第9話;ジョアンナ1(舞踏会)

「今度、隣国の親善大使がいらっしゃる舞踏会に招待してくださいませ、それを最後に王宮を退かせていただきたいのですが」

そう言ったのは、第七側室妃のジョアンナだった

もう1年半皇太子のお渡りも無く、ひたすら古書の翻訳をしていたジョアンナが、

皇太子と皇太子妃と宰相の前で言った。


奥殿に皇太子に会わせろと粗ぶっていた人と、同じ人間とは思えない変わり様だった


「理由をお聞かせ願えますか?」

ロゼッタが聞いた

「ロゼッタ様には翻訳の仕事を紹介していただきありがとうございます、お金も溜まりましたし、王宮に私の居場所はもうありませんので、舞踏会は一度出席してみたいのと思い出に・・・」

「王宮を出て、どうするのだ?少なからずここに居れば生活には困らないのだぞ、我々が貴方を追い出すことは無いと断言する」

そう皇太子が言ったが、


「子も産ませてもらえませんし・・・」

「・・・・・」

「避妊薬を食事に入れられてましたよね、ロゼッタ様・・・・責めてはいません、今なら理由が分かりますので」

「ジョアンナ様、もう少しお待ちいただけませんか?、良いご縁談を探しますので」

そう、ロゼッタが言ったがジョアンナは首を振る


「どうするのです、男爵家に戻られるのか?」

「いえ・・・姉上が聖女軟禁事件の解決で戻ってこられまして、先日良い縁談が決まったそうで、私は廃嫡すると通知をもらいました、もう、貴族ではありません、私にお金はもうかけたくないそうですわ」

「ばかな・・・なんと薄情な!」

皇太子が怒りをあらわにする


「ロゼッタ様は、もし私に子が産まれたら、その子が辛い思いをすることを懸念されたんですよね」

「・・・・身分の低い子は王位継承権もありません、貴族の称号をもらうこともありません、身分社会のこの世界では、不幸になるそう思って・・・」

「ロゼッタ・・・・」

皇太子が絶句している

「ジョアンナ様・・・印象が随分変わられた」

宰相も驚きを隠せない


「目つきが随分とお変わりになりましたね」

ロゼッタが言ううと

「でも、相変わらず勉強は嫌いですよ、興味のないものは一向に頭に入りません、それは変わりませんわ」

苦笑いをして話を続けるジョアンナ

「ただ語学だけは好きで5か国語話せるようになりましたし、色々な国の書物を読む機会を与えていただきました、世界が広がった気がします、そして見てみたくなりました、世界を」

キラッと目が輝いた、そこに知的な美しさが見えた


「それに世界が私を必要としなくなりましたから」


「??・・・しかし、世界を回るといっても、女の身で危険だ」


「精霊をまだ隠しておいでですのね・・・」

そうロゼッタが言う

王子も宰相も、頭の中は???だった


「少し、身の上話にお付き合いくだされば、この世界の不思議が見えるかもしれません」





・・・・母は不貞を働いたと、メイドをしていた男爵家から追い出されました・・・・


男爵に強姦され、仕事も失い途方にくれながら、どうにか故郷の街まで帰ってきた母は知人の紹介で宿屋に住み込みで働くことが出来ました、暫くすると私がお腹に居る事がわかり、その頃から母は可笑しくなっていきました。


宿屋のおかみさんの行為で、出産後も宿屋の物置にに住まわせて貰えましたが、精神状態が不安定で、産後の状態が悪く、そのまま寝付いてしましました。

1日1回の食事とそまつな部屋、それでもとてもありがたかったです

さすがに、医者などには掛かれず、母の容体は悪くなっていきました


私が前世の記憶が戻ったのが3歳の頃

前世では病気がちな、登校拒否を続ける、夢見る16歳、ゲームやアニメばかり見る”デブス”でした

久しぶりに、外に出た所、車にはねられ死亡、鈍い体で引かれそうな子供を庇おうとするから・・・・あの子は助かったのだろうか・・・・


そして記憶が戻ったと同時に私の周りに精霊が8つ舞いました

それを見た母は目を剥いて掴み掛り、

「誰にも見られてはダメ、隠しなさい、使える精霊は1つよ、水がいいわ、分ったわね!ばれたら離れ離れになってしまう、お前まで奪わせない」


母に愛されている実感はありません、でもその言葉は私の生きる糧になりました。


冒険者は10歳からしかなれません、でも魔物の素材や魔石は買ってもらえますので、母には内緒で精霊を使って魔物狩りや薬草採りをして、お金を稼ぎ、母には男爵家かららしいと嘘を言って、医者に掛からせてました。

宿屋を出て、ぼろアパートに住み、そこそこ幸せな日々を送っていましたが、私が9歳の時、母は亡くなってしましました。

それまで、自分でも知らず知らずに、虚勢を張って生きてきたのでしょう、私の心にぽっかりと穴が開いたようでした。


孤児院に引き取られ、そこでも呆然としていた所、10歳になった時、男爵家の迎えが来ました。

あれよあれよと、男爵家に連れてこられましたが、待遇は冷たいものでした

その時、ぽっかり空いた穴に何かが入って来た気がします、

そして、此処が前世でゲームした世界に類似していることに気が付きました。

精霊は孤児院に入る前に水以外の精霊を体の奥底に封印してましたが、その時そのことを忘れてしましました。

自分は水の精霊しか使えない、乙女―ゲームをクリアしなくては、と思い込んだのです。


ロゼッタ様は悪役令嬢、私をいじめるはず!王子を攻略!と思い込んでました

王子は素敵で、すぐ恋に落ちました、でもロゼッタ様は苛めてきません、そこで捏造をしたんです、

でも全てスル―されて、私は側室に、何か違う、補正しなくてはと思ってもどうにもなりませんでした。

身体に入っていた何かが急かすんです、どうにかしろと・・・、そのままあの大聖堂の光と闇の解放です。


そこで、私が封印していた精霊達も覚醒したんです、私の中に居たその何かが消し飛びました。

スクリーンに映るロゼッタ様につっこみを入れている自分に後で呆れました、私も戦いたいと思ったことに


ロゼッタ様はスプラッタ過ぎですね!もう少し綺麗に戦えるのに、それにヒーローポジションなのに、緑の戦闘服って・・・ふりふりリボンのミニスカートに決め台詞!あるべき!


「いや・・・そっちは目指してないんで・・・」

ロゼッタが拒否した


物語補正は幾つかありましたが、ロゼッタ様はことごとく廃除していきました

あの得体の知れない物は何だったんでしょう?ロゼッタ様を邪魔したい、そんな印象を受けました。


「”超級精霊と恋愛の女神は犬猿の仲”

誰も彼もくっつけてしまいたい精霊と、

駆け引きや泥沼を好む女神とは、

そりが合わないといわれてます」


「そんなのありましたよね・・・」

宰相が言って、皆がまさかという顔をした


「力も戻って来ましたし、冒険者になって世界を回ろうと思います」


「ジョアンナ様のレベルは冒険者レベルでH~Sの内Cくらいは余裕でありますので、問題は無いとは思いますが・・・」

そうとロゼッタが言った

「そうか、決意は固そうだ、分かった支度金を出して送り出そう」







(すんなり了承もらえてよかったわ~・・・

このまま翻訳漬けで人生終わるのまっぴらだわ!本当に力が戻ってよかった!8精霊使えるのって転生者特典よねやっぱ!

舞踏会楽しみ!・・・壁の花になるのは分っているけど、雰囲気よ楽しみたいのは、こんなきらびやかな世界最後だし!冒険者やって良い男捕まえるぞ!オー!)

不安も感じながら、未来に希望を持っているジョアンナだった









隣国の親善大使、歓迎舞踏会が開かれた


ジョアンナは側室となって2年で初めて第7側室妃として公式舞踏会に出ていた

ドレスも王室御用達の業者に、他の妃たちと被らないよう、恥をかかないよう、自分の意見は一切入れず、丸投げしてお願いしたので、馬鹿にされることなくそこに居た。


(すごい!皆綺麗~憧れの舞踏会!映画より、凄い)

眼を輝かせていた


「フェルザン公国、第二王子ルーナンと申します」

親善大使として来ていたのは大きな樹海をはさんで隣国のフェルザン公国だった


『側室に綺麗どころそろえやがって!良い身分だな!』

『王子、誰かに聞かれたら・・・身分は良いですから』

側近とひそひそと古代語で話すフェルザン公国、第二王子ルーナン

『解りはしないよこの国の教会の教本読んだか?でたらめだぞ、古代語読めないんだぜ』


皇太子妃は眉間に血管が浮いていた、

ジョアンナは、

(しゃべってる日本語この世界で始めて聞いた、くすっ、王子様らしからぬ口調ね~転生者ではなさそうだけど、しゃべれるんだ~)


ジョアンナとルーナンの目が合った

笑ったのが聞こえたのだ


ルーナンの目が大きく見開いた


舞踏会が始まった、側室妃たちは集まって会話を楽しんだり、ダンスに誘われて踊ったりしていたが

ジョンナは自分の予想通り壁の花、食事の置いてあるテーブルで少しつまみながらフロアの様子を見て楽しんでいた


「モニーターを通してみている、映画みたい」

頬を赤くしてうっとりとしていた、憧れの舞踏会、最後と思ったら涙が頬をつたった


『どうかしたか?気分でも悪いのか?』

『いえ、大丈夫です、皆んなの美しさにめまいがしただけなので』


はっとして横を見るとルーナン王子が居た


『古代語を語れるとは、何処の出身だ?側室の末席にいたよな』


「はい、側室妃のジョンナと申します、この国の生まれ育ちですわよ、それに古代語は皇太子妃も解るので、あまり下品な言い回しは止められた方がよろしいですよ」


そう言ってにこっと社交辞令の笑顔を向けた


ルーナン王子の心臓がはじけて、顔が赤くなるのが自分でも解った


「踊っていただけませんか?」


そう手を出す、断るわけにも行かないので、ジョアンナは王子の手を取った


会場は二人の踊りを眺めながら、ひそひそするもの、羨望のまなざしを送るものさまざまだったが

誰しも、美しい二人のダンスに見惚れたのは確かだった


「ずいぶんと目つきが優しく知的になられて、美しくなられたわね~」

第一側室妃のミレーヌが言った

「もう顔だけなどとと言えぬな、まだ20歳、美しい盛りじゃな」


なんか、皆の目がくすぐったくて、照れて赤くなったジョアンナだった

その様子を踊りながら、うっとりとしているルーナン王子に気がつかないジョアンナ

そして、欲望の眼差しに変わったルーナン王子


ぞくっと背筋に何かが走るのを感じて身震いしそうになっていたジョアンナだった


無事舞踏会も終わり夜もふけた迎賓館の一室


「側室妃のジョアンナが欲しい!」

「王子・・・また、突拍子も無いことを、側室妃ですよ無理です!」


バタンと護衛の騎士の一人が入ってきた

「そうでもないかもよ・・・・」

「ジョン!どういう意味だ?」

「もう2年も渡りが無い上に、唯一子供が出来なかった妃で、あまり公に出させてもらえなかったらしいぞ」

「あんなに可愛いのに」

「正妃と結婚するまでは、こまめに行ってたらしいが、結婚した途端正妃にめろめろで、渡りが側室妃には一切無くなったらしいぞ」


「それならば、話は出来るかもしれませんね」

側近が言うとそわそわしだす王子

「お前が、興味を持つ女が現れるとはな、全力で協力するぜ」

「ジョン騎士団副団長、従兄弟とはいえなれなれしすぎです」


王子たちがやっと寝た早朝、王宮の門のところに

王と王妃、皇太子と皇太子妃、宰相の5人が一人の庶民の着るドレスを着た可愛い女性を見送っていた


「あっ・・・王様までありがとうございます」

王まで来てくれてびっくりするジョアンナ

「そなたの翻訳のおかげで、助かった、辞書まで作ってくれてありがとう」

「いえ、そんな辞書と呼ぶにはおこがましいもので、申し訳ありません」


「何かあったら、頼ってくれ、ジョアンナ」

そう、愛しそうにしてくる皇太子

「ありがとうございます」

最後の微笑を返すジョアンナ


「まずはどちらへ?」

ロゼッタが聞くと

「ロウタンの町へ、母と過ごした町で、お世話になった人にも会いたいので」

「そう、気をつけてね、町に着くまでサーチに入れておいても良い?」

「ロゼッタ様、そんな滅相もありません」

「見守るだけ、着いたらはずすわ、何かあったら直ぐ助けに行けるように・・・ね?」

「うっ・・・ありがとうございます、お願いします」

本当は不安だったジョアンナ、

ロゼッタの加護があれば絶対に無事に町に着ける、そう確信できて安堵の涙が出てきた


何度も振り返りお辞儀をするジョアンナ

見えなくなるまで、見送っていた5人だった


「よろしかったのですか?国宝の杖を差し上げて」

宰相が言う

「あれは8精霊が居ないと使えないしな、きっとお守りになるだろう」

王はそう言って王宮に戻っていった

「大丈夫かな・・・使いこなしてよ~破壊はやめてね~あれがあれば加護なんていらないと思うけどね」

「ロゼッタはあれ、使えないの?」

「はー・・・・・8じゃないと駄目なんです・・・9じゃ駄目なんですぅ・・・」

ちょっと悔しそうなロゼッタ、その様子も可愛いと目を細める皇太子



日が昇りお昼過ぎ、謁見室に

フェルザン公国、第二王子ルーナンと側近、護衛が現れた


「視察は明日より施設を案内・・・」

「王様!」

「ど、どうかされたか?ルーナン王子」

ルーナン王子の気迫にびっくりする王

「皇太子の側室のジョアンナ様を我妻にいただきたい」

「「「「・・・・え?」」」」

突然の告白に、王と王妃は唖然として、お互いを見た





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