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 マリカ君が俺の店に初めて来たのは本当についこの間で、同じ劇団の先輩であるマリオ君に連れて来られてだった。マリカ君は先日の舞台では女の子役をするくらい、可愛らしい顔立ちで中世的な声の持ち主だった。長身イケメンのマリオ君とは確かに対照的かもしれない。

『俺、先輩にすごく憧れていて』

 瞳をキラキラさせてマリカ君は尊敬する先輩の事を沢山話してくれた。実はマリオ君を追って同じ劇団に入ったのだとか。

『舞台役者は男らしいイケメンばかりでは素晴らしいものは出来ないから、俺みたいなのでも舞台に上がらせてもらえるんです』

 そう言ったマリカ君は、自分の価値を、存在意義を口にしていると言うのに、少しも晴れやかな顔ではなかった。眉根を寄せてどこか吐き捨てるようで。

『それはマリカ君がとても素敵だからではないのですか』

『ありがとうございます』

 どこか寂しげな笑顔だったのが印象的だった。

『これでも結構自分の事、好きになったんですよ』

 昔は容姿と声のことで凄くいじめられていて、いつも下を向いて口を噤んでいたと言っていた。

『お芝居に出会って、舞台に立たせてもらって、自分の居場所が出来たみたいで。舞台の上に立っていると、このままでいいんだって思えて、自分の事、好きになれるんです』

 目を細めて微笑む姿は、お芝居ではなくて本当の姿に見えた。この子は、自分の為にも舞台に立っているんだ。

『応援していますよ』

 いつかきっと心から自分の事を好きになる時が来るだろう。その時には多分、彼はとても素敵な役者になっていると思う。

『マスターは優しいですね』

 その言葉に微笑みを返した少し後、マリカ君は眠りに誘われてしまったわけで。

――♪♪♪

 あぁ助け舟来た!

 金髪の天使の傍にあるスマホがブルブルと震えている。その画面には“マリオ先輩”の文字。申し訳ないけど、出させてもらうよ?

「もしもし、バー・ミスティックスカイの者ですけれど、天使をお迎えに来ていただけませんか?」

 きっと可愛い彼の事だから、起きた時凄く驚くだろうけれど、懲りずにまたいらっしゃいな。何でも話しは聞いてあげられるから。でも眠っちゃうのは、勘弁な。

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