第三章
第十五話 「町長の噂」
♢
うららかな日差しが、歩いている俺の肌を照らしている。
俺が”世界最強”となったあの日から、もうすでに約2日が経過していた。
そして、俺は今。消息を絶った、アローラさんの一人娘マーヤを見つけ出すべく
だだっ広い、街を入念に調査していた。
無論、怪しまれたら困るので真っ黒なマントを羽織っている。これは、旅の通行人と思わせる為のトリックだ。
「ふぅー」
深い溜息と共に俺は、近くの噴水に腰かける。
太陽光に照らされて、輝く透明な水しぶきを遠目で眺めながら俺は春を一人寂しく感じていた。
丸一日、マーヤの足取りを追っていたがマーヤに関しての事は何もつかめていない。
無論、地下トンネルへ消えた男達の事も……。
――ん!? 地下トンネル!?
完璧に忘れていた、そうだこの街には地下トンネルが多々存在する。
そこへ行けば、なんらかの情報を掴めるかも知れない。
※※※※※※※
前来た時同様、トンネル内はジメジメしていて肌寒い。
そして、俺はオーロラに前貰った。魔法の詠唱が綴られている紙を手にしていた。
「えーとー、”光の精霊よ来たれ ライト”」
俺がそう述べた途端、左手から光の玉が出現した。その、光の玉は悠々と空中に浮かんでいる。
先程まで、真っ暗だったトンネル内が明るく照らされ、今まで見えなかった物も見えてきた。
「へえーこれが、“ライト”か……」
うん。思ったよりも明るいな。
オーロラに聞いた所、俺は全属の魔法が使えるらしい。それで、俺が今使った魔法は、光属性の"ライト"と言う魔法だ。
下級魔法らしく、魔力の消費は少ない。
まあ、魔力ゼロの俺にとっちゃ何も関係ないのが。
他にも色々、教えて貰ったのだが……。
この薄暗い、トンネルで使える魔法は。
「サーチ?」
"サーチ"と言う名前で綴られている魔法。
どうやら、これは個人魔法の様だ。
「サーチ!」
俺がそう唱えると、脳内に次々とトンネル内部のマップが表示されていく。
なんて言えばいいだろうか? ――こう、目で見たマップをそのまま脳に伝えている感じだ。
うん……意味が分からない。
トンネルは地下深くまで続いている。そして、最下層には大きなドーム状の空間を確認できた。広さは、約100メールと言った所だろう。そこに通じる道は無数にあるが、所々崩れているのがわかった。
「はァ……」
俺は、小さく溜息を吐くとサーチで確認した道を進んで行く――。
結構進んだ気がする。
サーチでは気が付かなかったが、所々階段が存在していた。
そして現在、第三階層と掘られた岩の前で立ち止まっている。
なんだろう……この感じ、昔どこかで感じた事のある感覚……。
それは――ド○クエの地下迷宮だ。
だが、未だ俺はモンスターと遭遇していない。という事は、地下迷宮ではないのか?
俺はそんな推測を立てながら再び足を進めた。
「ここは……?」
数分、歩いていると。サーチで発見したドーム程ではないがそこそこ大きいくうかん空間に出た。大きな、魔族像が数体立ち並んでいる。――その光景は、ただでさえ怖い感情をより深めさせる。
ドンッ!!と、大きな音が鳴り響く
俺は、音の出どこを真っ直ぐ見つめると、石の門が俺進んで来た道を封鎖していた。
魔法を使えば破壊できそうだが、ここは街の真下そんな事をすれば街がこの地下に沈んでしまうのでやめておこう。
これで、引き返せなくなったな……。
サーチで、現在地を確認したほうがいいな。
「サーチ!」
現在地は、三階層。”魔族の間”と書かれている。
おそらく、魔族像があるからだろう。
――他には、何もない。あるのは地下深くに存在するドーム型の空間だけだ。
「んー、戻るか……」
何と無く、身の危険を感じたので俺は地上に戻る事にした。
「”テレポート”! 」
テレポートは、個人魔法の一種で一度訪れた場所に、移動できる魔法だ。
この魔法は中級魔法で使える者は上位職の魔法使い系統の役職に限る。
俺が、そう唱えた途端。足元に魔法陣が出現し青く光り始めた。
そして、何も見えなくなった―――。
目を開けると、そこはついさっきまでいた噴水広場であった。
相変わらず、空は快晴で街の人達も活気に溢れ、広場で遊んでいる子供には笑みが咲いている。
いつもと変わらない光景だ。
だが、トンネル内部にもマーヤについても足取りは無かった。
そうなると、マーヤはもう……。
「まあ、ユウタここで何をしているんですか?」
声が聞こえる方向に振り向くと、そこには紅の瞳、紅の髪の毛をしたオーロラがこちらを見ながら小さく手を振っていた。手には、布の袋を下げているので、買い物の帰りだろうか?
と言うか、マントを着て顔を隠している俺がよく分かったな……。
「ああ、オーロラか。失踪した、少女についての手がかりを探していた」
「まあ、失踪?」
「うん。つい先日、服屋の一人娘マーヤが失踪したらしい。しかも、その何週間か前にマーヤの友達も失踪しているんだ」
「フムフム、それは怖いですね……」
「で、俺はその失踪したマーヤを探していた訳」
「あ!」
突如、何かを思い出したかの様なそぶりを見せるオーロラ。
「そ、そういえば! ここ、だけの話ですが……町長が何らかの計画を進めているんだとか……まあ、噂ですけどね」
「待て! 詳しく!」
そう言って俺は、オーロラに詰め寄った。
オーロラは、頬を赤くしながら俯いている。
「わ、わかりました。では、どこかのお店で……」
「ああ」
そして、俺とオーロラは近くにあったカフェに行くことにした。
店内は、オシャレな飾りや照明が設置されていて、女子が良く来そうなお店だ。
まあ、俗に言いうインスタ映えというやつだろう。
「それで、ユウタさん……先程、の話をします」
「うん」
「この噂が私の耳に入って来たのは、ユウタさんが異世界転生してくる数年前の話でした。丁度、その噂が上がった時期にこの街の町長が変わり新しく、ファクト・アルバームが町長となったのです」
「ファクト・アルバーム?」
「はい、昔は優しく穏やかな方だったらしいのですが……、この街の町長になった以来、性格は真逆になって秘書を殴ったり蹴ったりと暴力的になってしまったらしいのです。そして、裏では奴隷の売買を行っていると言う噂が……」
「奴隷の売買……」
この国では、奴隷制度があり。ある罪を犯した人や国が定めた税金を払えない人々が地主や農家に奴隷として買い取られる。
酷いと感じるかもしれないが、この世界ではいたって普通な事なのだ。
「なあ、オーロラ。 スパイとかする時に役立つスキルや魔法ってない?」
「まあ、ある事はありますが……なんの為に?」
「まあ、ちょっとな……」
そして俺は、影で不敵な笑みを浮かべた。
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