人と魔物とステファのカナタ

白猫 恵/ 灯

プロローグ







「どうやら、俺は死んだらしい」


唐突に起きた現実を俺は、未だ受け入れられないままでいた。

そう、確か俺はお風呂に入っていた筈、……なのにだ。

何故か真っ暗で何も見えない空間に閉じ込められている。


それも、全裸で。


「ようこそ、山本 ユウタさん。貴方は先程。フフ、お風呂場で……立派な死を遂げました……っ」


突然、真っ暗な空間に響く美しく透き通った声。

ユウタは、その声が聞こえてくる方向を向きその声の持ち主を探す。

すると、ユウタの目の前に足を組みながら椅子に座っている女性が一人。

金髪碧眼の美少女で、ほっそりとした身体、たぶん俺と同年代位だと思う。

身体がキラキラ輝いていてまるで、女神の様な感じ。


で、その女神は真っ白な肌を少し赤らめ笑うのを必死で堪えている。


「あの……」

「はい? なんでっぶ! しょうか? 」


この女、今笑ったぞ。

全裸の俺を見て、笑いやがったぞ。


ユウタは、視線を自分の体へと向けた。

目の先にあったのは、家に引きこもってろくに日光にあたってい無い。真っ白な裸。

そして、顔を赤面にしながら。


「いやあああぁぁぁ! 見ないでくれええぇぇぇ! 」


乙女の様な叫び声を上げた。

そんなユウタを見た女神は今にも吐きそうな顔をしながら。


「あーはいはい。おぇ……そんな二次元オタの全裸なんて全く興味無いから。さっさと、着替えて」


女神は適当な仕草でそう一言告げると、自分の指をパチンと鳴す。

と、同時に真っ暗な空から布で出来た服とズボンそして、黒のマントが落ちてきた。

どうやって、出したのかは定かでは無いが女神的な力を使ったのだろう。


そして、音速で着替えた俺は目の前にいる女神を見ながら口を開いた。


「あ、あの……ここは? 」

「え? ここ? 『死の門』だけど、なんか名前が怖いから私は、『天使のエレベーター』って呼んでるわ」

「えーとー、その『天使のエレベーター』は何の為に? 」

「んー簡単に言えば、天国行くか異世界転生するかのどちらかを貴方が決められる空間ってとこかしら?」

「え……?  今異世界転生って言った? 」

「ええ、言ったわよ? 」


ん?


俺、まさか勇者とか最強魔術師とかになれるんじゃ?

そんな気持ちで心をワクワクさせているもつかの間。


「でも、最強とかチートとか無いけどねー」

「はああああぁぁぁぁ――ッ!? 」


真っ暗な空間にこだまして響きわたる叫び声。


「え!? 異世界転生って、チートとか最強とかじゃないの!?」

「何言ってんの! そんなの、当たり前でしょ? お風呂で死んだ二次元オタクにそんな最強の能力とかチートとか渡せる訳ないじゃん。て言うか、勇者ならついさっき転生しちゃったわ」


もはや、出会った時の美しさは消え今では只のウザい女になっている。

ヤバい。コイツ、ブン殴りたい。


「え? まてまて、勇者はいるのね? 一応」

「ええ、もちろん最強のね」

「で、俺は……?」

「あんたは、只の人間」

「何で――!? おかしいだろ!」

「いやー、ちょっとね? 私のミスで貴方間違えて死んじゃったらしいわ」

「は?」

「ホントは、頭打って気絶して終わりだったんだけど、私が間違えて殺しちゃった。てへ!」


なんかこの人、とんでもない事さらっと言ってるうですけど。それに最後、てへ!とか言ってるし。そして、俺の冷めたい視線を察したのか女神は自分の髪をクルクル絡めて遊びながら、女神は目を逸らした。


「おい……」


「て言うか、アンタどうやったらお風呂で死ねるのっぶ! いくら私がみすったからってあんた弱すぎでしょ! どうして、死んだんだっけっぶ!」


いや今、完全に話逸らしたよな?


「いや、足を……」


言いたくない、足を滑らせて死んだなんて……


「っぶ! はははははー! 足をっ滑らせるなんてえええ!」


吹き出し、そして俺を蔑む女神。

コイツ……


「あああああああぁぁ!! やめっろおおおおお!」

「ぶっ! ははははっはは! ヤバいヤバいわ! 長年、女神やってきたけどお風呂で足を滑らせて死んだ人なんてそうそうい無いわよ! アンタある意味、勇者より最強よ!」

「うるせえええ! 俺だって……てっ言うかお前が殺したんだろ!」


俺は、間違った事を言ってい無い。

だって、こいつが俺の事殺さなきゃ俺は、気絶で終わってた筈だ、なのに……

それに対し、女神は冷静沈着な表情に戻り口を開いた。


「あーはいはい。もう、うるさいから、さっさと転生させちゃうね」

「いやいやいや、あんたの手違いで、俺死んだんなら何か……能力を!」

「いや、無い。それは、絶対に無い。」


即答。

反省している様にも見えない。


……ホントに殴っていい?いや、いいよな?


「はあーもう、さっさと行きましょうよー異世界、私もう限界」


軽いため息を吐き、眠たげな表情でフワーとあくびをしている女神

そして突如。


「え……? 嘘でしょ……」


先程まで、俺を馬鹿にしていた目が一変し死ぬ間際の目に変わる。

俺は首を傾げた。


「なんか、あったのか?」

「い、いや……嘘よ、絶対嘘よ!」


小さな肩を――ワナワナ震わせながら、一人呟く女神は、その後。


「いやあああああぁぁぁ!!なんでえええ!私が!?」


頭を抱えながら大声で叫び始めた。

うるさい。いや、まあ俺もさっき叫んだから言えないんだけど。

あの表情からすると、なにかとんでもない事があったようだ。


「え? どしたの? 」

「なんか……神様が貴方も一緒に異世界転生させちゃうねっ! だって……」

「ぶっ! ははははははは! ざまあああああああ! さっきまで、蔑んでいた。男と同じ立場とか! てか、急展開すぎんだろ!」

「いやああああああああ!」


――女神は瞳から、ウルウルと涙を零し現実から逃げようとする。

それに対し、ユウタは不敵な笑みを浮かべながら。


「さあああ! 行こうかああ! 異世界によおおお!」

「いやあああああああ! やだああああ! こんな、二次元オタクと異世界なんて!」


おい、最後どうした。おい。


((それでは、転生を開始します))


空から美しい声が聞こえてくる。

この声が、神様なのか?


まあ、いい。

これから、俺の第二の人生の幕開けだ。


真っ暗な空が突如、輝き。魔法陣らしき物が生成されていく

そして俺と、隣で未だ抵抗を続けている女神が白い光りに包まれ


何も見えなくなった。








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