僕は君を好きになってもいいですか?

第1話~君との再開~

川のせせらぎと町のスピーカーから流れる朝のチャイムで目が覚めた。いつもと違う天井に違和感を覚えるも直ぐにそれは母親の実家であると思い出した。


 僕は小学校卒業と同時に母親と母親の実家にある田舎に引っ越してきた。理由は親の離婚だ。どっちが僕を引き取るかで何ヶ月も揉めて、仕舞いにはどちらかを選びなさいなんて言う始末。12年しか生きていない僕にとって重要な人生の分かれ道。最終的に裁判で母親が僕を引き取ることになった。


 母親の実家に来て驚いた事と言えば、何もないこと。上は山、下は川が流れるどこにでもある田舎の風景だ。ケーブルテレビでないとテレビも見られないというのもあり、テレビすら映らない。近くには雑貨屋、一週間遅れで入荷する本屋、小さな駄菓子屋に文房具店くらいしかない。本当に何もない町だった。


 「いつまで寝ているの?早く顔を洗っておりてらっしゃい!」母親が大きな声で僕を促した。


 朝食を終える頃には母親は仕事に行く準備をしていた。僕は食事を終えると靴を履いて川に散歩に出掛けた。何もない町でも小川のせせらぎに目を閉じて身を委ねていると、どうでもいい風景や日常が少しはマシになる感じがしていた。


 しばらくすると、誰かがこちらに向かって歩いてくる足音が聞こえた。


 そっと目を開けると僕と同い年かそれより少し年上の女の子が僕を見ていた。


 「豊くん…?」 僕は思わず声を出して驚いた。 「だ、誰?」僕は恐る恐る聞く。

 「え?やっぱり私のこと覚えてない?」女の子はキョトンとした後すぐに笑顔に微笑み直して「私だよ!奈緒子!」と明るく言った。


 奈緒子…。あぁ、そういえば昔、お盆の時期に遊びに来た時に一緒に遊んでいた女の子のことを思い出した。「あの時の女の子か!」僕は一気に親近感を覚えて笑顔になった。


 しかし彼女は自分の事を直ぐに思い出せなかった僕に対して少し不満そうだった。頬を膨らませて膨れっ面になっている。


 「ごめん、ごめん。」と言いながら僕は起き上がった。


 「えっと、こっちに遊びに来たの?」奈緒子は不思議そうに僕に聞く。

 「いや、親の都合でこっちに引っ越してきたんだ…。」奈緒子は急にまた笑顔になり「えぇ?じゃあ同じ学校じゃない!」とはしゃぎ出した.。


 僕は驚いた「奈緒子って今年から中学生なの?」奈緒子も少し驚いた顔で「えぇ!?名前だけならまだしも年まで思い出してないなんて最低!」また怒り出す。昔も喜怒哀楽が激しく表情がコロコロと変わる女の子だった。


 「それで、豊は中学の制服とか注文したの?」急に奈緒子がお姉さん振って僕に聞く。


「制服!!」母さんに何度も制服の注文を行くように催促されていたことを思い出した。「う、うそ?まだなの…?」菜穂子は驚いたというか呆気に取られた顔で僕を見ていた。

そして直ぐに「今日だったらまだ間に合うかもしれないから早く行くよ!」と言い僕の手を引っ張り走り出した。これが僕と奈緒子の再会だった。

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