日常

「ガラガラ、おっはよー!!」


いつものように雨音がベランダの窓から入ってきた。


「おはよ。それよりそろそろい玄関から入ってきてくれない?」


「細かいことは置いといて。ご飯は?」


僕が小さなテーブルの上にある皿を指差す仕草を見せたら、もう彼女は「いただきます」と言い、目玉焼きにかぶりついていた。


「なんて下品な…」


「冷めたら美味しさ半減!ごちそうさま!」


「相変わらず早いな」


1分ほどで食べ終わった。そんな早く食べて味わえるのかよ、それこそ美味しさ半減だ…

そう思い彼女の方を見ると消えていた。


「シャカシャカシャカ ガラガラガラガラ…

ブゥェェェェエエッ!」


「いや、歯は自分の部屋で磨けよ。そして下品だよその吐き出し方」


「君は何もわかってないね。吐き出す時が歯磨きで1番の快感でしょ?」


「はあ…」


ため息をつく僕を見た彼女はいつもように笑っていた。


「ほら早く遅刻するよ」


「まってトーストが!」


「お前は少女漫画のヒロインか!?」


「できた。いこ」


「無視かよ…」


そのまま階段を降りて駐輪場にある自転車にまたがり、高校を目指す。

雨音は後ろに乗って上機嫌だ。

少女漫画か!自分に突っ込む。


もちろんこのまま高校に行くのはまずい。

人気の増えるあの橋からは自転車を押して

歩いて行く。

学校に着くと、2人で教室に向かい、それぞれの席に座る。

と言っても隣だが。

廊下を2人で歩いているといつも周りからは不快な言葉が飛び交う。

『あんな奴でも彼女できるんだな』

『彼女かわいそう』

『あんな彼氏だけは嫌だわ』

それらの言葉が飛び交う中、雨音のマシンガントーク、マシンガン独り言だけは、僕の心を暖かい色に染めていた。そして僕らは付き合っていない。


そして授業中は眠った。教師たちに最初は起こされ、罵詈雑言を浴びせられた。

心の声で。

それでも無視して顔を伏せると彼らは何も言わなくなった。

昼になると教室を出て、誰もいない屋上で弁当を食べた。

もちろん鍵はかかっている。

だが、僕の実験のおかげで遊んで暮らせるほどの莫大なお金が流れ込んだ親の権限で、鍵を持っていたのだ。

そしていつも雨音はついてきた。



学校が終わると、橋まで歩いて帰る。

食材が切れた日は、橋から数分で着くスーパーで2人分の材料を買い、カゴに入れて、自転車を押して帰る。この状況で2人乗りをしたことがあった。

見事に土手を転がり落ちた。


家に着くとそれぞれの部屋に帰る。

僕は風呂を済ませた後、夕飯作りに取り掛かる。

いつも出来上がったタイミングで匂いを嗅ぎつけた雨音がベランダから不法侵入してくる。


そしてたわいもない話をした後、

雨音は玄関から出て家に帰る。たまに鍵を忘れてベランダから帰ることもあった。

部屋を片付け、電気を消し、ベットに入るといつもすぐに寝付ける。雨音といると疲れる。

だけど彼女がいないと僕はもっと疲れると思った。

いつしか彼女と過ごす日々が

僕の日常となっていった。


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