第二章 

第八話 「新しい仲間 上」


「はああああああああぁぁぁ―――ッ!?」


――早朝、街の宿全体に俺の華麗な叫び声が響き渡る。


「ユウタ……おはよォ」

「どうして!? ――どうして、お前がこの宿に!? と言うか、どうして俺のベットにいるんだ!! それも、全裸で……」

「ん……夜這い?」

「おい、いまなんつった」

「夜這い!! 」

「なに、自信満々に言ってんだよ!! 」


そんな、場合じゃない……今、俺の身に起きている事をマリアになんて見られたらあああああああァァァァ!!

如何やら遅かったらしい……と言うか。なんでこんな時ばっか起きるの速いんだよ。


「ユウタ――ドーナツ?? 」

「は? なにいってんだコイツ」


マリアは目を開け閉めして寝と起の間をさまよっている。

――それに対し、俺は緊張のせいか体中に汗を流していた。


「そ、そうだぞー。ドーナツだぞー」

「あはは……美味しい……」


そう呟いた後、マリアはゆっくり輝く碧眼を閉じ、再び眠りについた。

そして、俺は極限静かな声で……


「おい、お前なんでここにいるんだ?」

「そんなのォ、あの女からユウタを守る為だよォ」

「なにいってんだお前……それと、俺に馬乗りするの止めてくんない?」


フフフ……甘いな甘すぎるぞアルレナ!!

この、ヒキニート&二次元オタクの俺が不登校の間、何をしていたのか知らないであろう。毎日毎日毎日毎日毎日毎日―――………『ギャルゲー』に没頭し、一つでも選択を間違えれば、一瞬で怒ってしまう彼女達を全員制覇した俺からすれば、こんなイベントなぞ……ぬるすぎるわ!!


「む……ユウタなら欲望を抑えきれなくなって私に飛びついてくると思ったのにィ」

「そうかそうか、残念だったな。それじゃあ、早く降りろ。」

「やだァ、降りてほしかったらもう一度キスしてェ」

「するかああああああああ!! 」

「なんでェー? いいじゃァん……」

「お前な、俺は好きでもない女にキスをするなんて悪質な趣味は無いぞ」

「ふーん、この前したのにねェ」

「やめろおおおおおおお!! あれは、仕方なかったからだ!! てか、お前が言うな……」

「フフフ……」


突然、アルレナが不敵な笑みを浮かべながらこちらを見る。

――それに対し、俺は鋭く尖った視線をアルレナに向けた。


「なんだよ、そんな。変な笑い方して」

「いやァー何でもないよォ」

「――――――」


怪しい。メチャクチャ怪しい。

俺は、ただでさえ細い目をさらに細くし、視線を逸らすアルレナを静かに観察をする。

――まあ、シャーロックホームズでも無いから、なんも分かんないけどね……


そして、アルレナはを懐から取り出し……


「どうしたのォーユウタ?」

「――お前、何で左手にを持っている」

「んん? なんおはなしィ?」

「だ・か・ら!! お前が今!現在!左手に持っている短剣は何に使うんだ!? 」


なんか、こう言う流れつい最近やった気がするぞ……。


「別にィ。 そこで、スヤスヤ気持ちよさそうな寝顔で寝ている女を殺そうとなんてェ思ってないよォー、うん。全然思ってないィ」

「おい、もう自分で目的言ってんじゃん……」

「んん……?? 」


――如何やら、目的が完全にバレたのに惚けを貫き通すらしい。


「んん……??じゃねえ。置け、その剣をテーブルに置け!! そして、俺から降りろ!! 」

「分かったァ、おくねェー」


そうを強く強調した言い方でアルレナは剣をベットの横に置いてあるテーブルにそっと置いた。

で、再び俺の上に馬乗り……。


すいまェん、お願いいたします。降りてください。

じゃなきゃ、僕の心が勝手に暴れてしまう。嫌です、異世界まで来て幼い子を襲ったなんて事になったら……。

俺の人生、バットエンド間違いナシ!! 


俺の心からの叫びの聞こえないアルレナは、馬乗り体制から俺の背中に回り込み温かい布団の中を無探る――。

無論、相手は全裸な為、当たる物はしっかりと当たっている。

いくら、ギャルゲーマスターの俺でもこの展開は色々マズイ……。


「ユウタ? どうしたのォー」

「え……、な、なんで。君は俺の布団に入ったのかな?」

「寒いからァーだよ?」

「おーそうかそうか……じゃねえ!! 」


――そうして、俺は相手の気が緩んだ隙に思いっ切り身体をくねらせ蛇の様にベットから脱出した。


「ちッ!! 気が緩んだァ」

「おい、今の発言はおいだぞ、おい」

「ユウタのバカ……」

「ふん……甘かったな!! アルレナよ!!」

「――ユウタ、次はないィ」

「いや、結構です。 もう二度としないで下さい。てっ!! 早く服着ろ!!」


俺が慌て気味でアルレナに命令を下すと、アルレナはいやいや床に脱ぎ捨ててある竜使い特有の真っ黒な服を手に取りゆったり着ていく。

出来れば早く着て欲しいのだが……。

まあ、ここでせかしてもまた面倒な事になりそうなのでやめておこう。


そこで、俺はふと思ったのだが

俺、なんかアニメの主人公みたいな展開を――。


「あ、おはよう。ユウター」


変な妄想をしていた矢先、ようやく目が覚めたのか。マリアが寝起きのバカっ面で俺に話しかけてきた。

あと数分マリアが早く起きていたら俺は、一生少女を襲った変態ニートとして扱われていただろう。


「あ、ああ。おはようマリア」

「ねえ……私どうなったの……?ここは天国?ユウタも一緒に死んじゃったの?」

「死んでねェよ。と言うか、お前も死んでないぞ」

「え? 確かあの時……私は、魔王軍の歩兵に頭殴られて――」


いや、歩兵じゃないぞ。今ずぐ近くにいる魔王軍幹部さんに頭なぐられたんだ

なぐられたんだよ。


「……ああ、門兵の横で倒れてた。そこを、俺が助けたんだ」


俺がそうマリアに告げると、マリアは目尻から透明な輝く涙を流して――


「ぶわあああああぁぁぁ!! ありがとおおおおおおお!! ユウタあああああぁぁぁ!!」

「わ、わかったから。離れろ!! 」


『『うるせええ!! 今何時だと思ってんだ!!』』


――突如、隣りの部屋から怒鳴り声が聞こえてきた。

多分、俺達以外の宿客だろう。


その怒鳴り声を聞いたマリアはわなわなと、その小さい肩を震えさせながら怯えて俺に縋り付いてくる。


悪い気分ではないが……。

俺の後ろで、短剣を持っている少女――アルレナが俺にその短剣を向けているので離れて欲しいのだが……


「あれ? ユウタ……新しい仲間?」


――おい待て、それはマズイ。非常にマズイぞ


俺の後ろにいるアルレナに気付いたマリアは、何も知らずに新しい仲間だと違いをしている。目の前にいる少女が自分を気絶させた、魔王軍幹部だと言うのに。


「はいィー。ユウタの新しい仲間です! 」

「おい、それはやめるんだ。おい……」

「そうなの!? 名前は?? 」


俺の言葉を聞かず、完全に騙されるマリア。

そんな、マリアを見たアルレナはコイツ余裕~みたいな表情を浮かべたのもつかの間、百点満点の笑みをマリアに目一杯向けている。


「はい!アルレナです! 」



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