青春と魔性の女

もちもん

恋の歴史。4度目の告白。


「マキ先輩、あの俺マキ先輩のこと好きなんです。」


「ごめんなさい。」



ああ、俺は全くこりない。

これで告白したのは3回目そして振られたのも3回目。


学校のマドンナ海藤マキ。

一個上の先輩でそれはそれは美人で、笑うとえくぼができて。

陸上部で。

走ってる姿も美しい。

でもそれ以上にユニフォームからのぞく生足がたまらない。

少し気が強くて、はっきり喋るところとかも俺を虜にする。

どこにいても何をしていても、神々しい光を放って目が離せない、女神のようなマキ先輩。

そのマキ先輩が生徒会長だからという邪な理由で生徒会役員になった俺。

高校2年になる、坂田アキト。


「アキまた振られたの?」

「ほっとけ。」

「懲りねーな。あれはハードル高いだろ。もうそろそろ諦めろ。」

「うるせーな。いいんだよ。」

そんなのは、3回も告白して玉砕している自分が一番わかっているわけで。

でも諦めきれないんだからしょうがない。

あの笑顔を自分のものだけにしたいって思うわけだ。


好きと言う感情はおさまらない。



「アキー。お前部活行くー?」

「いかね。」

俺は美術部。

真面目にやらない美術部員。

描きたいときに描いて描きたくない時は描かない。

顧問の山崎先生は“お前は筋がいいから真面目に描け”というけど…。

絶賛片思い中の俺の放課後は、教室から見えるグラウンドで練習中のマキ先輩をスケッチすることの方が重要なのだ。


この行為が本人にバレたら、さらに振られる要素になるんじゃないかと思う。

それでいて今日もまたグラウンドのマキ先輩をスケッチする俺。

「マキ先輩ー。」

と手を振ってみる。

控えめな笑顔で3階の俺に手を振ってくれる。

皇族のように。

まるで女神だ。

「やべ。睨まれた。」

睨んでいたのは陸上部部長、梶山先輩。

現在のマキ先輩の彼氏だ。


俺がマキ先輩を好きなのは1年の時からで。

マキ先輩はその時から結構な有名人で。

全校集会とかの移動ではどの学年からも一躍目を惹く存在だった。

そして、

それはそれは美人であるマキ先輩を

周りの男もほっとかない訳で…。


マキ先輩が有名なのは美人だからだけではない。

付き合う人が多いとうこと、恋多き乙女というわけだ。

それはもう取っ替え引っ替え…毎回違う。

それともう1つ。

“海藤マキには告白してはいけない。”ということ。

マキ先輩は自分が告白した人としか付き合わないという正真正銘の女王様なのだ。

つまり男たちにとって、学校は大奥状態ということだ。

次は自分が選ばれるかもしれないと、好感度のポイント稼ぎには必死になってしまう男たち。

そんなマキ先輩だから女子からはかなり僻まれたりするんだろうけど。

俺は男だから思う。

そんな僻みからも守ってやりたいっていう気持ち。


1年の頃のある日。

俺は恋に落ちた。


放課後の校舎裏。

ゴミ捨て当番任務遂行中。

「あんた調子乗りすぎ。男にちやほやされるからってやっていいことの限度があるんだよ!!」

「そーよ!ちょっと可愛いからって。」

女子数人の殺気だった声。

「私はただ好きになっただけで、付き合うか付き合わないかを選んだのはあなたの彼氏じゃないかしら?」

マキ先輩の声。


パンッッ(ビンタの音。)


修羅場だ。女の。

そしてほっぺを叩かれたマキ先輩。

「頭冷やせ、泥棒猫ッ。」

バシャっ

バケツが転がる音。


俺は目を丸くする。

女は怖い。

まさかの水かけ。

少女漫画か!ってくらいのワンシーン。


1人残されたマキ先輩はワイシャツもスカートもビショビショだった。

「あの!こ、これどうぞ。」

「?」

俺はとっさに学ランをマキ先輩に被せた。

「ありがとう。」

そう言って俺の顔を見上げて、ふふっと困った顔で笑うマキ先輩。


目が合う。

えくぼ。

ピンクの濡れた唇。


水も滴るいい女…。


マキ先輩の美しさに一瞬硬直した俺。

その俺を見てまた笑うマキ先輩。


それはもう女神のようでーーー


俺は恋に落ちた。

正確には撃ち落とされた。


「見てたの?」

「見てしまいました。」

「女は怖いわ。私も女だけど」

マキ先輩は強がりからなのか、割り切ったように言う。


「あの。」

気の利いた言葉をかけようと言いかける俺。


「ちょっと惨めだからもう少し乾くまで一緒にいてもらってもいい?」

いたずらっぽくいうマキ先輩。

「は、はい。」

撃ち落とされ済の俺の心は壊れたように

ばっこんばっこんなっているわけで。

心臓が口から飛び出てくるんじゃないかと思って息を飲む俺。

「君の名前は?」

「一年の坂田アキトです。みんなアキって呼びます。」

「そか。アキくん。」

「学ラン濡らしちゃってごめんなさい?」

「いいえ。必要なら着て帰っていいです。それ。」

「ありがとう。明日返すからクラス教えて?」

「1-3の出席番号21番です。」

「あはは。」

何が笑えたのか全然わからなかった。

「出席番号て。あはは。」

「あは。」


「きかないの?なんでこんなことになったか。」

「いえべつに…。」

「好きになった人に告白したら、ok貰ってね。でもその人に3年生の彼女がいてね。私と付き合うために、彼が彼女に別れを告げたらしいのよ。」

「はあ。」

それはまた…ドラマなシチュエーションだ。それで元カノの方がキレたというわけだ。

冷静に言ったら逆恨みな訳で。

でもきっとその彼女も、行き場のない感情をぶつけるところが欲しかったに違いない。

被害者であるマキ先輩より、加害者の気持ちの方が理解できてしまう俺。


「噂、知ってるでしょ?私の」

「はあまあ。」

「いいの。どうせ好きな人となんか一緒になれないんだから。」

「?」


この一言が何を意味していたか。俺は4年後に知ることになるのだが。


「1-3、21番アキくんね。覚えたわ、ありがとうね」

そう言って学ランを羽織って立ち上がるマキ先輩。


「また明日ねッ」

その笑顔が西日に照らされて、額に入れたら美しい女神の絵画になりそうだと美術部の俺は思った。


俺は恋に落ちた。

好きで。

好きで。

好きで。



“海藤マキには告白してはいけない”と知っていながら、自分ならもしかすると。なんて思った身の程知らずな俺。

見事に玉砕だ。

そして懲りずに3度目の正直。

マキ先輩は少し呆れながら(?)困ったように(?)笑いながら「ごめんなさい。」という。


マキ先輩が俺と付き合ってくれないのは俺が自分から告ったからだろうか?


俺は3回も告って振られているのに、

マキ先輩はいろんな男と付き合っていく。

ここ1年で7人彼氏が変わった。(坂田アキト調べ)

俺が振られる理由が、

マキ先輩が俺に告白する前に俺が告ってしまったことにあるんではないかと思い始めた。

俺の自惚れも大概だよな、と自虐。

ただ恋愛対象枠じゃないだけだってのに。


こういう自惚れを世間では中2病というらしい。


7月。

生徒会室。

いるかな?なんてのぞいたら、マキ先輩だけがいて、伏せて寝ていた。

俺は内心ラッキーなんて思った健全な男子。


おこそうかと思ったが、寝顔まで美人だから眺めていた。


好き。好き。好き。

溢れて、漏れ出る俺の恋心。


そしてーーー。

キスした。

気づいたらキスしてた。

唇と唇。

女性の経験がない童貞の俺は、こんなに唇が柔かいものなのかと思いくらいだった。


「!?」

起き上がるマキ先輩。

キスされた口に手を当てて驚きの表情。

その瞬間

パンッッ!


俺は人生初のビンタを食らった。


「アキくん。バカなの!?」

そう言ってマキ先輩はカバンを持って出て行ってしまった。


やっちまった。

俺は放心状態で立ち尽くす。

校内でなっているはずのチャイムがすごく遠く感じた。


恋心というものは厄介である。by坂田アキト。


「アキさー。そこそこモテるんだからもう海藤先輩は諦めろって。」

「そうだよ。お前この前も1組のチカちゃんに告られてただろ。」

「お前はモテる。ただお前が海藤マキ先輩のお眼鏡にかなわない。それだけだ。」

「…。」

幼馴染で親友の高崎リキと友達のシノに肩を組まれ、励まされる落ち込みマックスの俺。


「アキくん。バカなの!?」

あの言葉を思い出すたび泣きたくなる。

そうですよ!バカですよ!!

不覚にも俺は…

あなたの怒った顔も女神だと思ってしまったどうしようもないうつけ者だ!!!!


諦めろ。と言われて諦められるくらいならとっくに諦めている。

諦めろというのなら、誰か俺から海藤マキの記憶を全て消してくれ。

俺だってこんな苦しくて不毛な恋はしたくない。


好きという感情は例えるなら、火山から流れ出す溶岩のようで。

溢れ出て止まらない。

冷めて固まるまでどこにも納めておけない厄介なものな気がする。

そして地層になり歴史を刻む火山層。

俺の恋の歴史…。


おまけに、落ち込みマックスな俺を呼び出す、美術部顧問の山崎先生。

「坂田ー!お前部活やれ。仮にも美大受けるんだろう?」

社会の窓がしまっていない山崎先生にやれといわれイマイチピンとこない俺。

「はい。すみません。」

心はズタボロの坂田アキト16歳。

「それから、この前の油絵。」

「?」

「入賞してたぞ。」

何書いたっけ…?

あ。マキ先輩の陸上の絵。


ふらりふらり教室へ戻る階段の途中でマキ先輩と手を繋いだ陸上部部長の梶山先輩が降りてくるところに遭遇する。

こんなことならもう少し長く山崎先生に頭を下げて、しまっていない社会の窓を見ていた方が良かった。と心底思うとことん残念な俺。

「マキ明日暇?」

「んー明日は塾。」

なんて会話が聞こえる。

「…さようなら。」

俺は小声で、俯いてすれ違う。


まったく情け無い。


もう直ぐ夏休み。

夏休みが終わって受験が終わればもう3年生は学校に来ることはない。

「はぁあああ。」


一度でいいから俺になびいてくれないだろうか

少しでいいから意識してくれないだろうか。


今日は大人しく部活をやって帰ろう。

もっとマキ先輩に見合ういい男になろう。

こんな変なメガネもやめよう。


夏休みが明けて俺はメガネをやめた。

せめてものイメチェン。

「眼鏡をやめた。世界が変わった。」

と言うCMがあったが正確には

「メガネをやめた。世界が変わった。」

だけであると俺は思った。

メガネをやめたからと言ってマキ先輩が俺を男としてみてくれるわけではない。


コンタクトにしたら、恋が叶うなら世界はみんな幸せなわけだ!!

と毒づいて憂さ晴らし。


〜〜〜〜〜


“体育館裏で待ってます”という手紙をもらった俺は今、体育館裏にいる。

よくある告白シチュエーション。

可愛い一年の女の子が現れた。

顔を真っ赤にして俯く女の子。

溢れた好きをたくさん抱えて、言葉という形にかえる。それが告白。


ああ、この子は俺だ。

マキ先輩の前に立つ俺ーーー。

自分を置き換えて考えてみる。

あの時マキ先輩はどう思ったのかなーーー。

「アキ先輩…好きです。」

断る返事は用意できている。NOだ。

「ごめん…好きな人がいて。」

「アキ先輩がマキ先輩を好きなのは知ってます。でも気持ちだけは伝えたかったんです。」


ああなんか。

俺を見ているようで胸が痛いーーー


「そか、ありがとう。気持ちは嬉しい。」

その言葉に偽りはなくて。

自然に口をついた“気持ちは嬉しい”という言葉。

「お時間ありがとうございました。」

と彼女は帰っていった。


俺は立ち尽くしながら

マキ先輩も俺が告ったときかったんだろうか。

なんて思ったらなんだかもう

どうにもしようのない感情が溢れて立ったまま泣いた。


行き場のない。

好きという湧き出て溢れる気持ちはどこにやればいいのだろう。


「アキくん?」

聞き覚えのある言葉に振り向く俺。

マキ先輩。

「どしたの?」

心配してこっちに近づいて来る。

そして俺は…

俺は走って逃げた。

男が泣いている姿なんて見せるもんじゃない。

見られたくない

特に好きな女の子には。

たとえそれが振り向いて貰えない相手でも。


マキ先輩

マキ先輩

マキ先輩

俺は情け無いくらいあなたが好きなんです。



あれからしばらく経って10月。

受験一色の3年生たち。

先輩は引退したから、グラウンドを見てもマキ先輩の姿はどこにもない。

放課後のグラウンドを見下ろして、気づかれない程度の小さなため息をこぼす。

「アキもう海藤マキは諦めたのか?」

リキが声をかけてきた。

「まーな!」

気づかれたのかと一瞬ドキッとして、隠すように返答。

「アキー。合コンしようぜ。」

「お前俺の妹と付き合っていながらよくそんなフレーズ言えるよな。」

「さやちゃんには了承済みだよ。」

「あ?」

なんでまたそんなことを許すんだよさやかは。

「お前が振られ続けてるから心配してセッティングしてやろうとしてるんだよ。」

「大きなお世話だ!俺は忙しいんだ!ほっとけ。」

「忙しい奴は、学校にピザ頼んで食ってねーよ。」

「うるせーよ。じゃあ食うな。」

「えーやだ。」

忙しい奴は、ピザを食いながらこんなところでダラダラ当番の日誌を書いていないだろ。っと思う。

「お前知ってる?マキ先輩、梶山先輩と別れたって。」

「知ってる。」

「今、吉永智よしなが ともと付き合ってるって。」

はい???それは初耳だ。

「吉永智?うちのクラスの?」

ショックだった。

それはそれはショックすぎて。

俺は手に持っていたピザの具を日誌に落とした。


「おわ!やべ!ハゲ岡に怒られる!!!」


案の定俺はハゲ岡(担任)に怒られた。

・学校にピザの配達は頼まないこと

・みんなの日誌にピザを匂わせないこと。

・罰として2wk当番をすること。


なぜ2wkかというと14日分のページがピザの油染みと香りを放つからで…。


でも俺の中でそんなことはどうでもよくて

重大なのはマキ先輩が、自分と同じクラスの吉永智と付き合っていることだ。

俺より身長が低くて

俺より成績悪くて

俺より足が遅い。

俺よりーーー…やめよう。

そんなことを数えても事実は変わらない。

という事実。


次の日。

帰りのHRが終わる。

「アキ、今日アキん家いっていい?」

「おう。」

「モンハンやろうぜ。」

リキと教室で話す。

たわいのない会話とクラスの風景。

「とーもー。」

クラスの誰かが吉永智を呼ぶ。

「んー?」

「海藤先輩来てるー。」

俺は不覚にも、智がマキ先輩に振り向く前に、海藤マキ先輩を視界に入れたわけで。

後ろの席の俺。後ろのドアの傍にいるマキ先輩。

前の席にいる智。


海藤マキ先輩は今日も美しく、神々しい光をまとっているかのようで目が離せない。

「!?」

マキ先輩が俺に気づいてニコッとする。

失神するぜ。

「先輩早いですね。」

智が駆けつけて話している。


「…キ!」

「アキ。」

「んあ?」

「見過ぎだろ。」

「…やっぱつきあってんだ。」

俺も一緒に帰りたいよ。

あんな風に。

正直、智が羨ましい 。

仕方あるまい。

のだから。



で、俺は思い切って智に聞いてみた。

「ともー。」

「んー?って。アキとリキお前ら今度は吉牛かよ。」

昼休みに買ってきた牛丼。

「冷めてるけど食うか?3つ買ってきた。」リキが言う。

「なに?何かあんの?」

「なんでお前、てか、どうやってマキ先輩落としたの?」

俺は聞く。

「んー。部室が陸上部と隣で面識あって。」

智は野球部だ。

ーーーなんで俺美術部なんか選んじまったんだろうか。と心底思った。

「アキあれは無理だぞ。お前には。」

智が言う。

「なんでだよ」

俺はちょっとイラっとする。

「俺だって思ったよ。なんで俺なのか。」

ムカつく。

こんなことで腹をたてる自分にもムカつく。

器の小さい俺。

「なんで俺なんですかって聞いたら、未来のある恋を望まないならいいの。って。」

「!?」

「要は付き合えれば誰でもいいんだろ?」

リキが言う。

そんな風にいわないでくれ。

マキ先輩がだらしないみたいじゃないか!


「いや、まぁそれもあるかもだけど、つまり未来を望む、本気はいらないってことだろ?」

智がいう言葉に俺は全く共感できなくて、何語を喋っているのかと思ったくらいだ。


「あー魔性!!!さすが!」

リキが言う。

「アキわかるか?」

唖然とする俺。口の中の牛肉をひたすら無心で噛み続けている。

「お前は本気だろ?」

「…おう。」

それのどこが悪いのか全く掴めない。

「健全な男は綺麗な女の子付き合ってあわよくばヤれればいいわけだ。」

「ヤッたの?」

「ヤッてないけど。」

「本気じゃないことが条件て、アキ100%無理だろ。」

「…。」

「振り向かせるまでが楽しいってやつか?」

リキ。

「それそれ。本気になったら終わりってやつ。」

…?????

「智はなんで付き合ったの?」

俺のかわりにリキがきく。

「断る理由がないだろ?」

そういうことか。

「俺帰る。」


俺はショックすぎて、教室を後にした。


「アキ!俺も帰るよ!!」

リキが追っかけてくる。

「いい。リキ、ちょっと1人にして。」


海藤マキの彼氏の条件。

・未来を望まないこと

・本気じゃないこと

・告白しないこと。

・自分に落ちないこと。

・落ちたら終了。


だから言っただろ。

メガネの問題じゃない。

勉強ができてとか

足が速くてとか

どうでもいいのだ。




海藤マキが坂田アキトを選ばない理由。


条件に全て不一致。完


おわんねーし!!


10/15坂田アキト17歳。

おめでと俺。

「坂田ー!」

「お前、美術室のもうダメなキャンバス一階に下ろして。処分処分!」

「あーい。」

デカイのを一枚持って慎重に階段を降りる。

「だりーな。」

で、俺は考えたわけで。魔法の絨毯のようにして乗っておりよう!


「いけ!」

ズシャシャシャーーー!!!ドン。

ちょっとケツが痛い気もするが小さいやつを重ねるとそうでもない。


ズシャシャシャーーー!!ドン。

4階から降りる俺。

「ぷ。なにやってんのアキくん。」

「!?」

マキ先輩。

「乗りますか?初乗り大特価です。」

「乗る乗る!」

「いいですかちゃんと捕まっていてくださいね!」

マキ先輩が俺の腰に手を回して準備が整った。

「えい。」

ズシャシャシャーーー

「きゃーーー。」

ドン。

「わッ」

壁に足がつく。

「あははは。天才!!」

マキ先輩が笑う。

「あと2回できます。乗ってきますか?」

「お願いします。」

ズシャシャシャーーー


「こらー坂田ーーーッ!!危ないことすんなーばかたれーーーッ!!」


先生に見つかって急いで降りる。

「あはは。」

「ヤベー。怒られた。」


「楽しかった。ありがとうアキくん。」

「いいえ。」

キャンバスを持ち上げて脇に抱える俺。

言うなら今しかない。

「せ…せんぱい!!」

「!?」

「俺…俺はあなたをずっと笑わせます。

あなたが俺のこと本気で好きにならなくてもいいです。でももし、ちょっとでも俺といることが楽しいって思ってくれてたら!先輩の時間を俺にくれませんか。」

「俺はあなたが好きなんです!」

「諦めきれないくらい。」

もうなんでもいい。

とにかく伝わってほしい。

本気じゃない恋よりも、

同じ時間過ごすならもっと楽しい恋を、本気の俺の愛を知ってくれ。

俺がどんだけ海藤マキが好きなのかを知ってくれ。

「限られた時間でもいいから、そしたら俺はあなたを他の男より何倍も笑わせてみせます!!」


階段下で俺は。

恥も忘れて4度目の告白をしたわけで。

玉砕覚悟。おまけにもうないって思った。

これで最後。

恐る恐るマキ先輩をみる。

マキ先輩が困ったように?呆れたように?恥ずかしそうに?俺を見る。

「アキくんの思ってるような女じゃないかもよ?」

「それでも、俺はそんなあなたの全部が好きです。」

いい終わって

頭を下げて目をつぶった。


マキ先輩が俺の頭を抱きしめて

「わかった。お願いします」

といった。

その声は少し震えてた。


俺坂田アキト17歳

最高の誕生日プレゼント。

「わかった。お願いします」


おめでと俺。




海藤マキは体育大学へ。

翌年俺は工芸大学へ。


アキくん。

マキ。と呼ぶようになった俺たち。


そして、付き合って3年が過ぎた頃。

気付き始めた。

マキの“本気の恋じゃなくていい。”

“どうせ好きな人となんか一緒になれない。”理由。



海藤マキは医者の家系の長女だ。

海藤家の長男は医者を継ぐ。

じゃあマキは?


マキにはーーー

許嫁がいる。敷かれたレール。

政略結婚の道。


マキは言わないけど俺はきづいた。


でももしかしたら、

こんなに誰よりも長く付き合って、

こんなに好き合っている。

だから俺を選んでくれるかもしれない。


望みをかけて、ジュエリー専攻に頼んで作ったペアリング。

高い石も入れてあげられないけど、俺は君が好きだと言おうと決めた。


大学3年の5月20日、マキの誕生日。

大学の製作を抜け出して向かったマキのいる大学。

「誕生日おめでとう、マキ。」


マキが開口一番言ったこと。


「ごめん。アキくん。」


首をさすりながら気まずそうにいうマキ。

「本当に、ごめんなさい。他に好きな人ができたの。」


指輪は出番を失った。


ジャケットのポケットの中で指輪ケースの感触を感じながら立ち尽くす俺。


「同じ大学の人で。だからもうアキくんとは付き合えない。」


「そ、か。そか。うん…幸せになって。」


そもそも俺は告白したとき

『あなたが本気で俺のこと好きにならなくてもいいーーー』なんて言った身だ。

俺を選んでくれるかもだなんて自惚れてバチが当たったのだろうか。


でも俺は知ってる。


マキが嘘をつくとき首を触るんだ。

だから嘘なんだ。


好きな人が出来たことは嘘である。

という真実。


どういうことかって。

つまり真実はこうだ。

「これ以上あなたとは付き合えない。許嫁がいるから。(親の敷いた道があるから。)」


俺は何も言えなかった。

医者の許嫁に勝る約束されたものは美大生の俺にはない。

漠然とある未来は

サラリーマンになるか

売れない画家になるか。


あれから3度のマキの誕生日が過ぎた。

マキは幸せでいるだろうか。


坂田アキトは間違いなく海藤マキが好きだった。

火山から流れ出た溶岩は冷えて固まって地層になって、歴史を刻んだ。


それは俺が

海藤マキを好きだったという恋の歴史。




















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青春と魔性の女 もちもん @achimonchan

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