超能力者の落ちこぼれ

あかさ京都

第1章 ―はじまりについて―

僕の知らないところで、僕の物語は始まっていた……。


僕が世界を呪ったから、世界は僕を呪った。


世界が彼女を呪ったから、彼女は世界を呪った。


だからこれは、呪いの話。


初めから始まっていた話。


僕も知らない場所で……時間で……もう既に……。


始まっていた話。






















透明人間がいる。手を触れずに物を浮かせたり、動かせる人がいる。瞬間移動が出来る人がいる。動物と会話出来る人がいる。一昔前までは、それだけで驚き、感動し、本物か偽者かでネットで論争が勃発し、超能力とは、やはり都市伝説の域を出なかったらしい。


今では……特にここ、首都東京能力学区の5つの区では、そんなものは珍しくも何ともない。


人は科学と共に進化し、生まれながらに持った通常なら覚醒することのない才能を能力として昇華させ発現させることに成功した。


進化する人、科学、文化……しかし、全く変わらないモノもある。


「そう、3本追加で買ぃ…たい」


汚れた廃ビルの中、昼間でも真っ暗な部屋には携帯端末の薄い光。冷たいコンクリートに座り込んでいる一人の男が、端末に向かって誰かと会話をしている。


「金の用意は出来てる。……ぁぁ、そぅだ。それ無しじゃぁ、生きられない」





明日からゴールデンウィーク、学校は5連休で街は浮き足立っている。人口の割合に学生が多いから余計にそう感じるのだろう。能力者の90%がここ、能力学区にある学校に通っているから、能力が発現していない学生も合わせ、学生の人口は割合として多い。故に連休は街全体が浮き足立つ。


僕の住む東能力学区だけではない。5つの能力学区全てがそうなのだ。


「五連休かぁ~、何しよっかな~」


学校の帰り道、普段なら滅多にしないであろうスキップを鼻歌を歌いながらやっちゃっている。そんな僕を戒めるかのように、ふと、掲示板に貼られた広告が目に入る。


“能力犯罪取締り強化月間!!”“能力で 罪を犯すは 無能力”


という文字の下で、マスコットキャラクターのイラストが笑顔でこちらを睨んでいる。笑顔なんだけど、顔が笑ってないように感じるのはなぜだろう?


「何もしないさ、そんなに睨むなよ。悪かったってば」


イラストに話しかけてる。やっぱり浮かれてるな。


「クス、三好君ってイラストとお話するんだね。クスクス」


気付いた時には遅かった。彼女とは同じクラスで名前は千年音羽ちとせ おとは。正直あまり話したことは無かったんだけれども、よりによってこんな恥ずかしい所を見られてしまった!


「なかったことにして!お願い!忘れてーー!」


必死で訴えた。これでもかというくらい。


「んー、クレープ1つで忘れましょう」


「わかった、取引に応じよう」


浮き足を見事に掬われた。なんだか幸先が悪いぞ、ゴールデンウィーク……。


千年さんのリクエストで公園に行くとワゴン車を改造したクレープ屋があった。可愛い系の装飾がしてあるワゴンからは、甘い香りと生地が焼ける香ばしい香りがした。千年さんに「よく知ってるね」と言うと「他にも、パフェがおいしいお店とか、シュークリームがおいしいお店とか知ってるよ。今度一緒に行く?」と言われ、これ以上奢らされるのはマズイと思い遠慮した。


公園のベンチに二人で座る。千年さんはおいしそうにクレープを頬張っている。隣で缶コーヒーを飲んでいる僕に、「一口どうぞ」と食べかけのクレープを差し出してきた。


盛大にむせて咳き込む僕に「だだだ大丈夫!?」とパニック状態の千年さん。


この子、素なのか……恐るべし!


「大丈夫?どうしたの?急に」


「いや、ごめん。大丈夫、なんでもない……そういえばさ、浮かれちゃってる所見られちゃったけど、帰る方向同じなんだね。今まで気付かなかったよ」


「あ~、え~……っと、それは……その……」


おや?明らかに様子が変だぞ?


「ちょっとお話があったの、そしたら……ぷっ…おもしろいとこ見ちゃって……ぷっクスクス」


「クレープ食べたでしょ、契約違反です」


「ごめんごめん、忘れた。もう忘れたから」


まだ半笑いだけど、まぁいいか、しかし今日まで特に接点の無かった千年さんが僕に話って一体何だろう?同じクラスってだけで、あまり喋ったことも無かったし、なんだか見えてこない。訊ねるのが早いか。


「で、話って?」


すぐには答えなかった。少し迷ったり、踏ん切りがつかないといった表情を浮かべ、何かを言いたそうに少しだけ唇が動いた。


そして、今思えばこれが、この言葉が、質問が、忘れられないゴールデンウィークが始まる合図だったのだと思える。彼女は言った。真っ直ぐに、僕の目を見て……。


「三好君って、超能力者だよね?」

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