哀傷ゾルレン

まじりモコ

プロローグ


 ――先日、一人の少女が死んだ。


 それは世界的に見ればよくあるモノローグ。

 それでも自分ぼくは、この知らせをすぐに受け入れることができなかった。

 

 少女――伊神いがみ依琥乃いこのはもともと病弱だった。幼い頃は病院に住んでいるといっても過言ではなかったし、体調が安定し小学校に上がったあとも病院通いは続いていた。そして彼女は、自分の寿命を正しく把握してすらいたのだ。


 けれど自分ぼくは彼女が死ぬ日が来ることを、欠片も想像することができていなかった。


 遺書はなかったが警察は自殺と判断したという。

 それが自分ぼくには不思議でたまらない。あの伊神依琥乃が、誰にも何も告げずに、なんの目論見もなく孤独に死んでいったなんて、信じられるはずもなかった。


 つまり彼女の死は、依琥乃いこのという人物を知る全ての人間にとって、世界の終わりよりもよほど衝撃的なニュースに他ならなかったのだ。


「いつか、私の図像を解き明かしてみて」


 高校の卒業式で彼女にそう言われた意味も、自分ぼくは深く考えたことがなかったというのに。


 だから今動き出そうと思う。あの傲慢で、自分勝手で、出会う全ての人間を愛しているような、寂しがり屋な少女の本当の姿を、きっと自分ぼくはこの手で解き明かさなきゃならない。


  イコノグラフィー。


 彼女の描いた人生の図像ずぞうを。


 彼女が何を考え、何を行い、何を成したのか。


 それを知ることが、きっと伊神依琥乃の死の真相に繋がっている。


 そうして自分ぼくは知らなければならない。彼女の問いかけに、確かに答えるために。


 伊神依琥乃を取り巻く自分ぼく等の、本当の存在意義というものを。


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