斬られ役、城へ行く


 6-①


 武光とナジミのいる部屋にガヤガヤと子供達が入って来た。


 5才から12才くらいの子供達が4人だ。全員、栗色の髪と淡い緑の瞳を持っている。子供達は目の前の勇者(?)を好奇の眼差しで見つめながら口々に喋った。


「えー思ってたのと違ーう、美男子じゃなーい、地味ー」

「地味ー、地味ー」

「コイツがドジミが異世界から連れて来た勇者? あんまり強くなさそうだなー」


 おそらく三人兄妹なのだろう、顔立ちの良く似た7才と5才くらいのませてそうな少女と、10才くらいの如何にも腕白そうな少年が口々に喋る。


 子供ならではのどストレートな物言いに、精神的ダメージを受ける武光をよそに、真面目そうな年長の少女が、口々に喋る三兄妹をたしなめた。


「コラッ!! フウもリンもお客様に失礼な事言わないの!! カザンはまたナジミ様の事をドジミなんて呼んで…!!」


 フウとリンの姉妹は怒られてシュンとしたが、腕白小僧のカザンは反論した。


「だってよネーア、ナジミのドジは本当の事じゃん!!」

「カザン……日頃から相手の気持ちを考えなさいってナジミ様に言われているでしょう?」

「ネーアちゃん……」


 ネーアの言葉を聞いたナジミは頰を緩ませた。


「……どうしようもなくそそっかしくて!!」

「……えっ?」


 ネーアの言葉を、目を細めて嬉しそうにウンウンと頷いていたナジミがフリーズした。


「呆れるくらい不器用で!!」

「あの……ネーアちゃん……?」

「大人とは思えないくらいおっちょこちょいなのが “本当の事” でも、言われた方は傷付くのっ!!」

「ぐはぁっ!?」


 会心の一撃!!

 ナジミは 精神的に 2000のダメージを受けた。

 ナジミは ベッドからずり落ちそうになった。


「ネーアちゃん……もういい、もういいから……」

「あっ、そうだ。ナジミ様、お城からの使者が、『勇者を連れて城に来るように』とおっしゃっています。私達はナジミ様の出立の支度をしますので、ナジミ様は急いで正装に着替えてください。行くわよフウ、リン、カザン」


 そう言うと、ネーアは三兄妹を連れて部屋を出て行った。直後、ベッドに座っていたナジミが頭を抱えてガタガタと震え始めた。


「お……おい。大丈夫か……?」

「あわわわわわわ……勇者と共に城に来いって……どどどどうしましょう!? わ、私……国王陛下から『異世界から武勇と知略に優れ、正義の心を持つ勇者を連れてくるのだ』って命じられた時、めちゃくちゃ自信満々に『任せて下さい!!』って言っちゃったんですぅぅぅぅぅ!!」

「うわぁ……」

「それがこんな斬られてばっかりのヘッポコ俳優を連れて来たなんて知れたら……」

「ヒドっ!? ちょっとネーアちゃん、このドジ巫女を説教してやって!!」

「……私、ひょっとして打首!? やだー!! そんなのやだー!! ……あっ、そうだ。異界に逃げれば良いじゃない。私ってば天才的!! ウフフフフフ……あうっ!?」


 ナジミは武光に額にチョップを入れられた。


「現実逃避すなっ!!」

「だ……だってぇぇぇ……これ行ったら打首、行かなかくても死刑なんですよっ!?」

「か、かくなる上は……勇者って事でムリヤリ押し通すしかないやろ!!」

「で、でも……」

「自分が打首なんかされたら俺帰られへんやろが。ほら、さっさと着替えてこいや!!」


 武光はグズるナジミを部屋から追い出した。


 武光に追い出されたナジミは、絶望的な気分で平服から神事を行なう時の巫女服に着替え、武光のいる部屋の前に戻って来た。

 コンコンと部屋のドアをノックすると、中から『入ってもええで』と返事が返って来た。


「武光様ぁ、本当に勇者のフリなんてするつも……」


 そこまで言ってナジミはドアを開ける手を止めた。紺の着物に黒の袴、白の袖無し羽織りに、鉢金の付いた白の鉢巻、そこには、地味な青年ではなく、堂々たるつわものが立っていた。


 彼は本気だ……本気でヘタをしたら殺されかねない舞台に上がろうとしている。


「ええか、狼狽うろたえたらアカン、本番で狼狽えたら一発でバレてまうからな。こういうのは堂々としてたら存外バレへんもんやねん。あー、それと……嘔吐えずくのも禁止な?」


 竹光を帯に差しながら、冗談っぽく笑う武光を見て、ナジミは不思議と安心感を得た。何の根拠もないが、ひょっとしたら乗り切れるかもしれない。


「よっしゃ、じゃあ行こか!!」

「は……ハイ!!」


 武光とナジミの二人は、二人を待つ、城からの使者の元へ向かった。

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