小さく儚い命

天童 京

三月二十四日

 愛犬の『そら』がリンパ球性白血病であることが判明した。

 余命は2か月。治療が成功したとしても2年生きるかどうか。

 彼は生まれて九年と七か月。

 もう年だが、やはり少しでも長く傍に居てほしいと思ってしまう。


 そらに初めて会ったのはショッピングモールのペットショップだった。

 今思うと、それは恋に似ていた。

 片手に収まってしまうほど小さなミニチュアダックスが、ガラス越しに愛らしい瞳でこちらを見ていた。

 その姿を見た途端家族の意見が一致して、彼を飼うことが決まった。正に衝動買いだ。

 元々別のミニチュアダックスがもう一匹居たため、用意をすることは無かった。

 まだ目が開いたばかりで子犬だった彼は、転びそうに歩きながら父に近づき一生懸命に父の肩まで登っていきた。

 今では膝の上に乗るのが精一杯で、座椅子を占領するくらい大きく成長している。

 そして、彼には最後が段々と近づいてきている。


 今日の夕食。

 胃のリンパ球が腫れていて食が進まないので、嘔吐しようにも胃酸と犬用のクッキーしか出てきていない。

 ドックフードも缶詰も食べなくなったそらに、キャベツを一口サイズに千切って手で口元に持っていくとゆっくりと食べてくれた。

 更にキャベツに小さく切ったささみを巻いて渡すと食べてくれた。

 私は嬉しくなってしまい、母に満面の笑みでそのことを伝えた。

 しかし、四つ目の切れたささみを口にすると床に出してしまった。

 私は彼の頭を撫でてやり「食べられたね」と声を掛けたが、内心もっと食べて欲しい思いで一杯だった。

 キッチンに立つと寄ってきて足元で野菜を待つ厚かましい彼でいて欲しかった。


 寝ている姿を見ると、もしかしたらこのまま目覚めないんじゃないかと不安になる。

 朝に目が覚めたら、彼が動かなくなってるんじゃないかって怖くて仕方が無い。


 元気になってねそら。

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