最低な勇者を改心させた悪魔の話

よもぎもちもち

第1話 クズ、それは勇者

 ボロをまとった勇者に出来る事と言えば、アリアハンの役人から請け負った墓石の修理をする事くらいだった。


 ギシギシ音のするくたびれた荷台を今にも死にそうな馬に引かせ、たった3ゴールドの手間賃欲しさに彼は荷台からトンカチを引っ張り出した。


 トンカントンカントントンカン♪

 

 修理するフリしてそこらへんの大きな石を叩いてまわる勇者。

 「おやおや、トルネコさんじゃないですか。どうです?一発」


 トンカントンカントントンカン♪


 ずんぐり丸いその石を勇者は7発“殴った”


 「ん?そこにいるのはマーニャさんじゃないですか、今日もお美しいですね。こんな場所でダンスですか?」

 細身のつややかなその石を彼は“執拗”に“何度も”“荒々しく”削った。


 城に修理しているような音さえ響いていれば、バレる事はまずないだろう。自分に正直な勇者は自信たっぷりにそう思った。 


 日が暮れ、子供たちが町中を楽しそうに走り回っている。


 「そう言えば今日は24日だったな。」


 勇者はポケットからスライムウィスキーの小瓶を出し、グイッと美味そうにすする。意地悪な姑が嫁にするような湿った表情をして。

 

 その時、墓場に走り込んできた小さな男の子が彼の視界に入った。

 まるでオレオレ詐欺の出し子がするように、辺りの様子を瞬時に確認する。

 「よしよし、こいつ以外に誰もいないな」

 勇者は駆け寄ってきたその子の首根っこをつかまえ、すかさず腹にケリを1発入れた。

 そして、泣きながらうずくまる子を見て勇者はせせら笑った。


 「メリークリスマス、坊や」


 そう言い残すと勇者は墓場の奥にある“お気に入り”の洞穴へと入って行った。

 モンスターに果敢に立ち向かうも無残に亡くなってしまった町の名士達が眠る特別な墓へ。

 

 トンカントンカントントンカン♪


 

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