ら!?」


 戸惑う武光の前に、兵士を掻き分けてアクダが現れた。


「唐観武光……下郎げろう分際ぶんざいでよくもわしの計画を邪魔してくれたな。貴様はここで消してくれる!!」

「どうしましょう!? いっぱいいますよ!?」

「こ、こうなったら……神様、神風術ってどうやるんですか!?」


 リハーサル無しのぶっつけ本番だがやるしかない、神風術で奴らを蹴散らすのだ。


「よし……じゃあ一番簡単なのを教えるよ。風の力を一点に圧縮して撃ち出すんだ」

「風の力を一点に圧縮して……? よっしゃ!!」


 武光は目を閉じ、バスケットボール大の空気の玉を持っている事をイメージして両手を前に突き出した。


「か……み……」


 今度はその空気の玉を両手の中でソフトボールくらいの大きさに圧縮しつつ、腰を落として、両手を右脇に持って行く。


「か……ぜ……」


 武光は目をカッと見開き、両手を前に突き出した!!


「……波ーーー!!」


 武光は かみかぜ波 を放った。

 しかし 神力 が足りない!!


 武光の両手から出たのは “ぷす〜” という何とも頼りない、すかしっみたいな音とそよ風だった。


「何だそれは……? 者共……奴らを捕らえよ!!」

「わーっ!?」


 武光とナジミは、アクダの部下達に取り押さえられた。

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