被験体1番


「音無くん!起きて!音無くん!!」


目覚めると夕日の照りつけるオレンジ色の教室にいた。

教室にいた生徒は誰もいなくなり、静かな教室に僕と雨音2人だけだった。


「ごめん、おはよう」


「ん。おはよう。じゃなくて!大丈夫?うなされてたけど」


僕はまたあの夢を見ていた。

施設の夢を。




「これから被験体1番の実験を始めます」


彼らは僕の頭に機会をかぶせ、何時間にも及び質問をしてきた。

そして最後に疲れはてた僕に会わせたのは

両親だった。


「『金をもたらしてくれる』あなたを

愛してるわ」




「大丈夫?顔色悪いよ。保健室行く?」


雨音が僕の顔を覗き込んでいた。


「顔赤くなってきてる、熱あるよ絶対!」


僕の顔の赤さは熱のせいではなく彼女のせいだった。感じたことのない心地いい暖かさが心の中に充満していた。


「大丈夫。きっと夕日のせいだよ」


彼女はまだ心配そうな顔をしていた。


「じゃあ、僕は帰るよ。また明日」


そう告げて、僕が教室の扉に向かって歩いて行くと、慌てて机の上の荷物をバタバタとカバンに詰め込みながら彼女は言った。


「ま、待って!!私も帰る!」


僕は何か恥ずかしくなり、足早に玄関に向かって歩いて行くと後ろから叫び声が聞こえた。


「待てコラァァァァァア!!」


僕は恐ろしくなり、人生で一番早く靴を履き、全力疾走で家に向かって走った。

途中で疲れ切った僕は、橋の下で息を整えていた。

流石にここまでは来ないだろうと思っていた刹那。

橋の横に沿って続いている土手を、見たこともない速度で転がり落ちる彼女がいた。


「むあっ!ありゃ!ひっ!キャァァア!」


そのまま土手下の砂利にヘッドスライディング。

「うわぁ…。痛そう」


「痛そう…じゃなくて助けてよ!」


「てゆうか、何で追ってくるんだよ!」


「そんなの一緒に帰りたかった…からじゃなくて!私も家こっち側だから!」


僕のマンションは施設が借りてくれた街のはずれにポツンとあるお世辞にも綺麗とはいえないマンションだった。

とりあえず、ヘッドスライディングの傷だけでも手当てしてあげようと、近くのコンビニで絆創膏と消毒剤を買って手当てをした。



「ありがとう!それじゃ帰ろっか」


「う、うん」


何か彼女の計画にはめられた気がした。

たわいも無い話をしながら帰っていると時間を忘れてしまう。

彼女との時間はあっという間に過ぎ、先に僕の住んでいるマンションについてしまった。


「僕の家ここだから。また明日」


彼女の方を見ると彼女は口を開けて立ち尽くしていた。するとなぜか嬉しそうに笑顔で言った。


「私もここに住んでるの」

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