第1章 絶対守護絶体絶命 3

 僕は、革命に成功した後のクロー君の選択を一応聞いているけど、再度の確認をする必要があるだろうね。人生を左右する重要な岐路となるし、その状況になってみないと判断できないこともある。

 さてと・・・そろそろ僕はアゲハとの精神感応共有レベルをあげるとしようかな。

「お父さま。艦隊の現状確認に後2時間ほどかかる予定だそうです。棚橋少将が状況説明と作戦の最終確認会議をしたいので、3時間後に旗艦に出向いてい欲しいとの連絡がありました」

「棚橋少将なら分かってくれてるはずだよね」

 溜息を吐き、恵梨佳の透明感のある声が、諦観を含めて琢磨に伝える。

「アゲハのコントロールルームからなら構わないと・・・ただし、必ず出席して欲しいとのことです」

「まあ仕方ないね。それより、どうして恵梨佳に連絡するんだろうね。僕に直接連絡すればいいのに・・・」

 実の父親を一睨みしてから答える。

「それも答えましょうか?」

「ああ、なんとなく想像がついたから必要はないね」

 計画通りに作戦が進捗しているなら、任せっきりにしたいのが琢磨の本音である。報連相の重要性は重々承知の上で、琢磨はサボろうとしていたのだ。

 問題が発生すればアゲハのCAI+Uこと”中の人”が報告してくる。なにせ、この宇宙船のセントラルシステムのCAI+Uは、就航してからの1年半の間、琢磨の判断基準を学習していたのだ。

 CAI+Uはクリエイティブ アーティフィシャル インテリジェンス プラス ユニークの略であえい、”独自発想人工知能”といわれる。

 つまり何か不測の事態が発生すれば、中の人が琢磨に報告するし、予測の範囲であれば対処もしてくれるのだ。


 アゲハのコントロールルームから、わざわざ全拡張して琢磨は幕僚会議に出席していた。

 ジヨウ達もアゲハのコントロールルームにいる。しかし、幕僚会議に参加できないのは当然のこととして、恵梨佳以外はオブザーバー出席も禁止されている。ジヨウは全力で単位取得に励み、遥菜とレイファは真剣に単位を取得しようとし、ソウヤとクローは億劫そうに単位取得の作業をこなしている。

 琢磨は真剣。それでいて話半分であった。

 オセロット王家の直轄の特務艦隊の中で、パウエル中将率いる特務第3艦隊を中心に5個艦隊約500隻の遠征である。琢磨の双肩には将兵の命運がのしかかっているのだから真剣にならざるを得ない。

 しかし、報告内容は予測範囲内であった。

 老齢入り、体重の増加と反比例して髪の量も減らしたと噂されているパウエル提督と、楓艦隊副指令官”フランソワ・アングレール”少将のいる。そしてパウエル提督と同年齢なのに毛髪が豊富で、この遠征で琢磨の考えに対する理解を深めた楓艦隊参謀長”ギンツブルク”少将もいるのだ。

 話半分で聞いていても、作戦に支障はないだろう。

 しかも今回の遠征には1500メートル級の大型宇宙輸送艦”カナガワ”に乗艦している研究開発本部所属の伊吹大佐が同行している。

 琢磨は伊吹大佐の開発能力を高く評価しているし、技術的手腕を信用している。その伊吹大佐が、琢磨の作戦を現場で技術支援をするため、宇宙戦艦に匹敵する巨大な新兵器100機を随伴してきたのだ。新兵器100機を絶対守護のオペレーターが補給物資と推測したのだ。

 琢磨と恵梨佳と遥菜は、今回の遠征での最重要人物である。安全を確保するため2個艦隊が、琢磨たちに先行してシラン本星と恒星シランの間にワープアウトしていた。3時間後に琢磨率いる1個艦隊と伊吹の開発した新兵器がワープアウトしてきたのだ。

 因みに伊吹大佐は、5年前に勃発した暗黒種族との戦争、その最初の本格的戦闘に巻き込まれ、武勲を立てた士官である。

 つまり琢磨の軍事分野での出番は、今回の遠征の戦略と作戦を計画した時点でないも同然。それなのに幕僚会議の終了時、楓艦隊司令官のパウエル提督は琢磨に全艦隊への開戦宣言を促す。

『幾つかの変更対応はありましたが、概ね予定どおりですな。それでは早乙女閣下、本遠征の意義と作戦開始の宣言を』

 大シラン帝国に対する降伏勧告は予め録画してあり、自分の役割は終了と考えていたため、完全に不意を突かれた。

「それは、やはりパウエル提督が相応しいですよね。将兵の士気にも関わりますので・・・」

『総司令官たる早乙女元帥の役割ですな』

 パウエル提督は冷たく言い切った。

 幕僚会議の場へと足を運ばなかった琢磨への意趣返し・・・ではなく、パウエル提督は実直なだけであろう。

 仕方なく琢磨は起立し、服装の乱れがないか確認してから全艦隊へ向け演説する。

「CAIコール、全艦に通達! これからオープンチャネル等々で大シラン帝国に降伏勧告をする。こちらの提示した条件で降伏するはずはないので、24時間後に戦端が開かれるだろう。この遠征の軍事的勝利により、大シラン帝国はオセロット王国への如何なる抵抗も完全無力化するという外交的勝利をも得る。後顧の憂いを断ち切り、暗黒種族との戦争に勝利するためでもある。大シラン帝国に外交的勝利を得た後、暗黒種族との戦争に相応の負担をしてもらう。大シラン帝国に最前線で矢面に立ってもらうのは最低限だね」

 つい本音を漏らしてしまったので、咳で誤魔化してから琢磨は言葉を継ぐ。

「作戦はほぼ予定どおり進捗しているので、オセロット王国は本遠征で大シラン帝国に軍事的勝利を手にする。将兵諸君は万全を期して作戦を実行してほしい。なお、大シラン帝国の現政府を打倒するためのシナリオは用意してある。本作戦による軍事的勝利が大シラン帝国滅亡の始まりであり、新生シラン国誕生の前夜となる。将兵諸君の奮戦を期待する。以上だ」

 全艦に通達したので、当然アゲハ内のコントロールルームにも演説が流れていた。

「何回かみたけど、琢磨さんの扇動はえげつないぜ」

「全くだ。普段とは別人だぞ」

「王族スキルって凄いよね~」

「まてまてお前ら、あまりにも失礼すぎるだろ。せめて人心掌握ぐらいに・・・」

 ジヨウ君の発言も全くフォローになっていので、琢磨は一言、皆に聞こえるように呟く。

「今日の僕のトレーニングは、ここの全員で立体格闘戦技かな。特にソウヤ君、クロー君、ジヨウ君とは全力で愉しみたいね」

「俺も?」

 驚いた声をだしたジヨウに、琢磨はとても良い笑顔で答える。

「当然だね」

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