第6話 歴史
これまでこの世界で絶対に揺るがない公理を4つ紹介した。公理は他にもあるが正直先に述べた公理1、2、3がこの世のほぼ全てを語っている。
「なあ皆、単刀直入に聞きたいんじゃがな、この世界で勉学の出来ん奴は肉体労働させられたり、戦線に送られるっちゅうのは本当か?わしゃ戦争経験者として断固として戦争には反対の立場なんじゃ。ましてやこんな訳分からん世界に連れてこられて戦争なんてありえん、って思っとるんじゃが、どうかの?」
”戦争に反対”という言葉が発せられたその刹那、場の空気は緊張した。
「多分その可能性もあるでしょうね。ましてやここにいるほとんどの人がその対象になることも考えられるでしょう。勉強できないんだから。」
「なんであんたはそんなこと知ってんのよ!あいつらの仲間?あんた?それに私は戦争なんて行かないからね!」
「・・・別にネットで少し調べただけですよ。そんなのネット見てなくても歴史の教科書見れば大体分かりますけど。」
この世界の歴史は転生者が多く占める人口構成のため前世とは比べ物にならないほど別の歴史へと変貌していた。全て説明するのは長すぎるから直近だけ説明しよう
〜大まかな歴史〜
少し前の時代、現世では第一次&第二次世界大戦が終わり始めた頃、その莫大な戦死者が全て異世界へと急激に転生した。いわゆる過多出産時代の始まりだ。1人の母親が平均で15人といった大量の子供を産むようになり、母親は出産に耐えかね子を育てるまで行かずに死亡するケースが増加、その子供は多くが世界に孤児として溢れ出し始めた。その結果それまで比較的平和であった各国は国の掲げる法律に基づき、子供達の支援に多額の金を投じる必要に迫られる。しかし戦争による転生者の増加の勢いは止まらず、世界各国の財政は圧迫された。さらに治安の悪化や政治への不信から世界各地で前世のナショナリズムを取り戻すべきだと主張するネオナショナリズムが流行。前世の母国をもとにつながった世界各地の人々は現世の様々な国の内部で紛争を巻き起こした。そうして、いよいよ国境・前世と現世を超えた様々な立場、主義主張の人々が世界中で争い始めた。あらゆる国家という国家が滅び始め世界全体が無法地帯と化していった。人類滅亡に史上最も近づいた時代通称”ワーストウォー”である。
そんな中である一つの小国は国民を選択的に排除し、科学技術の発展を促すことで強大な兵器を開発し、戦うことで急速に勢力を拡大していった。それこそが今私たちの住んでいる国”人類連合共和国”である。
国家の理念に反するものこそ排除するものの共和国が勢力を拡大するにつれ、世界の紛争は減少し治安も安定化していった。ワーストウォーの体験者に言わせれば「引き替えに平和が来るならそれでいい」のだそうだ。
〜終わり〜
そう、そんな歴史をもつ人類連合共和国に俺や周りの元じいさんばあさんは生まれた。だから「戦争はだめ、絶対」なんていったところでこの国の多くの人には受け入れられない、というよりむしろ排除すべき対象として認識されるのがオチということだ。
だから俺も戦争にはこの世界で反対しない。というよりできないのだ。
さらに俺は戦争に参加させられて死ぬ訳にはいかない。俺はまだ、前世で失敗した人生の分を異世界転生後の世界で取り返すだけ成功する、という目標を捨てた訳じゃないからだ。何としてでもこの世界でこそ成功し、ハーレム・資産・名声etcを築き上げねばならんのだ。
そして戦争に参加しないためには勉強をする必要があった。それは戦争に参加しないための唯一の方法であったからだ。
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