第15話 運営事務局

本当に、ふざけている場合ではない。


3年後の夏、地球に隕石が落ちてくるということが分かった。


その隕石衝突回避のための国際会議を、俺が運営することになったのだ。


そう、この俺がたった一人でな!


24カ国、200人の研究者に案内メールを送る。


今回は緊急国際会議になってしまったので、俺も慌ただしいが、呼ばれる方も慌ただしい。


世間一般にはまだ情報公開されていないため、会議の内容自体も極秘会議になった。


24カ国、200人の緊急極秘会議。


いったいどの辺りが極秘なのかって? 


俺だって知らねーよ、極秘だって言われたから、俺もそう言ってるだけ。


アースガードに加盟している団体各所にも、同じように連絡をいれて、

さて、問題はここからだ。


ガンガンに送りかえされてくる返信メール。


ホテルの備品内容の照会から、空港までの道案内、電車のチケットの取り方? 


そんなもんは、現地で自費で購入するんだよ! 


テメーら本当に学者か、国際会議とか出たことないのかよ! 


来るって言ってたのにキャンセルになったり、申込書とメールでの人数の報告が違ってたり、その返信を要求したのに、いつまでたっても返事が返ってこなかったり……。


あ? 会議の抄録? んなもんねーよ、緊急会議だぞ! 


しかも極秘って言ってんのに、結果だけを知ろうとするんじゃねー!! 


観光案内? 眼鏡橋に行きたい? コロスぞ。


ビザの申請は、自分でやってください!! 


エアコンの調節? 加湿器? 


そんなもん、ホテルに来てからそっちで直接聞けやぁ!! 


は? 外国人新幹線乗り放題パス? もー、そんなのパスパス! 


全部、無視だ無視!


『現在、お調べいたしておりますので、折り返し返答をお待ちください』


『地図を添付しておきました。おこしのさいには、ぜひ参考になさってください』


『来場者、人数確認の案内メールは届いておりましたでしょうか、確認をお願いします』


俺も、大人になったなぁ~。本気でそう思うよ。


社会人って、マジオトナ。


『観光案内のページを添付しておきます。ビザに関しては、そちらの日本大使館にて、お問い合わせください』


『今回は、緊急会議にて、内容に関しては、極秘にお願いします』


……。あぁ、疲れる。


そんなメールを、世界中に送りまくってる俺って、なんなの? 


緊急、極秘会議の内容を世界に向けて、絶賛配信中って!


また変なメールが来た。会議費用の負担割合? 


あーこういうの、頭痛いから、上司っしに丸投げね。


せんぱーい、お願いします。


参加者の名簿作れって? 


まだ全員からちゃんと返事来てないのに? 


ドタキャン臭わせてるヤカラもいるのに? 


会場案内図と、セクションごとの会場図ね、分かったそれは作る。


最寄り駅からの道案内も、やりますよ、やればいいんでしょ? 


泊まるホテルの部屋も、料金表出さなきゃいけないのね、


いい部屋はいくつかおさえとけ? 費用割りのVIPがいんの? 


計算ややこしくすんなよ、全員一律で計算させろよ。


全体会合の進行表? 一体何回目だよ修正はいるの、ちゃんと出来てから持ってこいや。


時間表記がおかしい? お前の頭がおかしいんだよ。


返事が来ない、連絡まだか、あれはどうなってる、これはどういうことなんですか……。


さぁ、どういうことなんでしょうかねぇ、なんなんでしょうねぇ、分かりませんねぇ……。


分からないって言ってんだから、分かれよこのクソが。


あー腹が減ってきたなぁ、なんか食べたいなぁ~。


そうだ、今日は帰りに、あのラーメン屋に寄ってみようかな、ずっと気になってたけど、行ったことなかったんだよねー、いっつも、いいにおいしてっけどさぁ。


は? 議事録はどうするかって? 


なにそれ、おいしいの? 俺いま腹減ってんだよねー、後にしてくんない? 


後っていつかって? 


俺の気が済むまで、永久に後だよ!!


半角の文字とか全角の文字とか、書体とか改行とか知らねーよ。


直せって、この俺に言ってんのかぁ? 


何様のつもりだ、ふざけるな、テメーが直して持ってこい。


表の位置がちょっと斜めになっているのは、印刷の時の紙の位置がちょっとズレただけですので、あなたの命に別状はございません、ご安心を。


判子の名前がずれてるとか、斜めじゃなくてまっすぐにつけとかさぁ、そんなの学校で習った? 


ナナメだろうがサカサだろうがカスレてようが、ついてりゃいいじゃんついてりゃ、そんなのどこの憲法に条文化されてあるんだよ、その条文もってこいや。


いっそのことサインにしちゃおーぜ、外人はそうだろ、グローバルスタンダードだぜ、手書きサインでOK? 


汚すぎて字が読めない? 手が疲れる?

 

判子のために、書類書き直す方が大変だっつーの、なんなら自分で書き直せ。


あぁ、もうこれっていつまで続くんだ? 会議が終わるまで? 


だって、終わってからも支払いの手続きとか、議事録とかあるんだろ? 


来場お礼メール? お前らが俺に感謝しろ。


俺は大体、人の世話をするために生まれてきたんじゃねー、人に世話をされるために生まれてきたんだ、そこんとこを間違ってもらっちゃあ困るんだぜ! 


分かってんのか??


「おいコラ、杉山」


俺の天敵を通り過ぎて、面倒くさい仕事の案件を、容赦なく回してしまえ係になった、心優しいデキる先輩、香奈サンがやってきた。


「なんでしょうか」


「テメー、メールの下書きみせてきて、それでよかったら全員分送信しとけって、どういうことだ、テメーが自分で送信しやがれ」


「だって、文書がオッケーだったら、後は送るだけじゃないですか、それくらいやってくださいよ」


「それがお前の仕事だろーが、送信ボタン押すだけだろ」


「そういうワケにもいかないんですって! 宛先ごとに、フォルダー振り分けないといけないんですから!」


「それを作ってやったのも、私だろ!」


「だったら、もうちょっと手伝ってくれてもいいじゃないですかぁ~」


あぁ、近くで見る香奈先輩の顔は、やっぱり小さくて、いいにおい。


めちゃくちゃ怒ってるけど。


「お前のせいで、こっちの手間が二重三重に増えてるんだぞ。おい、知ってるか? 私がお前のために考えてやった、あだな」


「世紀のイケメンでしょ?」


「お前こそ、うちに落ちてきた厄介な隕石だ、しかも爆心地は私!」


「隕石? あー、メテオですね、ショウターが翔大なら、俺はメテオで、愛でる夫で、愛夫、メテオですねー、なんかやっぱり愛されてるってかんじー」


今日の決まり手は、正拳中段突き。


しかも、きっちりとみぞおちを狙ってきた。


俺がやっかいもの? そんなの、言われなくても知ってるよ。


このまま倒れていたい。

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