別れと桜と思い出と
カゲトモ
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細い枝にぷっくりと膨らんだ桜の蕾が、陽の光を浴びて今か今かと咲くのを待っているように見えた。この桜が咲くのはきっともうすぐなのだろう。
入学式まで持ってくれるといいのに、なんて。別にそんな歳の子供が居る訳でもないのにふと思う。桜はパッと咲いて、サッと散ってしまうから。そんな刹那的な美しさが、桜の魅力を高めているのだろうけれど。入学式の看板と一緒に、桜と真新しい制服を一緒に撮りたいだろうに。
あと二週間くらい頑張ってくれ。なんて、無責任に桜に願う。桜だってきっとそうしてやりたいに決まっているだろうに。
「あれ?」
アーケードを抜けて公園に差し掛かると、その光景にデジャブ。ダウンのベストを着た小さな男の子がうずくまっていたから。
もしかして、とあの可愛らしい男の子の顔がふと頭を過ぎる。もしかしてコタロウ?
進行方向を正面から斜め左に変えて、公園へ足を踏み入れる。黄土色の砂が敷かれた公園は、滑り台とブランコしかない小さなものだ。
「・・・すんっ」
丸まっている青い背中から鼻を啜る声が聞こえる。いくら花粉が飛び交っているからと言っても花粉症ではないだろう。
首を伸ばして両膝にくっ付けた顔を覗いてみる。やっぱりそれは知っている少年だった。
「コタロウ、どうしたんだ?」
誰も居ない公園で、一人ポツンとうずくまっている小さな友達に、同じようにしゃがみ込んで声を掛けた。コタロウはビクン、と一度肩を震わせると、ゆっくりと涙に濡れた顔を上げた。
「・・・おにいちゃん」
「大丈夫か?」
サラサラな髪が左右に揺れる。
「どうして泣いているんだ」
こんな時間にこんな所でたった一人で。
コタロウは少しの間黙っていると、涙を堪えるようにしてぎゅっと眉頭を寄せた。
「りょーたくんが」
「ん? リョータ君がどうした?」
あの、雪の日に雪ウサギを作っていた、コタロウの友達。それがどうしたって言うんだ。
「りょーたくんが・・・ひっこしちゃうの」
コタロウはギュッと寄せていた眉を一気に下げてポロポロと涙を零し出した。
「そっか、リョータ君、引っ越ししちゃうのか」
「うっ、うんっ、あした、あしたっひっこし、ひっこししちゃうの」
「うんうん」
揺れる小さな背中を、宥めるようにして撫でた。小さな背中は手のひら二つ分くらいしかない。
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