フィクション警察のノンフィクション

ちびまるフォイ

フィクションを話すか、ノンフィクションを話すか

早朝、フィクション警察がトイレの戸をたたいた。


「フィクション警察だ!! ここを開けろ!!」


「な、なんですか!? 何か悪い事でも!?」


「腹が今にも割れそうなんだ!!」


扉をぶち破ったフィクション警察は警察手帳を見せた。


「逮捕令状はいましがたお尻をふいてしまったが、

 貴様にフィクションの疑いがある!」


「そ、そんなめっそうもない!」


「パソコン、改めさせてもらうぞ」


フィクション警察がパソコンを押収すると、

そこには大量のフィクション小説のデータが溢れていた。


「嘘をついていたな! やはりフィクション創作家は嘘つきだ!!

 さてはホモだな!!」


「すみません! 自分の創作意欲を抑えられなくて……」


「言い訳をするな! 初犯だから罰金で済ましてやるが、

 フィクションのような現実から離れた絵空事を書いて、

 現実逃避させるような創作物を作ることはフィクション警察が許さん!」


「あうぅ……反省します。これからはノンフィクションだけを作ります」


「その心意気だ。脚色も許さんぞ。ウソも許さん。

 事実を事実として書くことこそ、現実に求められるギルティ!」


今回もフィクション警察の働きによって、フィクションがまた1つ未然に防がれた。



『特殊創作物禁止法(通称:ノンフィクション法)』



フィクションという建前で現実を批判したり、

現実の人物を殺したりと非社会的な内容が問題となり実施された法案。

すべての創作物から報道まで一切のフィクションを禁止した。


「しかし、当時はいろいろあったよなぁ」

「ああ、今でも当時を描いた小説あるものな」


フィクション警察署内では昔を思い出して同僚とコーヒーをすする。


「創作の弾圧だ、とか反対されてたな」


「思えば、あの時期が一番逮捕しまくって忙しかったな。

 でも、ノンフィクションでも視点や書筋や考察を変えれば

 同じ題材でも別作品になれると知ったらおとなしくなったよな」


「ホント、クリエーターってのは手のひら返しが上手い」

「ははは」


「クリエーターで思い出したけど、お前が今朝に検挙した小説家は?」


「ああ、そうだった。様子を見に行かなくちゃな。

 まったく面倒くさいよ」


フィクションには中毒性があり、一度禁止してもまた作り始める傾向がある。

フィクション警察では一度謙虚してから一定時間たつと様子を見る規定になっていた。


席を立ったそのとき。



ジリリリ!!



「もしもし? なに!? ついにあのフィクションの尻尾をつかんだ!?」


フィクション警察署内に電話がかかってきた。


「何があったんだ?」


「あの違法フィクション大作『ポリー・アッターと秘密の賢者』の

 有力な手がかりをつかんだらしい! いくぞ!!」


フィクション警察とその相棒は通報のあった場所に急いだ。

少しでも遅れればほかの管轄に手柄を横取りされる危険もある。


現場に到着すると、警察手帳を印籠のように見せつけた。


「フィクション警察だ! 全員動くな!!」


家にいた全員を一度外へ追い出してガサ入れが始まった。

壁紙をひっぺがし、パソコンを調べ、ちょっとゲームをプレイし、床をはがした。


「くそ!! どうなってる! 何も見つからないぞ!」


いくら探しても出てこない。

フィクション警察のお尻に焦りの汗がにじみ始めた。


「おい、本格的になさそうだぞ……」

「どうしよう……」


完全にクロのつもりで探していたため、家は空き巣に入られた以上に廃墟同然となっていた。

しかし、このまま「なんの成果も得られませんでした」と手ぶらで戻れば

フィクション警察の評価は失墜してしまう。それだけは避けなければ。


「おい!! これはなんだ!!」


フィクション警察は今朝に検挙した作家の作品を掲げた。


「ベッドの裏にこんなものがあったぞ!!」


「そんな! ベッドの下には熟女100選の雑誌しかありません!

 そのような創作意欲の塊のようなもの、ありえません!」


「しかし事実としてここにあったんだ。

 それともフィクション警察に嘘をつくつもりかね?」


「め、めっそうもございません……」


男をフィクション創作として罰金を支払わせ、

フィクション警察はさっそうと夕日を背に戻っていった。


パトカーに乗ると、やっと息を吐けたような気がした。


「いやぁ、危なかったぁ。一時はどうなることかと思った」


「本元を逮捕できなくても、手ぶらじゃなければ次はある。

 俺らフィクション警察の評価も落ちなくてすむな」


警察署に戻ると、今朝の作家が署内にいた。


「お前、ここで何をしている? もう罰金は払っただろ」


「ええ、もちろんです。

 私は今回のことで心を入れ替えて

 ノンフィクション作家として頑張ろうかと思いました」


「それはいいことだ。

 ノンフィクションこそ、本当の創作力が問われる作品だからな」


「はい、私もそう思います」


「嘘も脚色も語弊もなにもかもナシだ。

 本当のノンフィクションのみで勝負するのが大事なんだ。

 そこはキチンと守るように。じゃなきゃ逮捕だ」


「はい、もちろんです」


作家は嬉しそうにペンを走らせた。

フィクション警察も罪人を改心させられて鼻が高かった。


「それで、今はどんなノンフィクション作品を書いているんだ?」





「実は、フィクション警察の1日をノンフィクションで書いておりまして。

 あなたの今日の働きを教えてもらおうとここまで来たんです。

 もちろん、ウソも脚色もナシの皆さんに知ってもらう

 完璧なノンフィクション作品に仕上げますよ!」



作家に嘘の報告をした警察は一斉逮捕となった。

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