第1章

第1話 お世話係り?いいえ付き人です

特別 綺麗でも静かでもない森のなかに

1人の人が眠っている


見たところ、20歳前後くらいの女性

金髪の髪に透き通るような白い肌

閉じられている睫毛は長く

小さく開けられた唇はほんのりと紅い


見た目からか、着ている真っ白なワンピースがより彼女を引き立てているからか

人形のようだ。


花々も鳥達も虫をも彼女が自然の一部のように見えているのか周りに集まるも危害を加えることはない

見ていて微笑ましい光景


だが、先ほどまで聞こえていた木々の音が急になくなり

鳥や虫達も彼女から離れていってしまった

まだ昼間だというのに

周りがどんよりと暗くなった気がする


ピクリ


彼女の指が動く

閉じられていた瞼がゆっくりと開き

エメラルドグリーンの瞳が見える

ますます彼女の人形感が増す


『コウ』


囁くように彼女が発すると同時に

大きな鎌が手に握られた


その鎌は刃の部分が大きく黒くて禍々しい

握っている彼女とは全くの正反対なモノに感じる


どんよりしていた暗さがいつしか不気味な雰囲気となり

何処からか唸り声が聞こえる


彼女がゆっくりと起き上がるのと同時に

襲いかかってくる影が二つ

怯む事も躊躇する事もなく

ただ一点を見つめ鎌を振り下ろす


猿とも人とも言えないモノが

声を出し倒れる


『はぁ…疲れた』


そう言うと先ほどまで鎌だったモノが人の姿へと変わる


「何処にいるかと思ったらこんな所に」


ハァ

と溜め息混じりに言われる


「それによりにもよってアルケミストの成れの果てと遭遇するとわ」


先ほど切ったモノはアルケミストの成れの果てだったようだ。


鎌だった人…もとい

彼女にコウと呼ばれる彼


年齢は彼女とあまり変わらないようにみえる

黒色のスーツにメガネ

緩い癖っ毛の茶色い髪に

たくさん開いているピアス


……硬派なのか軟派なのか分からない容姿の彼


『もうコウは一々うるさい』


と湖の方へ向かう彼女は男性が居るにも関わらず着ているワンピースを脱ぎ始める


チャポン


水に浸かる


「その癖も直して下さい」


何度目か分からない溜め息をつき

脱ぎ捨てられたワンピースを拾い

綺麗にたたみ始めるコウ


『コウは一々うるさい』


同じ言葉を繰り返す


「新しい服でも新調しますか?」


同じ言葉が返ってきた事にあえて突っ込まず

先ほどの戦闘で汚れてしまった洋服について話す


『着れればなんでもいい』


興味無さげに返事が返ってくる


「では少々街へ行ってきます。なるべく、なるべくここから動かないで下さいね」


"なるべく" を二度言った彼は

彼女が大人しく自分の言うことを聞くタイプではないからだろう


コウが離れてからすぐ湖に潜った

浮遊力に逆らい身体は下へ下へと沈んで行く


普通の人間なら息が長く続かないが

彼女にはそれが出来る



10分程、沈んで行くと湖の底へと着く

そこから見上げる景色が大好きで

ついでに、自分の身体に付いた

血生臭いモノを洗い流すため

毎回行っている事。


アルケミストの成れの果てと闘うのはめんどくさいがこの瞬間は大好きなのだ


ボーッとしていると

急に身体が浮遊する

誰かに引っ張られているようだ


大好きな湖の底から出る

普通の人間なら咳き込んだりするだろうが

彼女達はそれをしない


「もーぅ!いつまであぁしてるつもり?」


声をかけた人物は顔を覗き込む


『ユウ』


ユウ と呼ばれた人物もまた

彼女とあまり年齢が変わらないようにみえる

青くやや長い髪は後ろで一つに結ばれており

どこかの制服なのかブレザーに白いセーターを着ている

少々つり目で右目には泣きぼくろ

赤縁のメガネをかけている


「ねぇ!ねぇ!この格好どう思う!?街で見た時にいいなぁ!って思ったんだよね!!」


と言い

クルリと回ってみせる


水の中から出たにも関わらず全く服が濡れていない


「このメガネもカッコよくってさ!!ダテメガネってゆうらしいよ?あ、でもコウのと比べないでね」


コロコロと表情や喋り方が変わる彼

いつものことらしくボーッと見ているだけだった。


「ただ今戻りま……」


買い物から戻ってきたコウの言葉は

最後まで言い終わることなく固まる


何故なら全裸の女性がボーッとしているのだ


そう、全裸で。


「な、な、な、な、な、なにしているのですか!?」


彼らしくない慌てた様子で

彼女の元へと駆け寄り

着ていたジャケットをかける



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