プロローグ
入学式は無事、滞りなく終わった。
僕――
進学先は私立
周りには僕みたいに体を縮こませながら新しい環境に不安を抱く人、はたまた早くも談笑するコミュニケーション能力の高い人など、色とりどりの生徒たちが集まっていた。
初めて着るブレザーに少々の違和感を覚えながら、僕たち新入生は体育館を後にする。渡り廊下にはぽつぽつと桜の花びらが見られ、ああ、四月なのだなということを改めて感じる。穏やかな陽気は僕の思考を緩やかに低下させ、自分は本当に今日から高校生になるのだろうか、と夢でも見ているかのような錯覚にさえ陥ってしまう。
入学式ということもあり、僕たちは教室に戻ると短いホームルームの後、担任に半日での帰宅を命じられた。明日から本格的な高校生活がスタートするというわけだ。
これから三年間、僕はこの学び舎で勉学に励み、学友たちと苦楽を共にして青春というものを謳歌するのだろう。
そうして校門から校舎を仰ぎ、微かな希望に思いを馳せているところだった。
――突然、視界が暗転した。ああ……やっぱりこれは夢だったのだろうか。
いや、違う。布だ。僕は今、何か布のようなものを頭から被せられて視界を塞がれてしまっている。そしてなんだか、ついこの間まで嗅いでいたような、妙に懐かしい香りがするのはなぜだろう。
なぜこのようなことが? 僕はこの状況が理解できずにパニックに陥った。すると次は体が宙に浮いた。どうやら何者かに担がれているらしい。
布のようなものを顔に被せられ、されるがままに運ばれる状況はまさに――。
つまり僕はこの日、白昼の校門前で、堂々と拉致されてしまったのだ。そしてこれは、僕の希望に満ちた高校生活が、無残に霧散するすべての始まりでもあった。
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