緋色 赤菜②

僕達はベンチに座る。


緋色さんは、少し離れてカバンの上に携帯端末を置き、小型のスピーカーを着け、入っている曲を流す。


アップテンポな音楽に英語の歌詞。


緋色さんのダンスが始まる。


ステップ・ターン・腕の振り…どれも一体感があるようで“音”によって実は動かし方が違う。


ドラム・ベース・ギター・キーボード・ヴォーカルの声…それぞれに合わせて振り付けを組み合わせている。


ワン・ツー・スリー・フォーと左右に動くだけではダサい。そこに違うリズムの腕の振りや違うステップを組み合わせる。


振り付けというのはとても奥が深い。…とテレビで言っていた。


曲が終わると同時に決めポーズを決める緋色さん。


薄く焼けた肌に汗が伝う。


パチパチと僕達は拍手喝采!


「赤菜ちゃん凄い! カッコイイ!!」


「素人目だけど、凄いよ緋色さん! 体が勝手に動いちゃいそうだ!」


ダンスの途中何度もリズムに乗って少しだが体が動いてしまっていた。


「ヘヘッ! て、照れるぜ! あ、そうだ…はいコレ! 今度イベントに出るんだけどさ、もし良かったら来てくれよ!」


緋色さんがカバンから紙のようなものを取り出し僕と音羽にくれる。これはチケットだ。それも一ヶ月後に屋外会場で行われるダンスイベントのチケット。これがあればタダらしい。


「ありがとう! 絶対行くね!」


「僕も絶対行くよ。緋色さんのダンス、楽しみだ」


「あ、赤菜でいいよ……ワタシも祐って、よ、呼ぶから……」


どんどん小声になり、顔を赤くして恥ずかしそうに上目遣いで言う。意外と照れ屋さんなのか。


「分かったよ、赤菜のダンス楽しみにしてる!」


「お、おう! 祐も音羽も絶対来てくれよな! 熱いダンス見せてやるぜ!」


赤菜はもう少しダンスの練習をしてから帰るようだ。


「頑張ってね」と一言、声を掛けてから僕達は帰った。




音羽の住むアパートにやってきた。一応ちゃんと送ろうと思い部屋の前までやってきた。


「じゃあ、また明日」


そう言って帰ろうとしたのだが、服の腕の裾を掴まれた。


「晩御飯食べていって、今日のお礼」


「そんな別に大したことじゃ―――」


そこまで言ってようやく気が付いた。一度来たことのある音羽の部屋。以前はお兄さんである慎也さんと一緒に住んでいたが、今は一人だ。


音羽は「一人で住むには少し広すぎる」と言っていたし、きっとまだ寂しいのだ。


とはいえ、僕は男なのだし女の子の部屋に二人きりなんて……いやいや、やましいことは何一つ無い! 断じて無い!


「でも、いいの? 僕男だよ?」


一応確認。


「え? 何が? さ、上がって上がって」


男として認識されてませんでしたー。


チーンという効果音と共に心の中に雪が吹雪く。


「お、おじゃまします……」


僕は、男としての何かを失った……気がする。

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