斬られ役、聖剣に問う

 

 17-①

 

 武光は全力ダッシュで、街の中央広場へとやってきた。


「はぁ……はぁ……あった!!」

〔貴様は……異界の戦士か? 我に何の用──〕


 武光は聖剣の前にひざまずき、物凄い勢いで土下座した。


〔何の真似だ?〕

「俺に……俺に力貸してもらえませんか!?」

〔何……?〕

「今この街に、五十匹を超える魔物の群れが迫ってるんです!! このままやと皆、殺されてまうんです!! だから……あいつらを追い払う為に力を……力を貸してくださいっ!!」


 もはや聖剣に一縷いちるの望みを賭けるしか無かった。『一振りで千の悪鬼天魔を薙ぎ払い、滅ぼす事が出来る』という聖剣に。


〔……断る。貴様は我を扱える器にあらず〕

「頼んます!! そこをなんとか!!」

〔……駄目だ〕

「……どうしてもですか!?」

〔くどい!!〕

「……ならば止む無しッッッ!! ……実力行使じゃあああああ!!」


 武光は聖剣の柄に手を掛け、力任せに引っ張った。


〔な、何をする!? 我に触れると呪われるぞ!!〕

「俺は既に、昨日ちょっと触ってもうてんねん、今更関係あるかい!! ぐぬぬぬぬぬ…………くそーっ!!」


 武光は体重をかけて全力で引っ張ったが、聖剣はビクともしない。


〔はぁっ……はぁっ……い、言ったであろう……貴様に我は扱えぬと〕


 武光は周囲を見回し、近くに薪割まきわり用のナタが置いてあるのを見つけた。武光はそれを拾いに行き、聖剣の所に戻ってくると、聖剣の突き刺さっている杭の根元に思いっきり叩きつけた。

 力任せに振り下ろされた鉈の刃がくいに食い込む。武光は、何度も何度も鉈を振り下ろした。メリメリと音を立て、杭の裂け目が大きくなってゆく。


〔や、止めろ!!〕

「おらおらおらおらおらおらおら………オラァッ!!」


 “ばきっ!!”


 遂に杭は倒れた。

 武光は倒れた聖剣を拾いあげた。元の世界で使っていた素振り用の極太木刀より少し重いくらいか……見た目ほど重くはない、これくらいなら充分に振れる!!


「聖剣……俺と一緒に来てもらうからな!!」

〔ふざけるな、誰が貴様などに力を貸すものか!!〕

「このおよんでケチ臭い事ぬかすなっ!! よーし分かった!!」


 武光は聖剣をかついだまま歩き始めて、止まった。足元には犬の糞がある。武光は丸太の先端せんたんを犬の糞に向け、徐々に近付けてゆく。



 武光は聖剣に問うた。



「……選べ!! 俺と一緒にバケモン倒して、これからも聖剣としてみんなにあがめられるか、それとも……異名がウ○コ剣になるか!!」



〔き……貴様……聖剣である我を脅すというのか!? この……外道がーっ!?〕

「やかましい!! 俺はな……悪役歴が長いんじゃーーーーー!!」


 丸太の先端はどんどん犬の糞に近付いてゆく。


〔わ……分かった!! 力を貸そう!!〕


 丸太の先端が犬の糞に接触するギリギリの所で、とうとう聖剣が音を上げた。


「よっしゃあああああ行くぞーーーーーー!!」


 聖剣(見た目的には聖丸太だが……)を肩に担ぐと、武光は再び駆け出した。

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