2章 第10話
ソラが入院してから3日が経った。未だソラは目を覚まそうとしない。
このまま、ソラが目覚めなかったら、これまで暮らしていたときのように何処かへ出かけたり、一緒に笑いあったりといったことができなくなる…そう考えると、一気に寂しく、そして悲しくなった。
「ソラ…目を覚ましてくれよ…また色々な所行ったりいろんなもの食べたりしようよ…!」
私はいつのまにか、そう呟いていた。
その祈りが天に通じたのか。
「う…ここ…どこ…?」
ずっと閉じられていたソラの瞼がうっすらと開き、かすかな声でソラは確かにそう言った。
「ソラ!大丈夫か?私が誰か分かるか?」
「わたしの…ご主人さま」
「よかった…目を覚ましてくれて本当に良かった…!ソラは私をセルリアンから守ろうとして代わりに喰われたんだ。ハクトウワシが助けてくれたけど、それから3日間、ソラは眠っていたんだ」
「ふーん…」
その時は、ソラの返事に少しの違和感を覚える程度だった。しかし、その違和感は次の日にはっきりとしたものとなった。
ソラが目を覚ました次の日、私は病室に見舞いに行った。
私が顔を見せた時、ソラは私の方をちらりと見ただけで、すぐにそっぽを向いてしまった。
おかしい。
普段なら、顔を見せたら嬉々として駆け寄ってきそうなものだ。まだ安静にしていなければいけないことを差し引いても、あんな素っ気ない態度にはならないだろう…
『セルリアンは輝きを奪う』
『場合によってはだんだんと生きる活力を失って、最悪の場合、死に至る』
ハクトウワシの言っていたことが、現実味を帯びて思い出された。
輝き…か。どうすれば取り戻すことができるんだろう…
それからも私はソラと世間話やなんかをした…が、帰ってくるのは「うん…」や「そうだね…」のような、いつものソラからは程遠い気の抜けた返事だった。
「ソラ…どうしたんだ?いつものソラらしくない…何か、不安なこととか、変わったことがあれば言って欲しいんだ…」
「…ぃて…」
「え?」
「ほっといてよ‼︎ご主人さまには関係ないことだから‼︎」
それは、ソラが始めて私に反抗した言葉だった。
「そう言われて放っておくほど私は馬鹿じゃない。些細なことでも、ソラの力になれることがあるかもしれないなら、私はそれにかける。だから、私になんでも言ってくれ。頼む」
「っ……!」
一瞬、ソラが言葉に詰まる。
そして、ソラは少しずつ話し始めた。
「…怪物に襲われてから、わたし、何かがおかしいの。前はあんなに大事だったご主人さまを、全然大事だって思えなくなって…しかも、ご主人さまのことを、もうどうでもいいだなんて思ってしまって…心がどんどん冷たくなっていってるような…もうわたし、ご主人様に合わせる顔が無い…」
そうか、これではっきりした。ソラがセルリアンに奪われたものは『愛』だ。
ソラが愛を取り戻すことができれば、またいつものソラに戻るかもしれない…それに、さっきの言葉を聞くと、まだ私へ思いやる気持ちや私への未練は残ってるようだ…そこを上手く使えば、愛を取り戻すことができるかもしれない‼︎
一縷の希望が見えた気がした。
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