私と僕

りあ

第1話 始まり 見知らぬ少女

 陽が長くなってきた頃、僕はいつも通りボロいアパートの軋む階段を上がっていた。

 片手にはお店のお客さんから貰ったお菓子や飲み物が入ったバック。

 慣れた手つきでロングスカートを掴むと裾をふまないように冬用のブーツを次の段に乗せる。


 僕の部屋の前に誰かが座っていた。

 このボロアパートはワケありな人達しかいないから普通の時間帯に出会うことは少ない。

 北向きの入口を背に体育座りしているのは、この季節には凍えるだろうワンピースに裸足の女の子だった。


 「!?」

 慌てて駆け寄ると生きているか確認する。

 身体は冷たいけど息はしている。意識はないけど手足の先が凍死したように黒紫になっている様子はない。

 ボサボサの髪で顔はよく見えないけど、僕は玄関の鍵を開けて少女を抱え入れた。

 この切り詰めた生活で見ず知らずの人の病院代を払うことになるかもしれない。

 そう思うと救急車は呼べなかった。


 荷物を乱雑に投げ捨て床に下ろした少女にコートを巻くと急いで風呂場に駆け込み使ったことがないガス釜式の浴槽をスポンジで擦る。

 いつもシャワーで済ませるため汚れがこびり付いていたのでひたすら擦る。

 浴槽を綺麗にするとシャワーでお湯を出しながら少女を衣服のまま浴槽に入れる。

 いきなり熱いお湯はマズいだろうか…。

 正方形の狭い浴槽にぬるま湯を流し込む。

 なんにせよ、少女の身体を温めないといけないと思った。


 小さな浴槽にはすぐ、お湯が溜まった。

 体育座りの状態で肩まで浸かるお湯量にしたら少し放置して、コンロでお湯を沸かす。


 6畳1Kの部屋には1辺50cmのローテーブルとソファーベッドが置かれている。

 玄関を入り右側にトイレと風呂場、左側の外に面する壁に小さなシンクと2つ穴コンロがある。

 ローテーブルは部屋の中央に置かれ、キッチンと反対の壁にソファーベッドが置かれている。

 ソファーベッドの上には窓がついており、外は隣のビルで陽は入らないがカーテンレールに下着が干されている。

 壁が薄いので風呂場と対面する壁際はクローゼット状態になっており、男物や女物の服や靴、アクセサリーが置かれていた。


 ソファーベッドに除菌消臭のスプレーをすると500mlのホット用のペットボトルをゴミ袋から探し出す。

 ラベルをはぎ、洗うと丁度お湯が沸騰した。

 ペットボトルにお湯を入れタオルを巻き、即席の湯たんぽを作るとソファーベッドに置き、ソファーベッドの背面に押し込んで収納していた羽毛布団をかける。

 もちろん羽毛布団にも除菌消臭スプレーは忘れない。


 少女が溺れていないか、浴室を見に行く。

 ぬるま湯に浸かったままの手足の指先を触って温まっていることを確認する。

 あまりお湯につけても湯あたりになったら困るよな…。

 そう考えると浴槽の中で少女の服を脱がせた。

「……」

 現れたのは無数の痣や切り傷、内出血、タバコの押付痕……。

 僕は既視感を覚える。

 自分の腕にあった今でも消えないタバコの押付痕を意識しつつも少女を浴槽から引き上げ部屋に不似合いな、ふかふかのバスタオルで包み込む。

 少女の身体は成長期を迎えたのか胸は膨らみ身体は丸みを帯びていた。

 性欲など感じることなく僕は少女をバスタオルごとソファーベッドに運ぶと自分の丁度洗濯したばかりのスウェットを着させ布団に入れる。

 上半身を起こし、腰まである長さがバラバラな髪をドライヤーで丁寧に乾かす。


 1通り出来ることはやった。

 そう思うと僕は普段の居場所を少女に奪われているので、ローテーブルを挟んでキッチン側に座り込む。

 色あせた畳の上に今日、貰ってきたものを広げる。

 夕食はお店で食べてきたからお菓子はシンクの下に入れる。既に溜まっているお菓子もあるが詰め込む。

 飲み物は有難くコンロの下の備え付けの小さな冷蔵庫に入れる。

 缶コーヒーだけ手に取るとカシュッと片手で開けて少女の顔を見ながら一息ついた。

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