第9話ピーチクパーチク
川沿いの道からは中央小学校の丸いドームは見えません。いったいどれくらい歩けばいいのか見当もつかない中、歩いていると何やら騒がしい声が聞こえてきました。
「この卵はどう見ても私たちには大きすぎます」「大きい。大きい」
「仲のいいあなたたち夫婦ならできますよ」
「よそ様の預かるほど余裕はないのよ」
「オレのとこ置いてると、壊しちまいそうでヤなんだよな」
「いっそのこと、みんなで食べて終わりにしませんか?」
見ると屋外に置かれたテーブルで一羽のカラスと二羽のハトと五羽のスズメが一つの卵を囲んで話しこんでいます。ケンカが始まりそうなメンバーだな、とアリスは思いました。
ちょっと会話が途切れ、気まずそうな雰囲気だったので、アリスはそっと通り過ぎようとしたのですが、視線がいっせいにこちらに集まった気がしました。
「どうだろう、あの子に頼んでみるのは?」
「それがいい」「それがいい」
「ちょっとそこの可愛いおじょーさん」
アリスは気づかないふりをして通りすぎるつもりでしたが「可愛い」に反応してちょっと立ち止まってしまったので、仕方なくちょっとわざとけげんそうな表情をしながら、
「なんでしょうか?」と言ってしまいました。
「この栄誉ある卵をあなたに進呈したい」
「わぁーいいこと」「うらやましい〜」
「なんなのですか?この卵は」
「いや、これはいわゆる卵ですよ」
「あなたが産んだ卵なんですか?」
「オレは産みませんが、単なる卵ですよ」
「どうしたらいいんですか?」
「ふ化するまで預かってもらえればと」
「あずかって」「あずかって」とピーチクパーチク口々に言い出しました。
「え? ヒナをかえすんですか? 無理ですよ。鳥ではないですもの」
「大丈夫、温めていれば勝手にふ化しますから」
「すぐにどこかにぶつけて割ってしまいますからムリですよ」
「大丈夫、このガチャポンの容器に入れておきますから絶対に割れませんよ」容器に入れてカンカンとテーブルに落としてみせるカラスさん。
「だいたいどうしたんです? この卵」
「カラスさんが、朝のゴミあさりの時に拾ってきたんだそうですよ」
「きれいな丸い姿を見つけたので思わず持って帰ってしまったんですよ」続けて、
「いざ持って帰ったら飾ってても落ち着かないし、食べるのももったいないし、温めるなんてオレにははなから無理だし、誰か世話してくれないかなとみんなに相談してるのさ」
「まあ、勝手だこと」
「やむにやまれないことってキミにもあるだろう?」
「元の場所に戻してきたらどうかしら?」
「ゴミに出せってことかい? 絶対にやだね。せっかく取ってきたのがムダになる」
アリスはゴミから拾ってきたと言う卵をマジマジ見ました。
「コレは単なるゴミに出した賞味期限切れの卵じゃない。絶対ぜ~ったいふ化なんてしないのよ」
「いやいやふ化する可能性はある。ただ飾っておくなんてこと、できるわけないだろ! あんたバカカァ! カァ!」
「もう勝手にすればいいのよ!」あきれてアリスは後ろを向きました。するとハトさん夫婦が、
「やさしいお嬢さんならできますよ」
するとスズメさんたちが、
「可愛いお嬢さんならやりとげてくれますよ」「そう、そう。そう、そう」と急に優しく口々に言い出しました。
そこまで言うなら仕方ないかな、と思って振り返るとその場にいた鳥さんたちはいっせいにバタバタっと飛び立ったのです。
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