第15話

紅茶を飲みながら、ガイドブックを眺める。

…今いるナカベチホーには興味を引くものは無さそうだ。

他のエリアはどうだ?

考え始めて気づいた。そういえば動物見てねーじゃん!いや、見たは見たけど、あれはアニマルガールだし…ここ来てから何した?ガイド買って、芸術祭見て、喫茶店寄っただけじゃん!こんなんだったら別にわざわざジャパリパークじゃなくてもできる…ここ特有のものと言えばアニマルガールがそれらの主体っていうだけで…5日目にしてそれに気づくとは…

動物園なんだ。動物を見ようじゃないか。


ガイドによると、ナカベチホーの観察エリアは大きな川が流れている熱帯雨林らしい。

どんな動物がいるのやら。


ソラも牛乳を飲み終わったようなので、会計をして外に出る。


動物観察ができるエリアは「ジャパリパーク・サファリ」という名前らしいので、あちこちにある立て看板の名前を頼りに向かう。


5分ほど歩いただけで、周囲の文明的な建物は姿を消し、草木生い茂るジャングルになった。

鳥のさえずりがよく聞こえるものの、姿が見えない。

葉っぱのすれる音や枝のきしむ音が聞こえるから、何かしらの生き物はいるはずなんだが…

ガイドブックによれば、各エリアでの生き物を説明してくれるガイドを派遣してくれるサービスがあるらしいが、それを頼まなかったのが悔やまれる。素人目じゃ頑張っても鳥のシルエットだけでそれが何かが全然分からん!


1度戻って出直そうかとも思った時、私の後ろでソラがこけた。


「大丈夫か?立てるか?」

「うん、大丈夫。ただ、ちょっとつまづいただけで…」


ソラの足元を見ると、直径15センチはありそうな大きなヘビの尻尾が…もしかしてソラ、これにつまづいたのかい?この太さなら全長は2メートルはありそうだ…頭は茂みの中に消えているが、入って早々にヤバい生き物に遭遇しちゃったぞ…

茂みから、ガサガサという、こっちに近づいて来るらしき音がする。私は死を覚悟した。

が。


「ん?なんだ、観光客か」


出て来たのはアニマルガールだった。

茶色のパーカーを着た、目つきの鋭い子だ。フードがとても大きく、横に広がっている。


「お前、本物の大蛇が出ると思っていたな?顔に出ているぞ。まあ、運が良かったな。私が動物だった頃の姿だったらまず間違いなくお前の命はなかったぞ」


出て来たのがアニマルガールで良かった〜…

で、あなたはどなたですか?


「私はキングコブラ。何か困ってることがあれば命令…もとい申してみよ。力になろう。ところでお前、観光客だな?ガイドもつけずにこのエリアを探索するなど自殺行為だぞ。迷った挙句にグンタイアリの餌食だ」


グンタイアリ…やべー奴じゃん…


「もし、ガイドが欲しいなら、私が案内してやってもいいぞ。一応、ジャパリパークは『動物本人から説明を聞ける』がウリだからな」

「え、本当?じゃあ、お願いしてもいいですか?」

「いいだろう。この辺りは私のよく知るエリアだ」


そう言って、キングコブラは歩き出した。私とソラもそれに続く。


「…ところでお前たちは何が見たいんだ?」

「うーん…目的が『動物を見る』だから、動物がたくさん見れる可能性が高いところへ連れてってほしい…な」

「うむ、承知した。そして後ろのお前、フレンズだな?こいつとはどういう関係だ?」


『こいつ』のところで私を指す。


「たまにフレンズに対して良からぬ事を働く輩がいるものでな、場合によっては…」


キッと私を睨むキングコブラ。目力が凄まじい。

いやなんもしてないですって。だから睨むのをやめてください。


「ソラはね、この姿になる前からご主人さまと一緒にいたの!まずね、気がついた頃からご主人さまがいて、いっつも私にご飯をくれたり、散歩に連れてってくれたりして…」


ソラが声を上げる。それからソラは私の今までの思い出を語り始めた。


5分後。

「で、雷が鳴って怖かった時も一緒に居てくれて、だから安心できたの!」


10分後。

「それでね、車で遠くまで行った時もいっぱい遊んでくれたし、すっごく楽しかった!」


15分後。

「さっき、喫茶店?ってとこに行った時も、何が書いてあるのかわからないソラのために、飲み物を選んでくれて…」


「…だから、ソラとご主人さまはいつも一緒にいたし、これからも一緒なの!」


私とソラがいかに仲が良いかを語った時間なんと合計17分弱…私への愛がすごく伝わってきたけれども、なんか、普段の生活を事細かに説明されてるようで恥ずかしい…


「…そうか。お前が嘘をついているようには見えんし、そこまで詳しく語れるのならおそらく事実なのだろう」


私の方へ向き直り、


「疑ってすまなかった。だが、不届き者がいるのも確かだ。最近は人権やセクハラなどが煩いからな。誤解されるような行動は避けた方がいいだろう」


頭を下げるキングコブラ。

そうだよな…アニマルガールにも人権が保証されてるんだからその辺のことは人と同じだよな…

またホテルに戻ったらこの前買った本を読み直さねばならんな…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る