斬られ役、突撃する


 19-①


“すん”


「きっ……斬れたーーーっ!?」

〔きっ……斬れたーーーっ!?〕


 武光とイットー・リョーダンは素っ頓狂な声をあげた。


  “ズバッッッ!!” とか “ザンッッッ!!” ではない、それどころか、イットー・リョーダンによる一撃は、なんとオークの体を、まるで絹ごし豆腐でも切るように “すん” と真っ二つにしてしまったのだ。


 武光は思わずイットー・リョーダンを二度見した。刀身には……丸太が刺さったままだ。


「すげぇ……っと、それどころちゃうわ!! 無事か、ナジミ!?」

「た、武光様!? どうして戻ってきちゃったんですか!? 貴方は戦うべき人では……」

「ホンマやで、何で俺が戦わなあかんねん、俺かてとっとと逃げたいわ!! でもな……カザンと約束したんや」

「何ですか約束って!?」

「女子には内緒や、危ないから隠れとけ!!」

「わ、私だって戦えます!!」

「……普段斬られてばっかりなんや、たまにはええ格好させてくれ」

「わ、分かりました」


 ナジミが物陰に隠れたのを見届けた武光は、恐怖を振り払うかのように、オークの群れに向かってえた!!


「魔物共!! 貴様らの悪行……天が許しても、この俺が許さんっっっ!!」


 イットー・リョーダンを八双に構えて、武光はオークの群れに突撃した。


 19-②


 最初に気付いたのは、シルナトスの担当として配属されたものの、シルナトスに魅了されて、今ではすっかり黄金騎士団の一員と化した監査武官ヤウロ=イダジだった。

 突然走って行ったお芋ちゃんが、戻って来てオーク達を次々と斬り倒している……丸太で。


 お芋ちゃんは、一見無茶苦茶に暴れ回っているように見えて、戦場をよく見渡していた。


 剣の腕は優れているが、周りを見ずに猪突猛進する傾向のあるお芋ちゃん担当の女性監査武官が包囲されないように、絶妙な位置取りで戦っている。

 それにいち早く気付いたのは、戦場を広く見渡し、戦況や戦功を把握する事を任務とする監査武官ならではだった。


 武光のような斬られ役は、足を踏み外して舞台から落ちたり、舞台装置にぶつかって壊したり、主役や他の斬られ役の動きを邪魔したりしないように、常に舞台全体を広く見渡しておく事を求められる。


 ……周りを見る事が出来ない者に、斬られ役など務まらないのである。


 ……そして、『周囲の人間が動きやすく、最大限にパフォーマンスを出来る位置取りが出来る』という事は、裏を返せば『どこにいたら相手の動きの邪魔になるのかが分かる』という事だ。


 七年もの間ひたすらに斬られ、刀のさびになり続けた男は、ジャイナや黄金騎士団の背後を取ろうとする敵の連携の邪魔になる位置を取り続け、こそこそと、ちまちまと、しかし確実に敵を葬っていた……丸太で。


 連携が阻害され、敵の勢いが徐々に弱まり……そして止まった。


「今や……押し返せぇぇぇぇぇっ!!」


 武光と共に、黄金騎士団とジャイナが一丸となって敵に突撃した。


「押せぇぇぇーっ!! 押しまくれぇぇぇーっ!!」


 叫びながら、向かって来たオークの脳天目掛けてイットー・リョーダンを振り下ろす。

 オークは咄嗟に鉈を頭上に掲げて防ごうとしたが、イットー・リョーダンは分厚い鉈ごとオークの肉体を “すん” と両断した。

 武光の持つやたらと斬れる謎の丸太に恐れをなしたオーク達が街の東口から散り散りに逃げ出した。


「逃すものか、一匹たりとも生かしては帰さん!!」

「お待ちなさい」


 悪役丸出しの台詞を吐いた所で、武光はシルナトスに止められた。


「深追いはダメよ。それに私達ももう体力の限界よ……撃退出来ただけで良しとしましょう」

「そっか…………そやな。へへ……」


 武光は “ばたーん!!” とぶっ倒れた。

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